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パーティーでの危機3ー2

先ほどの男性が戻ってきた。

「申し訳ありませんでした。今確認が取れまして魔道具ではなく、本当に希少価値が高いネックレスだったんですね。無知なもので申し訳ありません。100年ほど前まで作られていたネックレスなんですね」

100年前の代物?

聞いてないわ!

アンティークの宝石って事は高いのかもしれない。

首と耳にぶら下がった物の価値を想像して震え上がりそうになるが、これは任務。

これは仕事。

自分に言い聞かせる。


「魔法石としては価値が無くても、先祖に伝わるものですから」

平静を装い返事をして会場へと入ると、薄暗い通路になり、いきなり波が押し寄せてきた。

魔法で作られた半透明の波で、腰の高さを通過していく。

触れないのに、冷たさだけは感じる。

すごく不思議。

チェルシーはなんとか波を触ろうとするが上手くいかなくて、その様子が面白い。

薄暗い通路を抜けると、星が瞬く大広間に出た。


本当に空が見えているのか、それとも外なのかどちらなのかわからない。

大きなフロアには落ち着いた音楽が流れ、椅子こそないが、軽食を食べながら小さな声で談笑したり、お酒を片手に話に花を咲かせている人たちが沢山いた。

大人の空間のパーティーだわ。


夜会というより、ナイトクラブみたい。(行ったことないけど)

大人の嗜みって感じがしてすごく素敵。


給仕が歩いてきたのでシャンパンを貰おうとすると、コーディが止めた。

「ここより奥のフロアに行こう」

「まだ奥があるの?」

チェルシーの質問にコーディはにっこりと笑って両手を手を差し出す。

「当然だよ」

私達をエスコートしたいようだが、私が手を出さないのでチェルシーも同じように手を出さない。

「エスコートは不要?」

さっきまでと態度が少し違うのは、ネックレスが本物だとわかったからなのだろう。

「いらないわ」

「私も大丈夫よ」

ちょっとツンケンした私の言葉とは違い、チェルシーは優しく答える。


どんなお料理があるのかとか、どんなお酒があるのかとか見たいわ!

でもコーディが先へと進もうとするので、壁際のテーブルに行けない。

「私、何かいただきたいの。だからコーディだけ奥のフロアに行ってくださらない?」

「君達を招待するように言われたんだから、とりあえず主催者に挨拶をしてから、自由にしていいよ」

確かに言われればそうだわ。

「君たちは貴族のしきたりを知らないから仕方ないよ」

嫌味ではなく当然と言った感じで言われたので、自分の無知を晒したようで恥ずかしくなる。


「でも、カーテシーは不要だし、相手の爵位を聞いてもいけない。男性は身分を明かさないパーティーだからね」

「教えてくれてありがとう」

チェルシーがお礼を言うとコーディはにっこり笑った。

「さあ奥へ急ごう」


その時、楽しそうに談笑していた数人の男性グループのうち1人がこちらに気がついて、コーディにたいして手を振る。

「コーディ!」

名前を呼ばれたコーディは立ち止まり、男性を見ると騎士の礼をする。

爵位は関係ないと口では言っているが、暗黙の上下関係があるのではないかしら。


男性は会話の輪から抜け、こちらに歩いてきた。

髪はブルーで、私達と同じく顔の半分を隠した仮面をつけているが、隠しきれないオーラがある。


「ロミオ様!」

コーディが嬉しそうに握手を求める。

「ちゃんとレディー2人とともに来てくれたんだね。ここからは僕がエスコートするよ」

親しみがこもった声で答えた後、コーディを抱擁した。

「それではお願いします」


ロミオ様は、さっきまで話していた一団に手を振るとこちらを向く。

立ち居振る舞いからして、かなり位の高い方なのだろう。

言葉から異国訛りが感じ取れるので、他国暮らしが長い高位貴族なのか、はたまたお母様が他国に嫁いだ方なのか。

これだけでは判断材料にはならない。

「すごく華やかで美しいレディ達だね」

ロミオ様は、私達の周りをくるりと一周してから、チェルシーと私の間に立った。


愛らしい仕草の方だ。

男性なのに、庇護欲が湧く雰囲気で、本人もそれを利用した立ち居振る舞いをしているようだ。


「さあ、みんなでパーティーを楽しもう!今日は堅苦しいパーティーとは違うからね」

私達に両手を差し出してきたので、私は右手を、チェスシーは左手を取る。


ロミオ様の態度は『女性2人より俺の方が可愛い』と思っているようだ。全くいやらしさや下心が感じられなかったので思わず手を取ってしまった。

この雰囲気を醸し出されると、大抵の女性は気を許してしまうだろう。

私は誤魔化されないけど、チェルシーみたいなタイプは危ない。

チェルシーが余計なひと言をいいませんようにと祈りながら会場の中を進むと、大きな広間に出た。


大聖堂のように幾何学模様があしらわれたドーム状の高い天井は間接照明で照らされ、まるで万華鏡のようだ。

そこに沢山の人がダンスや談笑を楽しんでいる。


トランペットやピアノなどの音が響き、曲は結構アップテンポ。

ワルツでは無く、チークや砕けたダンスを踊る人が多い。


演奏している人はどんな人なのだろう?

気になって音のする方を見ると、楽器がフワフワと浮きひとりでに演奏している。

人が弾いているわけでは無いし、魔道具も見当たらない。

という事は魔法で演奏しているのかしら?

魔法で演奏するとなると、楽器ごとに担当がいるはずなのに、それらしき一団は見当たらない。


「不思議そうな顔をしているね」

楽しそうにロミオ様が言う。

「楽器は誰が演奏しているのか気になりましたの」

「あれを演奏しているのは、魔道具職人だよ。ほら、壁際で四角い魔道具に楽譜を入れているでしょ?普通は演奏する魔道具にセットするのに、不思議だよね」

視線の先を見ると、リンゴ箱ほどの大きさの箱には、ポストのような隙間があり、そこに一生懸命楽譜を入れようとしているのだが、上手くいかずに楽譜が戻ってきている。


「ふふふ。楽譜を入れられないから、ずっと同じ曲が流れている。夜会ではたまにある事だから珍しくないよね?」


夜会に出たことがないから、迂闊に返事するのは辞めた方がよさそう。無知を晒さないように、にっこり笑ってごまかす。

少なくとも、カサブランカでは演奏家の生演奏だし、仮に演奏が出来なかった場合、ローズサファイアさんがアカペラで歌うから同じ曲がずっと続くなんてない。


「僕はどんな曲がかかっていようと楽しいからそれでいいよ」

事実、皆楽しそうだ。

広い会場には、本当に沢山の人がいて、談笑の話し声や笑い声にはエネルギーを感じる。


今まで、カサブランカでのパーティーを何度も裏方として見てきたけれど、このパーティーとは全く違う。

カサブランカでは高位貴族が多く、しかもどちらかというと年齢層が高い。

ローズさんが呼ばれるパーティーだからかもしれないが、大人の余裕や豪奢さを最大限に生かしているパーティーだ。

シガレットルームに、カードゲーム台などのスペースがあるのは同じだが、こちらとは違い、ゆったりと時間が流れている。

踊っている人は少なくて、多くの人は椅子に腰掛けて話をしている。

まるでサロンでじっくりと話をしている様相だった。


それに比べてここは、大半が若い人なので活気がある。

ワインやチーズを片手に持ち、立食を楽しみながら、沢山の人が次から次へと場所を移動し、談笑している。

踊っている人も多くて、すごく賑やかだ。


「ロミオ様後でダンスを」

通りすがりに沢山の女性達が、ロミオ様をお誘いしているが、誰も私達を敵視しない。

独占欲のある人はいないようだ。


「あっちのダンスの輪に入ろうよ」

ロミオ様が誘ってくれたのは、2人が向かい合い、テンポよく踊りながら、次々とパートナーを変えていく民族音楽のような踊りの輪だった。

向かい合わせに立ち、手を取って礼をした後、スカートを持ちテンポよくステップを踏みながらヒラヒラと動かした後、くるりと回り、右にズレてパートナーチェンジ。

仕掛け時計の動きみたいで楽しい。

「初めて見るダンスですわ!楽しそうですけど、ワルツなら私達得意ですが、上手く踊れるかしら?」

チェルシーは、『初めて見たからハイヒールはこの踊りを知らない』と言いたいのね。


「大丈夫。アレは山岳地帯のお祭りの踊りだから知らなくて当然だよ。でも楽しそうでしょ?さぁ輪に入ろう」

ロミオ様に連れられて私達は踊りに加わった。

初めはぎこちなかったけど、だんだん上手く踊れるようになり、ステップも上手くなってきた。

向かい合うのは男性だったり女性だったり。

知らない相手と踊るのも悪くない。

時折り、チェルシーと顔を見合わせてクスクス笑いながら踊る。

想像していた夜会とは違うけど、すごく楽しい。


「一旦休憩しよう」

ロミオ様が声をかけてくれたので、チェルシーと踊りの輪から抜けた。

「楽しかった!でも足が疲れたわ」

チェルシーは舞台俳優だから踊りは慣れているかもしれないけど、私は踊ったりしないから息が上がっている。

「こっちに休める場所があるから」

ロミオ様に連れられて、会場の奥へと進む。


「さあ、君たちはここ」

会場の一番奥は、大きなテーブルを囲むように革張りの長椅子が配置されていて、そこに5名の男性と1人の女性が座っていた。

女性はどこかで見たことがある気がするけど、仮面のせいでわからない。


入り口には体格のよい怖そうな男性が用心棒のように立っているので、VIPフロアだろう。

カサブランカにも専用フロアがあるが、本当に大切なお客様しかお通ししない部屋で、その存在自体を隠している。

しかし、ここはフロアからは見えており、あからさまにVIPルームがあるとわかるようになっていた。

というか、わからせたいんだわ。ここが特別だって。


「兄さん。紹介するね、ハーベリック伯爵家のリザリー嬢とアマンダ嬢だよ」

ロミオ様に紹介されたので、カーテシーをすると、それに続いてチェルシーもカーテシーをした。

コーディは、カーテシーは不要だって言ったけど、どう考えたって必要よね。


「座ってくれ、俺はロベルト。ロミオの兄だ」

仮面のせいで口元しか見えないが、きっと端正な顔立ちなのだろうと想像できるダークブルーの髪の男性が挨拶をしてくれた。

しかし、他の人は自己紹介をしてくれない。


ていうか、ただパーティーに来てダンスをしたり、うわべだけの談笑をするとおもっていたのに、こんな風になるなんて聞いていない。

大した『設定』も考えていないから、色々と聞かれたらまずいわ。

チェルシーはどこまで演技できるかしら?


本人談では、いつも劇団の端役ということだから演技は期待できないわね。

ここに来るまでだって震えていたし、コーディに対してだって演技できないというか、嘘がうまくつけないんだもの。

「初めまして、リザリーですわ。こちらはアマンダ」

私が何か言う前に、チェルシーが自己紹介を始めた。貴族の言葉で話しているし、何よりも堂々としている。

さっきまでのオドオドした態度が嘘みたい。

というか、チェルシーって、お嬢様のフリができるんだ。なりすまし屋で貴族のパーティーにいくつも出席していただけあるわ。


「美人姉妹だね。ワインでも飲まない?」

と言いながら、有無を言わせないようにか、高いワインボトルと人数分のグラスが運ばれてきた。


グラスはコーディの実家のガルシアガラス工房のものではなく、隣国の最高級品であるベネティクト社製のクリスタルのグラスだ。

ワインといい、グラスといい、かなりお金をかけている。


その後は他愛もない話に見せて、こちらを探ってくるような質問ばかりだった。

驚いたことに、チェルシーは貴族然としていて平民だとは感じさせない。

なりすましてたくさんのパーティーに出ているだけではなく、きっとこのハイヒールを作るために貴族の対応をしているのかもしれないわ。

すごく対応がスマートだもの。


「趣味とかってあるの?」

「ええ、音楽をたしなんでおりますわ」

チェルシーが答えたので、私の番だ。趣味ね……。何もないわ。しいて言うなら、仕事かしら。

仕事を答えておけば間違いないわね。

「美しいものを拝見するのが好きですわ」

綺麗に書かれた書類は美しい。

でも、いつの頃からか輸入関税に引っかかった、美術品や骨とう品、それから宝石類をよく目にするようになった。

書類だけでなく、現物もみる機会が多い。

だから、目だけは肥えてきたわね。


「宝石も?今二人がつけているそのネックレスやイヤリングも年代物なんだってね」

触りたそうに何人もの男性がネックレスに視線を向けている。

これは、国の備品だから触らせることなんてぜったい無理。


「宝石も見るのも手に取るのも好きですわ。これは屑魔法石で出来たものですので、迂闊に触ると面倒な魔法発動することがありますから、お手に取って頂くことはできませんけど、宝石の値段よりもその造りや造形に価値を感じますのよ」

やんわりとお断りする。

「恋人はいないの?」

複数の男性のうち、誰かが質問をしてきた。

その質問にチェルシーも私も「残念ながらおりませんわ」と答える。

恋人はいないけど、偽の婚約者はいますわ。とは言えない。

その偽婚約者の役を斡旋してきたアッシャーさんによって、この夜会に送り込まれている。

あの人はハートフォード家の執事だけど、他にも役職があるのかしら?

王城から派遣されていると言っていたから、前職は近衛兵付きだったとか。なにせ謎が多いわ。

考えたらきりがないから、今は目の前の事に集中する。

大広間に戻って、沢山の招待客に紛れるにはどうすればいいか考えなきゃ。


その時、用心棒の男性が中に入ってきて、ロミオ様のお兄様のロベルト様に何かを耳打ちする。

「ロミオ、お客様がいらっしゃったそうだ」

ロベルト様は、ロミオ様に声をかけて二人でVIPフロアから出て行ってしまった。


「じゃあ、私達踊ってくるわ」

女性が一人の男性を誘い、フロアの方へと向かっていく。

残されたのは、男性2人私達だった。


「ワインにも飽きたでしょ?ちょっとカクテルでも作ろうか。僕はお酒を作るのが得意なんだ」

1人がそう言って立ち上がり、用心棒の男性に何やら耳打ちをして戻って来た。

作り付けの棚に並ぶカクテルグラスを出し、お酒を並べたところに、用心棒の男性が氷と何もラベルのない瓶をもってきてくれたので、シェイカーに入れ、数種類のお酒を注ぐ。

男性は手慣れたようにシェイカーを振り、カクテルグラスを引寄せる。


ゆっくりと注いでくれたのは、夕暮れから夜を思わせるグラデーションのお酒だった。

魔法酒だわ。

「綺麗ですわね、初めて見ますわ!」

チェルシーはあまりの美しさに感動しているようだ。

「君たちはこのお酒を見るのは初めて?」

「ええ」

「これは魔法酒だよ。魔力が回復すると言われている実で作るんだ」

「初めて聞きますわ」

チェルシーは嬉しそうだけどこのお酒は確か、輸入禁止のオレンデュイで出来ているはず。

魔力回復が見込める実だけれど、幻覚作用もあって危険な実なのよね。

そもそも魔法酒はこの国では作られていない。

魔力を含む実には大きな副作用も含んでいるものが多いからだ。

当然、お酒も輸入禁止。


何度か、密輸入しようとしているのを税関が見つけて、没収していたわね。

書類が回ってきていたし、抜き打ちの検査で発見できるように国税局の職員も知ってはいる。

夕暮れと闇のグラデーションのお酒。

まさしくこれだわ。

ただし、色は薄い。数種類のお酒を混ぜたからだろう。


こんな危険なものがあるなんて想定外だ。

もしかしたらこの二人、私達の意識を失わせて何かするつもりなのかもしれない。

貞操を脅かされるのか、はたまたこの希少価値があるネックレスが欲しいのか。

そのためにはこれを飲まないようにしなきゃ。

どうしよう…。

演技の経験はないし、大げさでわざとらしいかもしれないけど、ここは何とかしなきゃ。

何も知らないチェルシーを危険に晒せないわ。

酔っ払いのフリをして、この場所から離れることくらいしか思いつかない。


今までカサブランカで沢山の酔っ払いを見て来たんだから歩き真似くらいはできる。

「その綺麗でおいしそうなお酒を頂く前に化粧室に行きたいわ」

そう言って立ち上がり、酔っ払いの歩き真似をする。

フラフラ歩きながら振り返った。

「ねえ、足元がおぼつかないわ。何でかしら?お姉様、私を化粧室に連れて行ってくださらない?」

早くここから離れなきゃ。


「ワイン少ししか飲んでいないのに、もうそんなに酔ったのか?」

男性の声は心配そうにしているのに、口元は笑っている。

やっぱりまずいわ。


「私につかまって」

チェルシーに支えられながらVIPルームから出て化粧室に入る。

洗面台とメイク台が並んでいて、その奥に個室があるつくりで、かなり広い。

とりあえずメイク台の椅子に腰かけると、隣に座ってくれた。


あのお酒があるという事は、普通じゃない。

どこにどんな仕掛けがあるかわからないわ。

「大丈夫?」

心配そうに言ってくれているチェルシーは何も知らないし、この状況になっても、ただ単にパーティーを楽しんでいるだけだ。

「気分が悪いのなら、コーディに言ってもう帰りましょうよ?」

チェルシーは本当に心配してくれている。



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