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チーム始動2-2

「これ、私がお手伝いできる日程よ」

二つ折りの紙を渡される。

中を見ると、午前中空いている日や、夕方空いている日など色々だった。

「仕事、不規則なの?」

「メイドの仕事をしているのよ」


「そうなんだ。ところで、馬車の中なのに、着ぐるみは脱がないの?」

「この着ぐるみの瞳の部分、度が入っているの。だから、これを脱いだら視界がぼやけて何も見えないから脱げないわ」

「へぇ。じゃあエラ専用の着ぐるみ?」

「そうよ。カサブランカではお得意様向けイベントをやっているの。これを着て、お得意様のお誕生会や、パーティーの子ども向けブースの風船配りよ」

「もしかして今からも?」

「違うわ。今日は、ローズサファイアさんの控え室で着替えて帰るの。このまま帰ってもいいんだけど、ローズサファイアさんが驚くから」

「ローズサファイアさんのところに住まわせてもらっているの?すごいわね。きっとゴージャスなお屋敷なんでしょうね」

あの控え室のゴージャスさといったら、異次元だもの。


「そうね。それよりも、なりすまし屋って名前ダサいし、ショップカードもないのよね。名前、変えましょう?私たちの仕事に名前をつけるの」

そんなの考えた事なかったわ。

嬉しくなって笑みが溢れる。

「いいわね、『シンガーのクローゼット』とかどうかしら?色々な服装や格好をするし、私は歌の仕事を。エラはマネージャーをしているもの。どうかしら?」

ウサギの着ぐるみじゃ、表情がわからない。

「ごめんなさい。なんか…ピンとこないわ」

「じゃあシンプルに『チェルシーとエラの手伝い屋』とか」

「全然シンプルじゃないわ。手伝い屋が余計。『チェルシーとエラ』だけにしといたら?」

「うーん、まあその案を呑んでそうするわ」


「決まりね。仕事を受ける時は、私は基本的に着ぐるみよ。顔を出して、ローズサファイアさんに迷惑かかったら困るもの。でも例外もあるから、顔出しの仕事は相談してね」

「わかったわ」

「あと、チェルシーが一人で仕事を受ける時は、コーディの仕事以外でね。ちなみに、私一人だけのご指名が入っても、受けないから。って事でチェルシーの名刺を作ってね」

「名刺?何で必要なの?」

「今日みたいに、今後も仕事を依頼したいって言われた時に渡せるようによ。ショップカードでもいいわ。じゃないと、毎回コーディから仕事をもらう事になるじゃない」

「それがダメなの?」

「コーディと連絡を取り続ける事になってしまうし、それに絶対に紹介料を取っているわ」

「うっうん。わかったわ」

「もう、二人で会うの禁止よ」

エラはコーディを警戒しているようだ。

話している間に、見覚えのある景色になってきた。

カサブランカに到着したので、二人で馬車を降りる。


「次から私の部屋で着替えてもいいのよ」

「この着ぐるみを抱えてチェルシーの部屋からカサブランカに行く方が大変よ。ここで馬車を降りて、着ぐるみを返した方がラクよ。じゃあね」


裏口から入っていく後ろ姿を見送った後、劇団の衣装部屋に向かう。

服を着替えながら今日のことを思い出した。

コーディに近寄ると、気持ちが溢れそうになるから遠ざかった方がいい。

私一人では無理だったから、エラが手伝ってくれる事になってよかった。


翌日、チェルシーとエラの店宛に依頼が舞い込んで来た。

日用雑貨店の店主からの紹介で、掃除魔道具の実演販売だ。

水魔法が使えない私は断ろうかと思ったが、エラがウサギの着ぐるみで実演販売をした結果好評で、沢山の実演販売のお仕事が入ってくるようになった。

毎回、実演するエラは着ぐるみで、私は歌を歌いながら風船配り。

これが予想に反していいお金になり、二人で驚く。

「エラってなんでも器用に使いこなすからすごいわね」

「メイドの仕事って、実演販売しているような掃除用魔道具や床磨きブラシを使っているから日常業務なのよ」

元々この仕事を始めたきっかけはコーディから「明日、ある男爵家のご令嬢の8歳の誕生日に歌を歌う予定だった歌手が、インフルエンザで来れなくなったんだ。本人のフリをして代わりを務めてほしい」という依頼がきっかけだった。

当時の事を話すとエラは着ぐるみの中から驚いた声を出す。

「それで誰かになりすます仕事を始めたの?」

「ええ。基本的にはパーティに参加するだけだから」

「いいお金になる?」

「数時間で、皿洗いのアルバイト3日分にはなるわね」

移動時間などは二人でよく喋るので、すごく仲良くなった。


エラとのコンビは評判で、仕事が次々と舞い込む上に報酬が意外にいい。

エラはなんでも器用にこなしてくれるおかげで、なんでもすぐに完売。

この仕事が次々と舞い込み忙しくしていると、気がつけば三週間が経った。


冬が近いせいか、ココアを売る屋台や焼き栗の屋台などが通りに並ぶようになっている。

そんなある日、劇団の稽古後、皆で屋台のフードを買ってきて、楽しく秋の味覚を頂きながら、いろいろな話をしていた。

誰かの失敗話で大笑いしている時、クララが皆の前でプライベートな事を聞いて来た。


「コーディとはどうなったの?すごい素敵なドレスを着て、ドラッグクイーンのショーレストランで食事してたって聞いたわよ?友達がウエイターなの」

「私も聞いたわ。すごいゴージャスなドレスだったらしいわね。プレゼント?コートやクラッチも高級品だったって聞いたわ。もしかしてプロポーズ受けたの?」

興味津々で聞いてくる。


「違うわ。あれは、その、カサブランカで借りたのよ。それにコーディは仕事で同伴者が欲しかっただけみたい」

皆、なるほどねといった顔をして察してくれた。

すごく気まずい。

私だってプロポーズされると思っていたんだもの。


「あんなに一途に尽くしていたのに。報われなかったのね。みんなチェルシーの気持ちを知ってたわ」

「あの、コーディは……」

焦って大きな声を出した時だった。

「ゴホン」

キミーが大きく咳払いをして注意を引く。

「チェルシー、言いにくいんだけど、さっきから、コーディが呼んでいるわ。あの…全部聞こえてたみたい」

全員がドアの方を見ると、コーディが立っていた。


「皆さん、こんにちは」

みんな気まずそうに笑う。

「どっどうしたの?コーディ」

急いで外に出て、向かい合わせで立つ。


「君は誰にでも尽くしてくれるから、みんな誤解したんだね。ところで、仕事の依頼をしに来たんだ」

封筒を渡されたので、目の前で開封する。

中に入っていたのはパーティの招待状だが、日付も、開催場所も書いていない。


「今回は極秘の依頼だよ。君のなりすまし屋にはパートナーが出来て、今は『チェルシーとエラ』という屋号で仕事を受けているそうだね」

「ええそうよ。この仕事はエラに聞いてみないと返事できないわ」

「何故?報酬はいいのに?」

「エラは着ぐるみの仕事しか基本的に受けないのよ」

コーディは呆れた表情をして、長い足を組む。


「おかしな相棒だね。これは破格の報酬だ。絶対に受けたくなるよ。でも、この件は誰にも言わない事。仕事内容は、姉妹としてある貴族のパーティに出席して欲しい。ドレスは前回のドラッグクイーンのレストランに行った時のでいい。コートも鞄もね」

「あれは借り物だから」

「またカサブランカで借りればいいじゃないか?前回のメイクは、いつものオバケみたいなメイクと違って上品でよかった。思わず見惚れてしまったよ」

「見惚れるだなんて」

思わず顔が赤くなる。

「チェルシーってこんなに美人だったんだって」

髪を触られて、顔が赤くなる。


「あのメイクもお願いするといいよ。君の隠れた魅力を引き出してくれるからね。じゃあ。一週間後の土曜日に馬車を回すから」

「無理よ。土曜は絶対に無理。エラは土曜日の仕事は外せないの」

「こっちの仕事は、普段の二ヶ月分の報酬だよ。一回くらい休めばいい。簡単な話だよ?難しく考える必要はないよ」

「でも!」

「美人は反論しちゃダメだ」

頬を撫でられて反論できなくなる。


「来週の土曜日にカサブランカに迎えの馬車を寄越すよ。いつも君は綺麗だよ。じゃあ」

にこやかに笑って去っていった。


後ろ姿を見ながらため息を吐く。

この有無を言わさない強引さが好きでもあり、困った点でもある。

断ったのに、行くことが確定しているので、急いでエラに連絡すると、翌日『話があるので明日の夕方にカサブランカまで来て欲しいの』という手紙が戻ってきた。


次の日、指定通りカサブランカで待っていると黒塗りの馬車が停まった。

カサブランカの通用口付近に停まる豪華な馬車って誰が乗っているのかしら?

興味津々で眺めているとドアが空いて、エラが顔を出す。

「チェルシー乗って」

バツが悪そうに、囁くようにいうので、どうしていいかわからず固まってしまった。


「こんな豪華な馬車に乗るの?」

「お話があるんだって。お話するのは私じゃないわ」

ドアを開けてくれた身なりのいい初老の男性が微笑む。立ち居振る舞いからして、この人は執事だろう。

エラがメイドをしているお屋敷ってもしかしてすごい家なのかしら?


「わかったわ」

息を飲んで馬車に乗り込む。

高位貴族の家に勤めるには、それなりの紹介状が必要だがコネのない私は邸宅に近づくことすらできない。

凄いわ。

コーディの乗る馬車とは大違い。

室内は広くて、フカフカなソファーに真っ白なテーブルクロスがかかったカフェテーブル。

これって空間魔法ね。


コーディ以外の貴族の馬車に乗ったことは何度かある。

魔法靴を作るために、邸宅に出向く時や、帰りに送ってもらう時だ。

その時、『辻馬車とは違って豪華だわ』なんて思いながら楽しんで乗ってたけど、この馬車は全く楽しめない。

豪華すぎて震え上がってしまう。


そこに、借りてきた猫のようなエラと、ニコニコ笑う初老の男性がいた。




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