24球 試合終了、渡されるノート
良いプレイに繋がるっていう感じじゃないんだけれど……雄馬くんの存在って、落ち着かせてくれるっていうか……一旦、仕切り直すには良い感じに言葉をかけてくれる。
まあ、実際のところは、かなりの点差がひらいているんだけれど……。
しばらくは、毒島琉生先輩のサーブが続くのかと思いきや、まさかのサーブミス。ネットにかかってしまって下級生チームのコートにまで届くことはなかった。これ幸いとして下級生チームのサーブは、帷子凪くんへ。凪くんは、今まで、たまりにたまった鬱憤を晴らすかのように強烈なジャンピングサーブを上級生チームのコートへと入れていく。つい先月までは中学生だったはずの凪くんからの勢いのあるジャンピングサーブには先輩たちは驚いていたものの、それでも取れないボールではない!と思ったのか、鐙凌駕先輩が率先してサーブレシーブを担い、上級生チームでセッターとして活躍している九世凪先輩へボールを返すと、世凪先輩はふわっとした穏やかなトスを上げる。それに反応したのは五十木真央先輩だった。無駄の無い、助走。そしてトスに合わせたジャンプをするとタイミング良くスパイクを下級生チームのコートへと打ち込んでいった。
素直に、凪くんのサーブは良いものに見えたし、一回ぐらいは上級生たちは見逃したり、上手く拾えずコートに落ちてしまうかも……と思っていたのだけれど、そうそう先輩たちは甘くは無いみたい。あっけなくサーブを受け止められ、綺麗なスパイクで決められると凪くんは小さく、それでも悔しそうに『チッ……』と舌打ちをしていた。……やっぱ悔しいよね……。ここは、やっぱり経験の差が出てしまうのだろうか。
次は、世凪先輩からのサーブ。
まさか三年生たちは強烈なサーブばかり打つのだろうか、と思って見ていると、意外にも世凪先輩は高くボールを放るが、ジャンプして打ったサーブは、ジャンピングフローターと呼ばれるもの。でも、この打ち方は……さっきの御法川凛空くんが無意識に打っていた無回転サーブじゃない。世凪先輩は、きちんと理解した上で、無回転サーブを狙って打ってきた。
「……ふべ……っ!?」
ふわふわ~、ゆらゆら~っと安定しないボールの動きに視線もあっちこっちに動いてしまう下級生チーム。たまたまボールの落下地点近くにいた雲英雄馬くんだったのだけれど、上手いことレシーブなんてできるわけがなく、なんと顔面でボールを受けてしまった。
「!だ、大丈夫!?雄馬くん!」
顔面でボールを受けてしまった雄馬くんは、その勢いのままにバターンと仰向けになって体育館に倒れてしまった。それはそれは大きな音がしたので、もしかして背中?まさか頭でも打ったんじゃ……と思い慌てて下級生チームのコートに入ろうとするが谷古宇監督に止められてしまった。様子を見ろ、とでも言いたそうに視線を向けられたのでコートには入らなかったけれど……心配なものは心配だ。
「はは!おいおい、大丈夫かよ、お前!まさか顔に当たるとはなぁ~」
下級生チームに今回、臨時で入ってくれている二年生の夫馬律樹先輩が腹を抱えながら笑っている。えー……雄馬くんが倒れているっていうのに、そこまで笑えるものなの!?
「いててて……び、ビビったー……なんだ、今の球!」
さすがに他の選手たちも心配そうに雄馬くんの様子を覗き込むが、すぐに雄馬くんは体を起こし、自分が倒れたことは全然気にしていない様子。むしろ、今世凪先輩が打ったサーブにただただびっくりしている様子だった。……なんとも、無い……のかな。
「……平気?頭、とか……」
体を起こして何でもないように振る舞う雄馬くんに、凪くんがそう声をかけるものの『何がだ?』と素っ頓狂な声をあげるものだから、一瞬体育館の中が静まり返ってしまった。下級生チームは雄馬くんのよく通る声を聞いていたものだから呆気に取られてから思わず、失笑……いや、人によってはケラケラと笑い始めてしまった。もちろん笑いの波がうつったのは上級生チームにも同じようだった。主将や眞央先輩辺りは溜め息まじりに『やれやれ』と肩を落としていたけれど、世凪先輩辺りは『怪我してないなら、すぐに戻ってよねぇ!まったく!』とネット越しに文句を吐き、毒島先輩や月見里蒼葉先輩、莉央先輩なんかは『大丈夫かぁ?』と心配してはいるものの、口は笑っていたように見えた。
人、今、倒れていたんですけれど……そ、そんなに笑えるものなんですかね……まあ、雄馬くん本人が何ともなさそうにしているから大丈夫だとは思うんだけれど……。
そんな中、
ピピィィィィ と鳴る笛。
慌ててスコアボードを見ると(途中からどのぐらいの点差がひらいているかなんて確認している暇が無かった)25対6。なんとも下級生チームにとっては悔しいほど、点差がひらいてしまった練習試合となってしまったようだ。でも、必要以上に落ち込んでいたりだとか、悔しがっている様子を見せている下級生たちはいなかったように見える。
さすがに私も、経験がある上級生チームに敵うとは思っていなかったけれど、もう少し……もう少しぐらいは、下級生チームには頑張ってもらいたかった、っていう気持ちが無いわけじゃなかった。でも、コートに立っている選手たちが気持ち良くバレーを出来ていたのならそれはそれで良い試合になったかな、とノートを片付けでパチパチと拍手を送ってあげた。もちろん拍手を送ったのは両チームに対して。
スコアボードをそのままに、杢代瑠璃先輩は大急ぎでドリンクを選手一人一人に渡していくものだから、私も慌ててドリンクを……主に、一年生たちに向けて渡して行った。
「お疲れ様。はい、飲んで飲んで!」
「……どうも」
「サンキュー!」
一通り選手全員にドリンクが行き渡るのを確認すると、私は監督に向けてドリンクを持って行った。
「お疲れ様でした、監督。こちら、どうぞ」
「ああ。悪いな。……どうだった、今日の練習試合」
「え?あー……はは、ついつい見入っちゃいましたよ。こんなに近くで、バレーを観るのは久しぶりだったので。でも、いろいろ面白いところも見られたので、とても面白かったです」
私が素直にそう感想をつげていくと、『そうか』と言葉数は少ないもののグラサンのせいで目元は分からなかったが、口元には笑みが浮かんでいた。もちろん、練習試合中に気が付いたこと、いろいろ私が思ったことなどは大学ノートに、数ページに渡って書かせてもらった。ちょっと走り書きっぽくなってしまっていて読みにくいところもあるかもしれないけれど……そこは、ちょっと大目に見てもらいたい。それだけ試合に白熱していたってことで。
「それぞれ新たな目標、目指すところがあると思うが、決して悪い試合ではなかった。そして、一年生たちには、これから毎日、日記を書いて提出してもらうから忘れないように」
一度、体育館から出て行ってしまった監督だったが、再び戻って来た監督の手には何冊もの大学ノート(もちろん新品)が。それを一年生たちに渡していった。よくよく見ていくと、既に大学ノートの表紙には、一年生の名前が記入されていて(おそらく監督が書いたのだろう)それぞれの選手に監督が自ら手渡していった。
日記、には一年生たちは誰もが不思議がっていて、『何を書くんだ?』『……さあ?』『日記、ですよね』ひそひそとした声が上がっていたが、そう難しく考えることはないだろう。
「日記だよ、日記。書いたことない?今日あった部活で感じたこと、思ったこと、何でも自由に書いて良いんだって!」
私が軽く言葉を付け足すと、なるほど……と、なんとか納得してもらえたようだ。それにしても日記か……最近は、書いてなかったなあ……しかも、毎日書かなきゃいけないのか……結構、大変なのかも。
え、そこまで大差が付いた試合になっちゃったの!?と思われるかもしれませんが、最初の鐙先輩のサーブから始まった時点で、かなり点差が付いてしまっていました。いつの間に、終わった!?と感じるかもしれませんが、これが、バレーあるあるです!(ぇ)もうちょっと丁寧に書いても良かったかとも思いましたが、初っ端から書き過ぎるのもね……と思いましたので(汗)
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