35球 月見里蒼葉(やまなし・あおば)
最初から新入生だとか下級生とかって壁も気にすることなく接してくれてきている月見里先輩。
部内だと、お母さん的なポジションだったりするのかな?
「お。今日も念入りだなぁ~!感心感心!」
私が空いた時間を利用して、ボールの空気入れ具合を確認していると当たり前のように声を掛けて来てくれたのは月見里蒼葉先輩だった。こうやってさり気なく部員たちに声を掛けていくっていうのは、私だけってわけでもなく、ちょっと部員同士で揉めそうなことがあればすかさず間に入っていくこともあるので、広い視野でそれとなく部員たちの様子も伺っているのかもしれない。それは、副キャプテンっていう立場があるからだろうか?でも、私が思うに、例え月見里先輩が副キャプテンではなくても他の部員たちには世話を焼いていそうだし、元々世話焼きをすることが好きそうな感じがする。だから、お母さんって感じがするものかもしれない。
だいたい、何処の部。どんな部においても、月見里先輩みたいな人はいたりする。決してめちゃくちゃ目立つってタイプの人ってわけじゃないんだけれど、さりげなくいろいろな部員たちの様子を見ていて、ちょっとでもピンチになりそうになったらすかさずに間に飛び込んでいくような人。そのおかげで、この男バレにおいても目立ったトラブルのようなものは起きていないのかもしれない。
「私に出来ることは何でもしてあげて、部員たちには練習に取り組んでもらいたいものですからね」
「ふぅん?そかそか。でも、……千早チャンは、無理とかしてないか?」
「無理、ですか?」
「そうそう。マネージャー業務だって大変なときはあるだろ?その上、こういう必要な道具の手入れまでしてもらってて悪いっていう気分もあったりするわけよ?だから無理はしちゃダメだからなぁ?」
「ふふっ、分かっています。私が体調でも崩したら杢代先輩のマネージャー業務も大変になっちゃいますもんね」
「そうそう!まあ、杢代のヤツも千早チャンが来てくれたようであまり顔には出してないけれど喜んでいるんだぜ?妹でも出来たみたいに考えているんじゃないかなぁ?」
「妹、ですか」
杢代先輩からはあれこれとマネージャー業務について教えてもらうことばかりが多くて、二人してじっくりと話したりすることは今のところは確保出来ていないのだけれど、いつかは二人でゆっくり男バレについて話してみるのも良いかもしれない。って、今は月見里先輩と話しているんだった!
「月見里先輩は、結構リーダーっぽいというか、人を引っ張っていってもおかしくない感じの人なのに、副キャプテンをしているんですね?」
「!だってよぉ……キャプテンにでもなったら大変じゃん?あれこれまとめていかなければならないし、それこそ部においてもきちんと把握していないと……そうすると俺の頭の中は、ぐちゃぐちゃになっちゃうわけよ?」
「……それは、なんとなく分かる気がします。私も中学時代はキャプテンをしていたので、特に新入生が入ってきたときにはどう指導していけば良いのか分からなかったものですから」
「おお!経験者は語るってヤツだなぁ!その点、凌駕なら、部員のこともしっかり見てくれると思ったし、絶対に凌駕が向いていると思ったんだよ。だけれど、俺や他の三年のメンツが凌駕をキャプテンに推すって話になったとき凌駕から一つだけ我が儘を言われちまったんだよなぁ……」
「我が儘、とは?」
「俺が副キャプテンをするってこと」
不意に三年生たちのメンツを頭に思い浮かべてみた。どうにも癖の強い男バレの中においても三年の中には、個性が強い人たちが揃っているようにも感じられる。そう考えると鐙先輩は副キャプテンとして、同じ部を支えていくことを考えたときに月見里先輩を副キャプテンに選んでいったのかもしれない。人選としては別に間違ってはいないと思うのだけれど……やっぱり月見里先輩の性格のようなものを鐙先輩は見抜いていたんだろうか?
「俺的には、世凪辺りでも良いと思ったんだよ~?それでも、凌駕は俺だけにしか考えられないとかって嬉しいことを言ってくれたものだから断りたくても断れなくてさぁ~。……まあ、別に難しいことをするわけじゃないし、気が楽で、キャプテンがあれこれ忙しいときには部員たちの様子を見られることが出来るからそれは楽しく感じているけれどなぁ~」
世凪先輩もキャプテン、もしくは副キャプテンに向いていないってことも無いだろう。もしかしたらめちゃくちゃ熱血タイプで他の部員たちを熱血に引っ張っていくかもしれない。月見里先輩は、部員たちにあれこれしないと!って強く指示を出していくような感じな雰囲気は見られないけれど、それでも部員の様子はきちんと見ているみたいだね。
先ほども雄馬くんとのレシーブ練習をしていたときに、私が軽いボールを投げて雄馬くんが上手くレシーブの形を取れるまではそのまま続けていこうかと考えていたのだけれど、それを見ていた月見里先輩が口を挟んできた。
「それも悪くは無いと思うけれど……もっと早く、そして実力を付けたいならある程度のスパイクレシーブを出来るようになった方が良いんじゃないか?時間なんて無限にあるように感じているかもしれないけれど、あっという間に過ぎていくもんだし」
「……それも、そっか……巴、スパイク打てる?」
「ん、さすがにジャンプしながら打つっていうのは難しいけれど普通のスパイクなら大丈夫だよ」
「ちょい待ち待ち!だったら俺が雲英の練習に付き合ってやるよ。だから千早チャンは少し休んでな?」
え、え?と疑問を抱いているうちに雄馬くんのレシーブ相手……つまり、スパイクを打つ相手になってくれたのは月見里先輩になってしまった。もちろん嫌だとか、雄馬くんもいろいろな人からのスパイクをレシーブすることで練習になっていくのかもしれない。
ただ、一度練習モードに入ると月見里先輩は厳しい一面を見せるようになってきたようだった。
『足が動いていないぞぉ!動かすのは足だ、足!』
『もっと素早く落下地点に動けぇ!足が止まってるぞぉ!』
『こらこら、腕が上がり過ぎ!基本的に、レシーブをするときには、もっと下で構える!』
一球一球のスパイクを雄馬くんにレシーブさせるたびに、気になった点を口に出してアドバイスしていくものだから月見里先輩もさすがだ!と思ってしまった。だてに三年間も男バレ部員として頑張ってきているだけはあるんだろう。
それに、ちょっとでも雄馬くんが音を上げそうになれば、『まだまだいくぞぉ!』とニコニコしながら片手にボールを構えていくものだから雄馬くんもやる気を取り戻してレシーブ練習を開始していたのだった。
月見里先輩か……。
副キャプテンになった経緯のようなものは知ることは出来たけれど、やっぱりどちらかと言えば副キャプテンって言うよりも男バレのお母さんって感じが強いかもしれない。別に変な意味じゃなくて!まあ、厳しいところももちろんあるけれど、ふざけている時ももちろんあるから場を上手いこと和ませたり、部員のやる気を高めることは上手いのかもしれない。
この人がいてくれて良かったと思う。もしも他の人が副キャプテンだったら……このようにはならないもんね。
月見里先輩のスパイクによって、雄馬くんのレシーブもそこそこに見られるようなモノになってきているのを視界の端に入れながら私は部活で使用する道具たちの点検をしっかりとおこなっていくのだった。
月見里先輩でした。もはや、お母ちゃんで良いのでは?(苦笑)
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