27球 賑やかな朝は気持ちがいい
事前に雄馬くんと考えていた待ち合わせ場所。
そこには既に雄馬くんが待っていたのだけれど……ちょっと様子が、変?
「おはよう、雄馬くん」
「お、おはよっす!巴!い、いででで!」
事前に決めていた雲英雄馬くんとの待ち合わせ場所。ちょっとした道の角って辺りになっているんだけれど……。挨拶をしていけば、雄馬くんも軽く片手をあげて挨拶をしてくれるのだが、途端に苦痛を上げてきたものだから怪我でもしているのだろうか、と思って慌てて具合をみてみることにした……のだけれど。
「朝、起きてから体のあちこちが痛くてさあ……昨日のバレーの練習試合のせいかな、やっぱ?」
それって……普通に考えると筋肉痛だと思う。昨日の練習試合では終わり間際になってボールを顔面に受けてそのまま体育館に倒れてしまっていたうえに、試合が終わってからしばらくは走り込みに行っていた部員のみんな。……きちんとストレッチとか、筋肉をほぐすマッサージみたいなものはまったくしていなかったんだろうか。
「き、昨日……先輩たちから何か言われなかった?」
「う~ん、何か言われたような気はするけれどさー……あんま覚えてなくて……ぁ、いでっ!」
ちょっと気まずそうに首の後ろに片手をまわしただけでも、苦痛を口にするほどだから雄馬くんの体は鈍っていたってことなのかな。この分だと、足まわりとかも筋肉痛が起きていそうだけれど歩くのに不便は無いんだろうか。
「足……とかは?」
「足?足とかは全然。何とも無い」
「え?」
あれ、意外だ。だとすると筋肉痛が起きているのは腕あたりだけ……ってこと?足はまったく平気っていうのもちょっと気になるけれど、先輩たち……きちんと筋肉のマッサージなどは教えてあげといてくださいよ!こんなんじゃ、まともに練習なんてできないんじゃないかなー……。
本当に足はなんとも無いみたいで、学校に向かう足の様子を伺っていたが、苦痛をあげるのは腕を上げたときだったり、動かしているときぐらいだった。
「おはよーっす!」
後ろから自転車に乗って声をかけてきたのは、昼神陽介くんだった。自転車に乗るのは良いんだけれど、ちょっとこちらによそ見ばかりして視線を向けてくるものだから、目!目!顔は前をちゃんと向けて乗って!もしくは、自転車を降りて!と朝から何度陽介くんに向かって注意をしたことか……。だけれど、陽介くんは大きな声で笑ってばかりいる。
「平気平気!チャリには中学ん時から乗ってるから慣れてるって!」
「それでも危ないから!」
まだ車通りも少ない時間帯だけれど、車が通っていないからって安全ってわけでもない。自転車に乗ったまま転んだりしてしまったらそれこそ大怪我につながってしまうかもしれない。私や雄馬くんの歩くスピードに合わせてくれているっていうのもあるからどうしてもフラフラとゆっくりとしたスピードで自転車をこいでいるから見ている側からしたら今にも転びそうで、非常に怖いのだ。
「はいはい。分かった分かったって。……コレで、良いんだろ?」
陽介くんは自転車から降りて、私たちと並びながら自転車を押して学校まで行くことになった。あ、そういえば陽介くんは体は、なんともないんだろうか?未だに雄馬くんの口からは、ときたま『いでっ!』といった苦痛が聞こえてくる。
「ん?雄馬、何かあったのか?」
「……たぶん、筋肉痛なんだと思う」
「……はあ?筋肉痛?はは、そっかそっか。雄馬ってバレーほぼ初めてだったっけか。そ、それにしても筋肉痛って……はは!まあ、それも慣れだ慣れ!」
主に腕まわりだけの筋肉痛、と私が言うと陽介くんは堪え切れずに噴き出して笑っていた。でも、バレーを始めたばかりの頃ってこういうことがよく起きていたんだよね。腕とか真っ赤……を通り越して内出血がしばらく消えない毎日を過ごしていたものだし。
「陽介くんは、体、なんとも無い?」
「平気平気!毎日、チャリ乗ってるしな。中学からもバレーやってたし、さすがに筋肉痛は……もう起きたりしないんじゃね?」
取り敢えず陽介くんは無事らしい。経験者は、やっぱり昔ながらの経験値があるからこういうときに有利になるかもね。でも、別に筋肉痛だから悪いってわけじゃないんだけれど……この後の朝練とか午後の練習に響いたりしないんだろうか?
学校の敷地内に到着すると、自転車を指定の置き場に置いてくると言って離れた陽介くん。『先に行っててくれ!』という言葉に甘えて、先に校舎……部室のある方へと向かっていくと数メートル先には、スマホを操作しているのか俯き加減で歩いている帷子凪くんの背中を見つけた。スマホ歩き、か……これもちょっと危ないんだけれどね。……途中で、こけたりしないんだろうか。きっと凪くんのことだからゲームをしているんだとは思うんだけれど、そんなにゲームが好きなの?
「あ。おはよーっす!」
「おはようございます」
賑やかそうな声、それから丁寧に挨拶してくる声に私と雄馬くんは振り返ると……(この振り返っているときにも雄馬くんの口からは小さな苦痛を上げていた。首?腰あたりも痛いのかな?)同じ一年生の薬袋一輝くんと、御法川凛空くんがいた。
「おはよう、二人とも」
「おはよー……っす」
雄馬くんも、体が痛くならない程度の動かし方に慣れてきたのか、朝一番で出会ったときのような苦痛の声は上げなくなってきたみたいだ。ついつい雄馬くんの様子を見てしまうと笑ってしまいそうだったのでなるべく我慢我慢……。
そして、いろいろな部の部室が並んでいる部室棟、そして私が利用している更衣室も近くなってくると先輩たちの姿もちらほらと見えるようになってきた。さすが、先輩たち。朝、早いですね。
「お。一年たちは張り切ってるなぁ~!感心感心!」
私たちよりも後ろからやってきたらしい月見里蒼葉先輩は、朝から和やかな笑みを浮かべて、遅刻することなくやってきている一年生たちに向かって大きくうんうんと頷いていた。あれ、てっきりもう来ているものとばかり思っていたけれど、やっぱり早すぎることもなく遅すぎることもない時間帯にやってくるのがちょうど良いのかな。と、思っていたのだけれど……。
「ハァ、ハァ……ッ、あれ、今、やっと来たとこぉ?遅いじゃん、一年坊主たちぃ」
既にTシャツにハーフパンツ姿で、学校の敷地内を軽くランニングしてきたらしい九世凪先輩は、軽く額に浮かんでいる汗をTシャツの袖で拭き取っていた。……え、早くない?世凪先輩、もう走り終わってきたところ!?一体、何時に学校に来たんだろう。朝、早すぎない?ちゃんと寝ているんだろうか……。
「ん、なぁに、その顔。なんか、文句でもあるぅ?」
「……文句っていうか、朝早いんですね……」
「そぉ?すぐに走れるようにこの恰好で家から出て来ちゃうからねぇ。着替えるのは鍵を持ってる凌駕が来ないと部室入れないでしょぉ?」
「……一応、聞くんですけれど……ちゃんと寝てます?」
「当たり前なこと聞かないでよねぇ。……ぺしっ!」
「あ、いた……」
さすがに部員に叩いているようなバシバシとした手で叩かれるようなことはなかったのだけれど、世凪先輩からは軽くデコピンをされてしまった。と言っても全然言うほど痛いものじゃなくて、むしろ口にわざわざ出して言う世凪先輩が少しだけ可愛く見えてしまった……というのは、私だけかもしれない。
世凪先輩のように、びしっ!とかべしっ!!とかわざわざ口に出しながら叩いてくる人っていますよね。そういう人、ちょっと可愛いと思ってしまうんですけれど……ど、どうでしょうか??(苦笑)
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