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ダニエラはどんどん深みにハマる3-2

半数が王宮から派遣されてきた人材だと聞いて納得したわ。

皆、拭いきれない品が見え隠れしている。

爵位は関係ないと最初にアッシャーさんに言われたけど、皆、貴族の娘なのだろう。

爵位の序列イコールお金持ちではないので、この言葉も納得だ。ウチよりもお金持ちの平民だっていっぱいいるし、本当に落ちぶれて体面が保てない高位貴族だって存在する。

我が家は、内情がバレないように偽れる財力はかろうじて残っていた。


セオドリック様を脅すように起こしたりとかは、やりすぎ感も感じるが、メイド達は、一切セオドリック様に触れないので、キツイ言葉で行動を促すしかないのだろう。


私も、兄に言うことを聞いてもらいたい時は、キツイ言葉で罵ったりするのでそれと同じなのよね?きっと。

しばらくは経理の仕事が無くなったのでメイドの仕事に徹する事にしたが、『チェルシーとエラ』の仕事も相変わらず忙しい。


仕事が終わったら着ぐるみを着て、チェルシーと実演販売を行い、週末はカサブランカでローズさんにメイクをする日々が三週間ほど続いた。

そんなある日の事だった。

「ダニエラ様、手荒れしていらっしゃいますよ?」

ディナーの席でアッシャーさんが心配そうに言う。

「メイドのお仕事で水仕事は多いですか?減らしますか?」

いつもセオドリック様を起こすのに同行して、朝食の給仕をした後は、魔道具で掃除をして、魔法の練習しかしていないから手荒れすることなんてない。

思い当たることが無くて手を見る。


「荒れてますか?」

掌と甲をヒラヒラと裏返して見せてにっこり笑い、ワインを飲む。

するとアッシャーさんも笑顔になった。

「気のせいでしたか。金槌を使ったり、洗濯魔道具を使ったりしていたから荒れたのかと思いました。風船を膨らますのも大変でしょうしね」

「ゴホッゴホッ」

ワインを吹き出しそうになって咽せる。

「ダニエラ様は、王族の血縁たるハートフォード公爵家に嫁ぐ事が決まっている方ですから。まさか、工具店や日用雑貨店で実演販売をして、目立っているとかそういった事はないと信じておりますよ」

「ゴホッゴホッ」

「そういう危ない事をする時は、きっとご相談くださいますよね?ダニエラ様」

ローズさんはニヤニヤしながら私を見る。

ここまできて、真実を話さないのは、後々面倒になりそうなので観念して説明する事にした。


「実は、友達の仕事を手伝っているんです。身元を隠すため、ウサギの着ぐるみで実演販売をしているのでご迷惑はかけません。基本的には顔出しNGにしております」

「さようでございましたか。教えていただけて安堵しました。今後は断るご依頼も含めて、全てご報告ください。顔出しNGでも危ないケースもございますので」

アッシャーさんには有無を言わさない迫力がある。

ニコニコ笑っているだけなのに、全てを見透かした上でその表情をしているようだ。

どんなに取り繕っても完全に無駄な気がしてくる。

私が婚約破棄を狙いながらも、保険のために外国語を勉強したりしていることもバレているのかもしれない。


この瞬間から、チェルシーからの依頼の手紙は自動的に複製が作られてアッシャーさんにも届くように設定されてしまった。

だから、チェルシーからコーディからの顔出しの依頼が来たことも、ほぼ同時にアッシャーさんにも届いてしまったのだ。

「ダニエラ様、このご依頼は受けて頂きます」

返信を出す前にマッシャーさんから直接言われたので驚く。


「いいんですか?着ぐるみは着れませんから、顔がバレてしまいますよ?しかも貴族のパーティですよ?」

「魔法薬を使って頂きますので、ダニエラ様の素顔はバレませんよ」

渡されたのは紫色のおどろおどろしいポーションだった。

これを飲めというの?

毒ではないとわかっていても口に入れるのは勇気がいる。

「これ、本当に大丈夫なんですか?」

「ご心配には及びません。こちらの回復ポーションを飲むまで、全く違う顔のままでいる事ができます」

見せてくれたのは、綺麗な透き通る檸檬色の液体だった。


「あまりにも元の顔と違いすぎますとチェルシーさんが驚きますから、若かりし頃のクルーガー子爵夫人の顔に設定しましょう」

「そんなことできるんですか?」

「ええ。セピア色でも白黒でも写真があれば可能でございます」

「そうなんですか。でも何故出席するんですか?」


「二つの目的がございます。今回の夜会で怪しげな裏取引があると言われているんです。潜入しようにも、かなり招待客が厳選されておりまして、難しいのです」

「それを確認してくればいいのですね?」

「ダニエラ様は普通に振る舞ってくださればよいのですよ?ただし、こちらのアクセサリーをつけて頂きます」

ビロードの上等な箱から出てきたのは、エメラルドを囲むように小さなダイヤモンドが散りばめられたネックレスとイヤリングのセットで、高級品に見える。


「中央のエメラルド色の石や、散りばめられたダイヤモンドに見える石は全て、クズ魔法石です。ただし、このクズ魔法石の中に一つだけ人工石がありまして、『記憶の石』と呼ばれる魔道具なんですよ」

驚いてもう一度ネックレスを見た。

「セキュリティーチェックがあるのではありませんか?」

「そうですね。では試しに鑑定魔法で鑑定してみてください」

疑いながらもネックレスとイヤリングを鑑定すると、色々な魔法要素が出てきた。

要素がありすぎて、混乱するくらいだ。

「これ、なんですか?弱いですが、すごく沢山の魔法が検出されます」


「いろいろなタイプのクズ魔法石を寄せ集めているので、効果が沢山出てくるんですよ。ですから魔道具に付与された魔法よりも、石の方が強いので検出されないのです」

「へえ!このような物があるのですね」

魔法石だけで作られたネックレス!

すごく高価なんだろう。これを付けていて紛失したり破損したらどうしよう。

「顔に『壊したらどうしようかと恐怖を感じる』と書いてありますが、この大きなエメラルド色の石も全て、クズ魔法石ですよ。大きさではありません。込められている魔法の強さで値段は決まるのですよ」


説明を聞いて胸を撫で下ろす。

「そんなに高くないならよかったです」

「ええ。石の値段は高くありませんので、一見すると安物です。でも、人工石は高価ですし、これは国の備品なのでくれぐれも大切にしてください」

このイヤリングを片方でも無くしたら、今後の借金が増えてしまう。

結局どんどん追い詰められていく。


「それでは明日、チェルシーさんに参加の意向を伝えましょう。理由につきましてはこちらから説明いたしますので、早速ご連絡を。もちろん、本当の理由はお伝えいたしませんので、ご連絡のみお願いします」

「私もチェルシーも危険はないんですよね?」

「当然でございます。お二人はパーティーを楽しんでください」

「わかりました」

アッシャーさんに逆らうのは難しいので、言われた通り手紙を送る。





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