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21球 私の役割

 ポジション……というか、スタートの立ち位置は取り敢えず決められた。

 凪くんが意外とあれこれと言い出してくれたので助かった助かった!

 さて、上級生たちはどう……来る?

「張り切るのは良いが、一応怪我だけには注意しろよ、お前ら。練習試合までまだ時間があるから入念にストレッチでもしておいてくれ!」


 さすが、というべきか。

 やはり主将の鐙凌駕あぶみ・りょうが先輩が言うと例えストレッチだとしても気合いが入る……ような気がするのは私だけだろうか。

 自然と二人一組になってストレッチをし始めていくと、ここでもちょっとした問題が起きたようだった。


「イデデデ!ちょ、痛いっす!」


「はぁ!?アンタの体が堅いだけでしょぉ。文句は言わないっ!」


 三年生の九世凪いちじく・せな先輩と二年生の五十木莉央いそぎ・りお先輩がペアを組んでストレッチをしているようだが、スポーツをしているにしてはかなり体が堅そうな莉央先輩に文句を吐きながらぐいぐいと背中を押していく世凪先輩。……まあ、すぐには体って柔らかくはならないんだけれど、堅い人を見るとついついその背中とかを押してみたくなる気持ち、分かります。


 鐙先輩は、同じく三年の月見里蒼葉やまなし・あおば先輩とマネージャーの杢代瑠璃もくだい・るり先輩とともに谷古宇やこう監督の近くで何やら話し合っているみたい。杢代先輩なんて手にしているメモ帳にあれこれと記入をしているから大事な話……でもしているんだろう。あ、マネージャーとして私も監督たちの話に加わった方が良かったかもしれない。二年生の夫馬律樹ふま・りつき先輩が来たことで、ちょうど人数的には偶数。自然とペアがつくられていき、各々、文句やら体の堅さに悲鳴をあげながらもストレッチは順調に進んでいった。


「あ、ともえちゃんもちょっと良い?こっちこっち」


 手が足り無さそうなペアは無さそうだし、練習試合に必要なものでも準備しようかと考えていたとき、タイミング良く杢代先輩から声がかかって手招きまでされたので、私も監督たちの話し合いに加わることになった。監督と三年生たちのなかに加わっていくのはちょっと勇気がいることだったけれど、どんな話し合いをしているのか気にもなっていたのでワクワクしていた。


「主審は、俺がやろう。杢代はスコアボード。……そして、千早には選手たちをよくよく観察してもらいたい」


「観察……ですか?」


 どんなことを言われるかちょーっとだけビクビクしていたのだけれど(だって監督と上級生しかいない場だったからね)監督から言われたことには首を傾げることしかできなかった。


「どんな些細なことでも良い。千早が目に付いたこと、気が付いたこと。何でもこのノートに書き込んでみてくれ」


 そう言われて手渡されたのは、まだ新しい真っ白な状態の大学ノート。


「主に一年生たちの動き。もしも余裕があれば、二三年生たちの様子もよく観て、ノートに書き込んでみてくれるか?」


「……なんだか、めちゃくちゃ難しそうなことを言われている気がするんですが……」


「はは!まあまあ!千早チャンのバレーの腕も見込まれてるってことだな。バレーはコートに立つだけが選手の役割じゃない。外から見ていて気が付くことだって多いもんだから。これに書いて、どんどん指摘してやれ。上級生にはいろいろ言いにくいことだってあるだろ?このノートは部員が誰でも目にすることができるノートにするから、愚痴でも文句でも自由に書いてやれってことさ」


「鐙……愚痴や文句があるなら日記に書いて寄越してくれても良いんだが?」


「あー……いえいえ、そんなことは無いっすよ~!」


 ははは!と大きな声で笑いながら監督からさり気なく視線を外してしまった鐙先輩。……もしかしたら、このノートにはいろいろな部員からの愚痴やら文句で埋め尽くされる日も近いのかもしれない。


「もちろん部の練習内容について、気になることがあれば記載してもらって良いぜ。こんな練習はどうか、とかこういう練習はどうか?っていう感じでな」


 大学ノートを指先でトントンと突っつきながらつげてくれるのは月見里先輩だった。


「……取り敢えず、今日の時点で自分が気になったことを書かせてもらいます。上手く文章になるかは……分かりませんけれど……」


 運動をしていると、どうしてもバシッと、とか……ズバッ!と、って感じで言葉にならない擬音だけで会話をしてしまうこともある。こういうのって一度染みついてしまうとなかなか抜けないもので運動をしていない人との会話の中で使ってしまうと『?』マークを顔に浮かべられてしまうので語彙力みたいなものはもうちょっと付けた方が良いかなと思っているんだけれど……なかなか、ね。その辺りは自分への課題になっていくのかもしれない。


「それじゃあ、私はドリンクの用意をしてきます。巴ちゃんも手伝ってもらえるかな?」


「!はい、もちろん!」


 取り敢えず、大学ノートは体育館の端の方へ置き、杢代先輩と一緒に空のスクイズボトルを抱えて水道のある裏の方へと向かって行った。もちろん一年生の分もボトルが増えたからこれを一人で運んだり、用意したりするのは大変になるだろう。


「ドリンクの粉は、そんなに細かく計るってことはしていないんだけれど……こういうのもちゃんと調べた方が選手たちには良いかもしれないね……」


「あと、選手によって粉の量を変えてみたりするっていうこともしているみたいです。運動量に合わせて、ちょっと濃くしてみるとか……」


「……ドリンクも、奥が深いね」


「……まあ、それだけ選手たちには張り切って動いてもらえれば良いかな、と」


 会話をしつつも、きちんと手を動かし、一本一本丁寧にドリンクの粉と水を入れて休憩用に口にするであろうドリンクを作っていく。あまりドリンク作りの経験は無いのだけれど、これが人の口に入るものって考えていけば丁寧に、それでも早く作らなくちゃいけないっていうのはなかなかの作業かもしれない。杢代先輩はとても手慣れた様子で作っていくのに対し、私はまだまだ一本分を用意するだけでもかなり時間がかかってしまっていた。


「こういうのは慣れだから。それに巴ちゃんには巴ちゃんにしか出来ないことがあるみたいだし……頑張ってね」


「!はい」


 きっと部員の観察のことを言われたんだよね。

 ここの男バレのみんなは、一体どんなバレーを魅せてくれるんだろうか……どれぐらい、胸をワクワクさせてくれるんだろうか。今、考えていることはそればかりで、一度でも良い、思わず自分もバレーがしたくなってしまうかのようなプレイをしてもらいたいなあ……と考えながら仕上がったスクイズボトルを籠にいくつも詰めてまとめて運んで行った。全員分のボトルともなると籠は三つ分にもなってしまったから、杢代先輩と私とで一つずつ、そして残りの籠を二人で仲良く持って体育館へと戻って行くことになった。もちろんボトルには、監督の分、そして私たちマネージャーの分も用意されて、人数以上に余分に作った。


 体育館に戻ると、緩んでいたネットはしっかりと張られ、コートの端と端には上級生チームと一年生プラス二年の律先輩が集まって相談をしていた。主審をするらしい監督は、どちらのチームにも特に口を挟んだりすることはなく、壁際に立ちながら様子を伺っているみたい。

 いよいよ、練習試合が始まるんだ!


「杢代、千早、ご苦労。スコアボードはそこにあるから杢代は座りながらで良いからスコアを付けるように。千早も無理にずっと立っていなくても良いから……頼むぞ」


「「はい!」」


 体育館の隅に置いていた大学ノートを開いてペンを持てば、いつでも書き込める準備をする。


「よし、では、これから練習試合を開始する!」


 ピピィィィィ!!


 試合開始の合図が鳴った。

 やーっと、だよ……やっと試合がはじめられる!!!なっが!!長いけれど、それぞれの部員を大切にしていきたいので、多少は(多少?)長くなるかもしれませんが、興味を持っていただけると嬉しいです!!


 良ければ『ブックマーク』や『評価』などをしていただけると嬉しいです!もちろん全ての読者様には愛と感謝をお届けしていきますよ!

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