22球 鐙先輩の強烈サーブ
ピピィィィィ!!!
コートを挟んで向き合う上級生チームと一年生プラス律先輩のチーム。
これから、どんなワクワクを見させてくれるんだろうか!
「「「よろしくお願いしまっす!!!」」」
お互いに向き合って、頭を下げる。スポーツ界で、こういう相手チームと挨拶をしたり、きちんと礼儀作法をするってことが多いけれど、とても良いことだと思う。自分勝手にならない、というか……きちんと相手のことも考えられるって素晴らしいことだよね。
「コインの表が出たらサーブは上級生チーム。裏なら下級生チームからとする」
谷古宇監督が指先でコインを軽く弾く。パシッと手の甲で受け止めたコインは『表』だった。つまり、上級生チームからのサーブで試合がはじまる。
「サーブ来るよ!レシーブ、気合いを入れてしっかりーっ!」
あ、ついつい下級生チームに向かってそう叫んでしまったが、大丈夫だっただろうか。ハッと慌てて口を手のひらで覆ったものの監督も先輩たちからも特に注意されることは無かったみたい。……ついつい、こういうのって見ている方としても白熱してしまって声をかけたくなっちゃうんだよね。しかも目の前で試合がはじまるんだからそりゃあ見ている方も興奮するってものでしょう。
お、応援もしちゃうけれど、監督に任された自分の仕事だってきちんとするつもり。既にノートは開いて、片手にシャープペンを持ち、何かあればすぐにでもノートに書き込める準備はバッチリなんだから!
上級生チームのサーブ。
まずは、主将の鐙凌駕先輩からのサーブで始まるらしい。
バレーボールって立ち位置がくるくる回っていくから、サーブ権は誰から始めるのかって何か違うのか?って思われるかもしれないけれど、サーブが上手い人からはじめれば相手チームは度肝を抜かれることになるし、当然、得点だって取りにくくなる。ましてや、下級生チームはほとんど昨日今日知り合ったようなばかりで出来たチームになるものだから……お互いのことをよく知らないまま試合をするようなもの。
高く放り投げられたボールを鐙先輩は容赦が無く、ジャンプしながら強いサーブを叩き込んできた。
もちろんアウトになるようなボールじゃない。コートのど真ん中にぶち込んでくるような勢いのあるサーブだった。昼神陽介くんや、二年の夫馬律樹先輩が反応するもののそれ以上に勢いのあるサーブはコートに落ちた。
「……凄いサーブ……」
さすが三年生、と言うべきだろうか。今のは全力をぶち込んだサーブだったのだろうか、それともある程度、力を抜いたサーブだったんだろうか……。下級生、特に一年生たちは呆気に取られるばかり。律先輩と帷子凪くんは静かにジッと相手コートの先輩たちを見ているみたい。凪くんは心の中ではギラギラと炎を燃やしているのかもしれない。それは、凪くんのポジションに理由がある。セッターの凪くんは出来ることならばどんなサーブが飛んでこようとも一回目にはボールに触れない方が良い。二回目において良いトスをあげる役割がセッターというポジションだからだ。だから、もしかしたら上級生たちの放つサーブをレシーブすることができない自分にも苛立っているのかもしれない。顔はめちゃくちゃ冷静に見えるけれど……。
「はは、どうしたどうした?ほら、もう一球行くぞ!」
鐙先輩も……いや、いくら練習試合だとしても手を抜かないスタイルなのかな。再び高く放り投げたボールをジャンプして勢い良く打ち込んでいくサーブ。今度は、見事に律先輩はサーブの勢いを殺したレシーブをすると凪くんのいる位置にピンポイントでボールを返していく。さあ、凪くんは最初の攻撃に誰を使うんだろう?
「陽介。……ほら、高いボールをご希望でしょ」
凪くんはオーバーハンドで高い高いトスを上げていった。
それに反応した陽介くんは助走を付けてバックアタックを決めようとするが、上級生チームはそれを読んでいたようで、毒島琉生先輩、九世凪先輩、五十木眞央先輩による三人のブロックによって陽介くんの打ったスパイクは下級生チームのコートに叩き落されてしまった。
う~ん……今、下級生チームの前衛にいるのは雲英雄馬くん、凪くん、そして御法川凛空くん。もっとスパイク決定率を上げるためには前衛をもっと使っていくべきかもしれないけれど、雄馬くんはスパイクを理解できているかも怪しいし、凛空くんもスパイクはきちんとできるのか不安なところだ。……立ち位置、ちょっと間違ったかな……。
でも、陽介くんのバックアタック自体はそう悪いものでは無かったように思う。高いトスにタイミング合うか!?と心配してしまったけれど、そこには何の問題も無さそうだった。きちんと助走を付けたジャンプも高くて見事だったと思う。……自然と私はノートに書き込むペンが止まらなくなってしまっていて、とにかく一球が上がるたびに、この選手はこうだった、こういうところが良かった……と、めちゃくちゃ書き込んでしまっていた。
「ふふっ、ざぁ~んねん。ゲーム小僧。次にトスをあげるとするなら、御法川辺りなんじゃないのぉ?」
世凪先輩……。めちゃくちゃ凪くんに対して挑発していますね……あまり良いことではないけれど、そういうことをされると凪くんの心の中では炎が燃え上がるのではないでしょうか。
雄馬くんか凛空くんに、トスを上げてみては……?一応、スパイクってこういうモノ!っていうものは雄馬くんにも見せてみせたし、運動神経がそこまで悪くない雄馬くんならきっと出来るんじゃないか。凛空くんだって頭をフル回転しながら上級生チームに穴がないか、と一生懸命になって考えているんじゃないだろうか。
「……ムカつく……」
じっと世凪先輩と向き合っていた凪くんがぼそりと呟きをもらした。それは、誰に対しての『ムカつく』だったんだろう。
まだまだ鐙先輩からのジャンピングサーブは続いていく。だんだん順応してくる一年生たちが率先してレシーブをしていくが、鐙先輩のサーブはそう簡単にレシーブできるシロモノでは無さそうだ。腕には当たるものの、凪くんがいる位置に返すことができない。下手をすれば、とんでもない方向へと飛んで行ってしまう。それは、鐙先輩のサーブの威力が強いってことを示していた。……まだ、難しいのだろうか……三年生のサーブをきちんと返すことはまだまだ時間がかかるんだろうか……と私も難しい顔をして、もう何度目かになる鐙先輩のサーブを見送っていたときだった。
「……余計な力は、抜く……きちんと、腕で……足は、どっしりと構える……」
その声は、雄馬くんの声……だった気がする。鐙先輩のサーブが床に落ちてしまう前に体を滑り込ませたのは雄馬くん。しっかりと両腕で受けたボールは……高く高く、上空へ。それは凪くんがいる位置には返らなかったけれど、ここまで高く上がれば凪くんなら追いかけることができる!急ぎ走り込んでいった凪くんは片腕でのレシーブになってしまったもののなんとか上がったボール。それを上級生チームに返したのは凛空くんだった。それは、とてもタイミングの合うスパイクなんて呼べるようなものじゃなかった。軽く片手で上級生チームのいるコートに軽く押し込んで返しただけ。それでも、凛空くんの放ったボールは上級生チームのコートに……ポトンと落ちたのだった。
でも、そんな上級生チームのコートに落ちたボールに一番びっくりしていたのは、凛空くん自身だったようで。しばらくの間、『何が起きたんでしょうか?』と目を丸くしていた。『ナイスー!』『よくやったな、凛空!』と沸き立つ下級生チーム。
「……ナイス、凛空。その調子で、どんどん打っちゃって。スパイクを決めようだなんて思わなくて良いよ。とにかく返せばいいから」
立ち位置に戻ってきた凪くんは凛空くんに対して『ナイス』と言いながら、次いでいろいろと言葉を述べていたみたいだった。
「!が、頑張れ!頑張れ、みんなーっ!!」
これでサーブ権が下級生チームにまわってくるので、ローテーションが一つ移動する。
次にサーブを放つのは、凛空くんだ。
くぅ~っ!!!こういう作品を書かせていただいていると、やっぱりバレーが観たくなる!アニメでも良い!観たくなりますなぁ!!!燃えるーっ!!!少しでも皆さんの頭の中で、森川学園の男バレの光景がうつっていますように!!
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