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婚約の現実3-2

私が国税庁で行っていた仕事は、税関の仕事であって、日々の経理は未経験だ。

そのため、今日から森林管理の経理を一から聞く。

初めての仕事は大変であっという間に時間が過ぎてしまった。

「そろそろ仕事が終了する時間ですよ」

声をかけられて我にかえる。


帰り支度をして裏口から外に出る。

アッシャーさんと共に馬車に乗ると、今日の感想を聞かれた。

「口調や態度を変えなくてもいいという意味がわかりました」

「ダニエラ様が飲み込みの早い方で安心いたしました」

「あの。やっぱり私よりもっともっと相応しい方がいらっしゃるのでは?」

セオドリック様は何を言われても穏やかで、背が高く整った顔をしていて、王家の血筋でお金持ち。

なのに、なぜ私?

「それは昨日もお話いたしました通りでございます」

「じゃあ、私以外にも候補者がいるのよね?」

「いえ、おりません。ダニエラ様だけでございます」

ニコニコと笑う笑顔が胡散臭い。


クルーガー邸に戻り、ダイニングに行こうとしたが止められる。

ディナーのために着替えないといけないらしい。

そういえばまだ裕福だった頃は、ディナーの時は家族しかいなくても正装していた。

ドレスは秋冬用一着しかないけど、それに着替えよう。


部屋に戻るとき、マギーさんが一緒に来た。

「お着替えをお手伝いしますわ」

「いえ、大丈夫よ」

「これも花嫁修行です。誰かに身支度を手伝ってもらう事も覚えないといけませんので」

「わかったわ」

一着しかドレスは無いのだから、明日から自分で着替えればいいわ。

クローゼットを開けて、固まる。

色とりどりの沢山のドレスが入っていた。


「今日はご家族様でのディナーですから、こちらのすみれ色のドレスはいかがですか?」

返事が出来ずに、クローゼットを見たまま動けない。

「まだ、ダニエラ様の採寸を行っておりませんので、これは既製品のドレスですから、数を揃えておりません。ですから、まだ衣装部屋は空っぽです」

申し訳なさそうに言うマギーさんの方をゆっくり見た。

驚き過ぎて、動きが遅くなってしまう。

これで空っぽ?

裕福だった時代よりもドレスは上質だし、数も多い。

これで足りないなんて言えないわ。


「では、コルセットを着ける事にも慣れていきましょう」

マギーさんはクローゼットの引き出しを開けたが、その中身にも目が釘付けになった。

沢山の可愛らしいデザインの下着が見えたのだ。

「それって……」

思わず手に取ると、可愛らしい刺繍が施されたブラジャーやパンツだった。

手触りはすごく良いので、シルクだわ。

「私の下着は?」

綿の少しくたびれた下着。

何度も洗濯しているから、見た目は悪いが肌馴染みがよくなっているから着心地は最高だ。

「あちらは、ほら。あの」

マギーさんは少し口をへの字に曲げて、指をクルクル回すと、一瞬炎が見えた。

火魔法、という事は燃やしたらしい。

「今時、身分問わず年頃の女性なら下着に気を遣っていますよ。ダニエラ様のは、こう言っちゃなんですが、田舎のおばあちゃんみたいな…なんと申しましょうか。酷い下着でした」

恥ずかしい。

下着まで見られていたんだ。

おへそまであるパンツは着心地もよかったのに、新しいのは布の面積が小さい。

貴族の女性ってみんなこんなの履いてるの?

本当に?


「今お召しになっている下着も処分いたしますからね」

優しい声で脅されながら、コルセットを締められる。

「ダニエラ様はコルセットがいらないくらいにくびれていますし、ちゃんと出るところは出ていますが、みてください」

すみれ色のドレスを着せられて、鏡を見て驚いた。

それなりだった胸とお尻が、かなり膨らみが大きくなっているある。

「すごいわ!セクシー体型ね」


階段を降りて、サロンに行くと、着飾ったローズさんが待っていた。

ローズサファイアの格好だ。私はメイクしていないけどね。

「着飾ったダニエラを見たのは初めてね。素敵よ。家族だけのディナーの方がいいんじゃないの?」

「ローズさんは家族よ。私に秘密の仕事をくれて、何年間も支えてくれたじゃない。それに、これから起きることにも手を貸してもらわなきゃいけないもの」


二人でソファーに座ると、玄関の方からお兄様とお父様の声が聞こえた。

「失礼します。お二人がいらっしゃいました」

マギーさんが案内してくれた。

「ローズさん、こんばんは。ダニエラ!久しぶりだね」

お兄様がハグをしてくれる。


「沢山の高級調度品に、使用人。一体何があったんだい?お母様はどこ?」

お兄様が小声で呟く。

「ローズ嬢、君が我が家に引っ越して来るのは聞いていましたよ。この調度品の数々と使用人を?」

お父様はローズさんにお礼の挨拶をした。

「違いますわ。私ではありません。詳しい説明をしてくださる方が、そちらにいらっしゃいますわ」

ローズさんに言われて、お父様は驚いた顔をする。

視線の先にはアッシャーさんがいたのだ。

「まず、ディナーをお召し上がりください。お話は、その後にいたしましょう」


お父様もお兄様も、お母様がいない事を疑問に感じながらも和やかにディナーを楽しんだ。

その後、サロンに戻り、高価な赤ワインをグラスに注ぐ。


「皆様、お呼び立てして申し訳ございません」

アッシャーさんのうやうやしい挨拶を見てもまだ、誰も警戒している様子はない。

執事なのに、上質のオーダーメイドの服を着ていることに疑問を持たなきゃいけない。

それから、今座っているソファーも怖くて値段を聞けないくらい高価であることも気がついていない。

ローズさんは気がついているのかしら。普段は赤ワインしか飲まないのに、今は白ワインをお願いしている。

溢すのが怖いんだわ。


「皆様には、大切なお話をいたします」

まず、トーマス叔父様が他国の由緒ある伯爵令嬢を騙し婿になったが、嫉妬から幽閉され、お金はそのまま使うことも出来ないと説明をしてもらう。

皆から笑いが起きた。

ローズさんにもこの話をしていなかったから、驚いているようだ。


次に、私がセオドリック・ハートフォード公爵令息の婚約者に選ばれ、一年後にお輿入れする事。

決め手はトーマス叔父様の義父が要職に就いている由緒ある貴族であるからと説明をしてもらった。


結婚にあたり、クルーガー子爵家には、品位を保つために秘密裏に資金投入され、6ヶ月後の王室主催の舞踏会で、お母様が社交界復帰し、私のお披露目があるという今後の説明を聞く。


現在お母様は、長年のメイド癖の改善と、見た目を病人風にするために、囚われの身である事を付け加えて説明する。


「では、この屋敷内の沢山の高価な調度品や家具、使用人達はハートフォード公爵家から?」

お父様の声が震えている。

「いえ、王室庁からでございます」

「王室庁!」

お父様の震えが止まらない。お兄様は絶句している。

「沢山の未婚のお嬢様方を秘密裏に審査したのは王室庁でございます。私は王室庁から、今後のクルーガー子爵家の方向を見守るために派遣されてきました」

「では、我が家の監査役ですか?」

「いえ、違いますよ。悪い虫が寄ってこないように追い払う役割でございます。後、ローズ様にも協力を仰ぐように要請も受けて参りました」

ローズさんは思わずグラスをテーブルに置いた。

不穏なものを感じ取ったようだ。


「ローズ様のご実家、ゴルボーン伯爵家は名家ですから、社交界復帰に一役買ってもらおうと思っております。そして、もう一つの顔であるローズサファイア嬢も例外ではございません」

笑顔のアッシャーさんに対して、みんな震えていた。

王室庁、つまり王家が決めたことに逆らえる人はいない。


「借金問題が解決して、年頃の娘の婚約が決まったのよ?もっと喜ばなきゃ!」

ローズさんの指摘に、お父様はハッとして、あからさまに嬉しそうに振る舞う。

ブルブル震えたり、怖がったりするのは不敬だから、この対応が正しいことになるのは頭ではわかるが、逃げ出したい気持ちが勝ってしまう。


「ダニエラ、王家の血筋の方に嫁ぐんだぞ?玉の輿じゃないか!おめでとう。あまりに恐れ多い事で、思考が停止してしまったよ。我が娘はなんとできた娘だ」

お父様、顔が引き攣っているわ。

「社交界に出たことがないのに、高位貴族を射止めるなんて、妹ながら凄いよ。結婚式が楽しみだなぁ」

それって政治的な要因が働いたと暗に言っているようなものでよくないですと、お兄様に目で訴えてみる。


「ご家族の皆様が祝福してくださり、こちらも安心いたしました。お披露目前には、両家の顔合わせがございますので、よろしくお願いいたします」

笑顔のアッシャーさんを見て、みんな血の気が引いて青白くなった。


「おや?皆様、蝋人形のようになってしまいましたね。顔合わせの時には、後見人としてローズ様にも立ち合っていただきましょう」

私達の反応を楽しんでいるようで、ちょっと悔しいが、誰も声を出せない。

「明日、クルーガー子爵家に資金投入されます。それから8年前に計画していらっしゃいました葡萄園とワイナリーの拡張ですが、その点についても資材と人材を送り込む準備が整っております」

「そんなにすぐに……」

「はい。なんでもスピードとタイミングが大切ですから」

お父様とお兄様は蝋人形のように固まったまま帰って行った。


すいません。

諸事情で15日から投稿再開予定です。

ご迷惑をおかけしております

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