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6球 浜辺の下手過ぎバレー男子

 谷古宇やこう監督の言葉がいつまでも頭に、心に、突き刺さって……まるで棘のように引っかかりがあって抜けてくれない。


 私、バレーに未練があるのかな。

 やりたいのかな。でも、私の足は運動はできないじゃない……。

 いつかは来たいと思っていた海。

 まさかこんなに早くに来るとは思わなかった。

 おばさんにはきちんと連絡を入れてあるから大丈夫。『少し海を見てから帰ります』と連絡すればあまり遅くならないように、と連絡がきた。どうか、それまでに心を落ち着かせよう。


 久しぶりに部活という熱意を浴びてしまったからか、監督のスカウトにも似た言葉を聞いてしまったせいだろうか、部活にやる気満々の同級生を見てしまったせいか。胸がドキドキして、全然落ち着いてくれようとしない。

 少しでも海風を吸って、吐いて……気持ちを楽に、切り替えないと。

 すると、何処からか賑やかな声が。


「あははは!ゆうちゃん、相変わらず下手くそだなぁ!」


「うっせ!バレーなんてやったことないんだから当たり前だろ!」


 兄弟?だろうか。

 浜辺でバレーボールをするなんて、青春だなあと思ってついつい眺めてしまった。でも……。


「あで!……ぶはっ!!あれ~?おっかしいな……」


 あれは……下手くそなんてレベルじゃないわね。


「あはは!ゆうちゃ~ん、ちゃんとこっちに返してよ~!」


「わ、わかってるっつーの!」


 少年よりも少し年上に見える男の子が何度も何度もバレーボールを手にして少年に向かって打とうとするが、それは少年には届かず、横に逸れたり、逆に自分の顔に戻ってきてしまったり……下手過ぎた。少年が打ってくるボールを両腕で構えてレシーブしようとしても、前に飛ばず顔面にぶつかったり、後ろやら横やら……と、とんでもない方向に飛んでいってしまう。


「ふ、ふふっ……へたすぎ」


 思わず笑ってしまっているとそんな私の笑い声に気付いたらしい兄弟らしき二人組が私に向かって手を振ってきた。特に小さな少年がブンブンと腕を大きく振っている。


「あ、お姉さーん!お姉さんってバレーできる!?ゆうちゃん、へた過ぎて相手にならないんだよー!」


「おま……っ、俺はこれからなんだよ!だいたいバレーボールなんてルールも知らないんだっつーの!」


 へえ、昨今は男女ともに全日本のバレーボールは人気が高まってきていてテレビで試合も中継されているというのに、全然知らない人もいるんだ。あ、興味が無ければそういうものかな。


「……ちょっとだけなら、ね。でも、そっちの……えっと……」


 小さな男の子に向かって私は小さく手を振り返すとそう答えるが、それよりも気になるのは少年よりも少し年上にみられる男の子。


「ん?俺?雄馬ゆうまだ」


 あ、なるほど。それで『ゆうちゃん』。可愛いあだ名だ。って、違う違う。


雄馬ゆうまくん、そんな真っすぐ突っ立ったままじゃなくて膝をちょっと曲げて少し腰を落として。両腕は少し間を開けて構えてみて」


「へ?こ、こう……か?」


 うん。さっきよりは全然良い感じ。見た目は。


「腕の力でボールを押し出さないようにして。ボールが来たら全身で受け止めるぐらいの意識を持ってみて」


「全身……」


「ゆうちゃ~ん、いっくよ~、それ!」


「全身……ぶはっ……!!」


 あら~……そう簡単にはいかないのね。変なところに当たって角度が変わってるみたい。

 仕方ないわね……。


 またしてもレシーブしようとしたボールを顔面に食らってしまった『雄馬』くんの近くに歩いていくと……わ、わわ!砂浜って……けっこう歩きにくい……私も気を付けないと。


「いい?腕は、こう!……違う違う、腕のこの面を使ってボールを受けるのよ。そんなに力まなくてもボールには空気が入っているんだから正しい姿勢で構えていればちゃんと前に飛ぶわ」


 幼い少年に、もう一回お願い!と私がボールを投げ打つと『おお!』と二人から歓声が上がった。……ただ、少年に向かって打っただけなんだけれど。


「力んでるとまた顔面に食らうわよ。肩に余分な力を入れない。足はどっしりと構えて」


「力まない力まない……」


 ポーン!と少年が打ってきたボールを雄馬ゆうまが両腕で受ける。今度こそ……!

 すると、ポンッ!と良い音を立てて空へと上がった。今までは後ろや横へ逸れていってしまったボールがきちんと上に向かってあがったのだ。


「あ」


「お、これで良い感じなのか?」


「ゆうちゃん、やればできるじゃん!!」


 今までで最高のボール。

 空中に上がったボールはそのままポトンと砂浜に落ちてしまったけれど兄弟らしき二人はとても喜んでいた。


「な、なんか、サンキューな!すげぇ、わかりやすかった!」


「どういたしまして。……というか、キミ、へた過ぎよ。バレーなんて体育の授業でもやるんじゃないの?」


「あー……たまに見てもらうおっさんがいるんだけど、全然なっとらん!っつって怒られてばっかなんだよなー」


 そりゃあ、いろいろとなってないことばかりだもん。そのおじさん?だってゼロからスタートの人にどこから教えたら良いかも分からないんじゃないかな。


「バレーバレーって言ってるけれど俺はそんなに興味無いし……体育だって、適当にやってばっかだし……って、あれ?あんた、どっかで見たことあるような……?」


「え、そーなの!?ゆうちゃん、このお姉さんの知り合い?」


 そう言われてみると……なんだか、この騒がしい感じ……最近、見たことがあるような気が。最近なんてものじゃない。今日……確か……。


「「あーっ!!!」」


 気付いたら二人同時に叫んでいた。


「あ、あんた、きょ、きょ!」


「講堂でボール遊びしてた人ってキミ!?」


 今朝、学園の講堂から移動しようとしたときにバレーボールが講堂の壁に当たって拾った。そのときに声をかけながらやってきたのが……目の前にいる彼だった。


「ぼ、ボール遊び!?違うっての!ただボールを手に慣らそうとしてたらとんでもない方に向かって飛んでったから……」


「それ、ボール遊びって言うの!危ないじゃない!」


 壁にぶつかったから良かったものの時と場合によっては人の頭や顔にぶつかっていたかもしれない。しかも、彼は相当下手くそだから、余計にどこに飛んでいくか分からない。そんな人にボール遊びなんてさせたら危ないことこの上ないわよ。


「わ、悪い……」


「せめて外でやってよ?というか、同じ一年よね。……あなたももしかしてバレー部に入るの?」


「まっさか!ただでさえおっさんにいろいろ言われてるし……バレー部の監督って谷古宇やこうのおっさんだろ?これ以上いろいろ言われたくねぇっての」


 お、おっさんって……監督のことを言ってたの!?

 あれ、でも知り合いなのかしら。バレーをやっていないのに、いろいろ言われてるって……。


「このチビに付き添って行ったら少年バレー?とかの監督もやっててさ。俺も試しにやってみたら……」


「やってみたら、どうなったの?」


「……お、おっさんの顔面に当たってグラサンが割れた」


 頭の中で顔面にボールが直撃し、パリーンとグラサンにヒビが入りながら怒る監督の姿が簡単に想像できてしまった。

 ……バカなのかしら。チビちゃん、もとい少年の方は大声で笑っているけれど呆れるしかできない。それは、きっと怒られたでしょうね。


「そしたら……お前はボールに触るな!って言われて……ムカつきながら、こうやってチビの相手してやってんの」


「そう、なんだ」


 なんだか、チームにいたら騒がしくなりそうだけれど賑やかさでチームを盛り上げてくれそうな選手にはなりそうよね。バレーの実力は全然無さそうだけれど。


「あんたは?さっきの感じ……バレーやったことぐらいあるんだろ?アドバイスも的確だったし。バレー部、入るのか?」


「うーん……実は……」


 今日、バレー部入部希望の同級生とともにバレー部に見学に行ったこと。そうしたら美人のマネージャーさんに招かれたこと。私は怪我をしていて本格的にバレーは出来ないこと。谷古宇やこう監督からマネージャーとしてスカウトの話をされたこと、を雄馬ゆうまくんに話すと『なんだ、そりゃ』と怒ったような呆れたような顔をしていた。

 あ、別に私が怪我をしているって話は必要無かったかもしれない。なんで言っちゃったんだろう。

 後々にきちんと名前を明かしますが、またしてもバレー関係者(?)と遭遇。

 浜辺でバレーって……青春だと思いません!?それに砂浜!足腰の鍛錬にはうってつけですよ!!!


 いやいや、バレーはコツというか、人によっては向き不向きがあるんですよね。ちょっとしたコツを掴むと誰もがボールを自然に上げられるようにはなります。でも、慣れないうちは腕は真っ赤っかだったり内出血しまくります(汗)ヒェェェェ!


 次回、雄馬の『なんだ、そりゃ』の意味がはっきりとしていきます。まさか監督と既に知り合いだったとは、ね……グラサンが割れるって……ぷっ、くく……見てみたい!(笑)


 良ければ『ブックマーク』や『評価』などしていただけますと幸いです。私なりにこのバリボー作品に愛と命を込めて書かせていただきます。どうか、いろいろな感情、喜怒哀楽を持ちながら読んでいただけると嬉しいです!!

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