表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/35

9球 バチバチのS(セッター)

 もう、こういうジャージ姿に着替えることはないと思っていた。


 半袖Tシャツに、長ズボンのジャージ。

 部活をしていたときは、長ズボンなんて履いていられなかった。暑くて。

 でも、私が長ズボンで……またバレー部に入るなんて聞いたら昔のチームメイトはどんな顔をするんだろう。

「あ、おはようございます」


 女子更衣室に入ると今まさに着替え真っ只中の先輩がいた。えーっと……名前、名前は……。


「三年の杢代瑠璃もくだいるりって言うの。昨日は、初対面だったのにいろいろ……ごめんなさい」


 なんと、杢代もくだい先輩に頭を下げられてしまった。全然!むしろ、杢代もくだい先輩は何も気分が悪くなることなんてしてませんって!

 私が慌てて頭を上げるように言うと、まだまだ申し訳なさそうな顔をしている杢代もくだい先輩。


「えっと、私の方こそすみませんでした。私が逃げるように帰っちゃったのは……その、監督の言葉にビビったっていうか……その、恥ずかしい話なのですが、怪我のことをあまり言ってほしくなかったって気持ちがあったんです。でも、今は平気になりました。だから、男バレにも……その、入部させてほしいと考えています」


「……怪我って?あ……聞いても、良いのかな。その、何かあったときにかかりつけのお医者さんとか知っておいた方が良いかなって思うんだけれど」


「中三のときに。準決勝で膝が壊れたらしくて。靭帯だか筋肉やらがダメになったみたいです。あ、今は私生活には全然問題無いって言われているのでマネージャー業も手伝わせてください」


「去年の話、だよね……」


 あー、こういう話をしちゃうと分かってはいるんだけれど、どうしてもしんみりしてしまう。杢代もくだい先輩も何て言葉をかけてあげれば良いのか、って悩んでいるんじゃないかな。そういうのは申し訳ないっていうか、ホント大丈夫なんですよ。


「今は、もう平気ですから。その……あまり気にしないでください。今時、怪我一つしたことのない運動部員なんていないと思うし……」


 バレーなら尚の事。高くジャンプして、走り込んで、強いスパイクも打って、受け止めて……それだけ体に掛かる負担は多い。だからいちいち……『怪我をしたから一緒に悲しんでください!』……なんて言えるはずもない。だいたい私も、吹っ切れた?感じがするし。


「そう言えば入部届けって誰に出せば良いんでしょうか?主将ですかね?昨日……は、たぶんいませんでしたよね」


 これは勘。ほんと、なんとなーくの勘。


「あ、うん。三年のあぶみくんが主将だから彼に。……昨日は確かにまだ来ていなかったけれど、主将じゃないってよく分かったね?」


 うーん、ほんとになんとなーくなんですけれど、今までいろいろな学校と対戦してきて、いろいろな主将の姿も見てきて……それで昨日いた三人の中には『この人が主将!』って感じの人はいなかったような気がする。こう言ったら失礼かもしれないけれど、主将っていうタイプの人たちではなかった気がした。


 Tシャツに長ズボン。これは杢代もくだい先輩と同じ恰好だ。杢代もくだい先輩は長い黒髪をポニーテールにして結い上げているが、私はまだ結い上げられるような長さではないためそのまま。ささっと着替えるのは得意。早く練習をはじめたい、体をストレッチしたいって思ったから着替えには基本時間をかけない。特に持っていくモノは一応メモ帳は用意して他には無いかな……と思っていると杢代もくだい先輩は一冊のノートを持っていくらしい。部活のノート?練習ノートだろうか?


「あの、杢代もくだい先輩。そのノートは?」


「あぁ、これね。放課後には監督もくるからその時に話があるんだけれど。……谷古宇やこう監督の方針で部員は毎日日記を書くように言われているの」


「日記、ですか」


 連絡事項……ってわけじゃないよね。

 部員と交流を深めるため……?でも、それならスマホで連絡を取り合えば良いって思うのだけれど。


「ふふ、うん。まあ、監督が来て良かったって一番思っているのは私たち三年かな。この日記のやり取りでだいぶお世話になってきているし。きっと巴ちゃんも力になってもらえると思うよ」


 そういう、ものですか。

 日記の意味を良く知らなかった私は、放課後の監督の話をきちんと聞こうと気合いを入れた。今はまだ朝だけれど。

 杢代もくだい先輩と一緒に更衣室を出るとズラズラと歩く私よりもじゃっかん背の高い集団。その中には、陽介ようすけくんや雄馬ゆうまくんの姿もあったからバレー部なんだろう。


「おはようございます、先輩たち」


「ん。おはよぉ……あ、昨日そうそうに帰っちゃった子じゃん。なーに、アンタも男バレに入部するのぉ?辞めるなら今だけどぉ?……ふん、良い目になってるじゃん。ま、頑張ってよね。マネージャーだって大変なんだから」


 えっと、昨日……世凪せなって呼ばれていた先輩じゃないかな。この髪色も、確かそう……よく覚えている。じっと私の目を見てから何事も無かったかのように目を逸らして体育館に向かっていく背中に私は思わず叫んでいた。


「辞めません、逃げませんから!私!だから、よろしくお願いします!世凪せな先輩!」


 いきなり名前で呼ばれた先輩はびっくりした顔で振り返ってきたけれど『こんな所で叫ばないでよねぇ……うるさい』と小言を言ってまた体育館に向かった。

 私が喧嘩を売ったように見えたのだろうか、いやいや今の私の言葉を聞いていればそんなふうには見えなかったはず。気合いが入った一年!って思われているはずだ。


「ははは~!やる気じゅうぶん、気合いじゅうぶんって感じだなぁ!良し良し!ま、何かあったらいつでも頼ってくれよ?俺、これでも副主将やってるからさ。三年の月見里蒼葉やまなしあおばよろしくー!」


「……月見里やまなし今思うんだけれど、自己紹介は体育館でまとめて行った方が良いんじゃない?」


「酷っ!って、まあそうだな。自己紹介っつってもウチはそう大所帯じゃないから覚えるのも早いだろ」


 副主将さんか……昨日も思ったんだけれど、大きな存在っていう感じはするかも。主将ではないってことはサポート役が優れているのか、それとも単に主将は嫌だ!って言ったのかもしれないけれど。主将とはまた違った優しそうな先輩って感じがする。

 そこで軽いツッコミを入れちゃう杢代もくだい先輩に小さく笑いながら一足早く体育館に向かった。あ、そう言えば今体育館にはなぎくんがいる。そして、ちょっと後輩に厳しそうな世凪せな先輩が先に向かったんだった。……何もありませんように!!


 と私が祈っていたのも虚しく……。


「ちょっとぉ!なーにスマホなんかいじくってんの!?今から練習するんだからスマホはさっさと片付けなよ!」


「……まだ、他に人が来てなかったんで」


「そういう意味じゃないでしょ!人がいなくてもやることなんてたくさんあるんだよぉ。ストレッチは!?掃除は!?体育館がゴミだらけだったら滑って転んで怪我の元にもなるんだからねぇ!」


 なんとなく。

 これも、なんとなく考えていたことなんだけれど……なぎくんと世凪せな先輩ってちょっと相性悪いかもって思っていたんだよね。それが、さっそく!?あ、いや、一方的に世凪せな先輩がなぎくんに向かっていろいろ言っている図なのかもしれないけれど、時折、なぎくんがめんどうくさそうな顔をするから油を注いでいるみたい。


「ちょ、ちょっと!なぎくん!世凪せな先輩も!練習前ですよ!」


「おいおい……やっぱドンパチはじめたか。っつか、ポジション的にもバチバチするとは思ってたけれど早速言い合いしてんのかー……こーら、帷子かたびら世凪せなも!そこら辺にしとけっての」


 さすがの副主将。止めに入ろうとするけれど世凪せな先輩の文句だったり、愚痴っていうのはしばらく止まらなかった。なぎくんは……スマホでゲームをしていたみたい。ゲームをしちゃいけないってわけじゃないけれど……さて、どうしたものかな。

 やっぱりバチバチになるとすれば同じポジション同士かな、というイメージ。

 あと、性格……ですかね。さぁ、練習!と思って体育館に来てみればゲームをしている部員。そりゃあ怒るかも。でも、凪だって何もしていなかったわけじゃないかもしれませんもんねぇ?

 上手く落ち着いてくれると良いのですが……。


 相変わらず、難しい苗字やら名前にハマった私!ちなみに、世凪せなは下の名前です。上の苗字……きっとびっくりしますよ~(苦笑)


 珍妙字あふれる作品にも楽しく感じていただけたら嬉しいです。良ければ『ブックマーク』や『評価』などしていただけますと幸いです。いろいろなキャラクターが、いろいろな思いを抱えつつはじまる男子バレーボール部。……上手くいきますように!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ