20球 立ち位置決め
なんと今日の練習試合から復帰することになった二年生のリベロは、見た目がとても派手な人でした。
……でも、森川学園においてここまで派手にしている生徒もなかなかに珍しいと思う。
派手好きだったりするのかな?
「二年の夫馬律樹!律でいいぜ!よろしく~!」
と、取り敢えず数が足りていなかった一年生のチームには、リベロの……律先輩が入ってくれるらしい。最初は谷古宇監督が加わる予定だったらしいけれど、律先輩が復帰するってことで今日から部の練習にも復帰するみたい。……怪我、かな?ちょっと律先輩の様子には気を配っていく必要があるかもしれない。
「なあなあ、巴、りべろ……って?」
そ、そうだった。
バレー知識がほとんど無い、雲英雄馬くんからすれば『リベロ』ってどんな存在かも分からないよね。一年生のポジションを確認していくと同時に、雄馬くんにはバレーの簡単なルールも教えていかないと。
「リベロって言うのは、とにかく守備に徹底する選手のこと。いろいろ細かなルールはあるんだけれど、とにかく守備が上手い選手ってことで覚えておいてくれる?」
「お、おお……分かった」
「ん?なんだ?お前、バレーの知識はさっぱりってか?今時、珍しいヤツなんだなあ?」
ひょこっと話に加わってくる律先輩も雄馬くんのバレーの知識の無さには目を丸くしているみたい。そうだよね、ここまでルールも何もほとんど知らないっていうのは珍しいかもしれない。例え、部活経験が無いっていう人でも最低限のルールぐらいは知っている人も多いスポーツになってきているからだ。それは、昨今の日本バレーが人気を高めているってことと関係があるのかもしれない。
「さて、ポジションは……律先輩は、もちろんリベロに入ってもらうんだけれど……あ、でももう一人いないと厳しいかな……」
「……俺はセッターで。それ以外、考えられないから。あと、リベロの律先輩は……後方の左サイド固定って特別ルールにはできないわけ?人数的に足りないのは向こうもこっちも同じなわけだし、リベロは固定。それで、残りの一年たちはローテーションでぐるぐる回るのは有りでしょ。でも、雄馬は一番ド素人だからなるべく経験豊富な選手の近くに置きたいんだよね」
私が一年生のポジションとスタート位置について考えていると帷子凪くんが横からアドバイスを挟んでくれた。こういうことは一人でなかなか考えられるものではないし、経験豊富な凪くんのアドバイスはとても参考になる。
「なら、雄馬くんは律先輩の隣……もしくは、凪くんの隣あたりからスタートさせるのが良いんじゃない?」
「……ん、それで良いと思う。あと……そうだね……陽介をオポジットにして。たぶん、この一年の中で一番攻撃力が強そうなのは陽介……だと思うから」
近くにホワイトボードがあったから、これ幸いとばかりにあちこちに記入していく私。えーっと、律先輩は左サイドで固定。取り敢えず、雄馬くんは前衛の左サイドへ書き入れる。セッターの凪くんは前衛の真ん中へと記入していくことに。そして、オポジットに指名された昼神陽介くんんの名前はセッターである凪くんと対角にあたる、後衛の真ん中へと記入していく。さて、残りの二人を何処に置くべきか……。
どちら側からサーブがはじまるとかっていうのは決まっていないけれど、もしもこちらのチームがサーブ権を先取したのなら、少しでも経験がある薬袋一輝くんを後衛の右サイドに置くべきだろうか……。それとも、次にサーブがまわってくるであろう御法川凛空くんをその位置に置くべきか……悩む。
「凛空は確か、情報収集が得意だったよね……だったら、少しでも情報を蓄えるために、前衛からはじめさせて。そして、一輝が後衛からスタート……それで良いんじゃない?」
おおー!凪くんのアドバイスは役に立つことばかりだ。
「……立ち位置って、ぐるぐるまわっていくんだよな……なんだかポジションとか言われてもイマイチ……分かんねえけれど……」
「ははは……」
雄馬くんは、まだ細かなポジションの役割とかが分かっていないから混乱してしまうのも仕方ないんだよね。これから一つ一つ覚えていけば良いんだよ。それに、今回は練習試合を経験しながらバレーの知識を蓄えることができるチャンスでもある!雄馬くんにとっては、この練習試合でたくさん覚えていかなきゃならないことが増えるかもしれないけれど、大きく成長する糧にもなるんじゃないかな。
「手が空いてそうだったら、誰にでもトスは上げるつもりだから……軽くで良いから、こういうトスが欲しいとか……希望があったら教えてくれる?」
「えーっと、自分は……あまり、そういう練習をしたことはないのですが……」
困っている様子の凛空くんだけれど、コートに立つ以上は凛空くんにだってスパイクを打つチャンスはゼロでは無い。ひょんなことでも良いから打ちやすいボールがあるのなら今のうちに凪くんに言っておいた方が良いだろう。
「はいはーい!俺は、めっちゃ高いボールが良い!」
わざわざ手をあげながら大きな声で希望を出すのは陽介くん。
「……高いボールね。……ネットからの位置とかはどうする?」
「う~ん……そこは、特に……とにかく高いボールをくれ!」
「俺はどうなんだろう……でも、打ちやすいって言ったら高いボールの方が良いよな……」
一輝くんも陽介くんと同様の希望を出していく。うんうん、こうやって自分の好みのトスをセッターに教えるのも大切なことだよね。
「一応聞くけれど……雄馬って、スパイクは打てるの?」
ど、どうなんだろう……そもそも、スパイクの意味を分かっているんだろうか……と雄馬くんの様子を見てみれば、『すぱいく?』と不思議そうな顔をしていた。やっぱりあの顔は分かっていないみたい。
「……はぁー……千早、立ったままで良いからボール投げるから、打ってみてくれる?」
え、私?
と口を開く間も無く、ポーンと高く放り投げられたボールを見ては、ジャンプをせずに手のひらでバシッとボールを床に打ち込んだ。手のひらがじんわりと熱を持ったように熱くなる。
「……コレが、スパイク。分かった?」
私が軽く打ったスパイクでも『なかなかだね』と感想を述べてくれる凪くんにホッとした。ちゃんとスパイクらしくはなったかな?
「……な、なんとなく……」
「はは!ここまで無知っていうのも珍しいな!いろいろイチから教え込んでやるから安心しろ?大丈夫大丈夫!最初から何もかもが上手くいくなんて考えてねえよ!取り敢えず、先輩たちや監督は、お前ら一年がどれだけのことを出来るかってことを見たいだけだからさ。……でも、最初から負ける気でいるようだったら、俺がぶっ飛ばす」
この律先輩という人物は、負けん気というか熱血漢でもありそうだけれど、凄いやる気に満ちている人なのかもしれない。もちろん私だって最初から負ける意識でいたら許せないし、背中を叩いてでも気合いを入れるつもりでいたけれど律先輩が良い感じに一年生たちに向けてやる気を奮い立たせてくれたようだった。
「お、やってるやってる!ポジションやら立ち位置やら、ちゃんと決められたか?」
練習用ジャージに着替えた先輩たちがずらずらと体育館に戻ってきた。ジャージが黒色のせいだろうか、どことなく怖くも見えてしまったけれど、きっとそれは自分よりも背丈があるからだろう。これからこの人たちと練習試合をするんだ。……見ているだけしかできない自分にちょっと悔しい気持ちはあるけれど、その分、サポートはするつもりだから一年生たちには頑張ってもらいたい。
ほとんどの一年生がポジション不明だと、立ち位置を決めるのも一苦労。そこで、助かるのは経験豊富な凪くん!うんうん、上手い具合に決められたと思う!(まあ細かくポジションを決めていくとなると細かなルールがプラスされるので、今回は取り敢えずスタートの立ち位置だけ)
でも、相手は高校で練習を積み重ねてきた上級生たち。別に勝とうとかは思わなくても良い。でも、やる気だけは持って、挑んで欲しいです!頑張れ、一年プラス律先輩!
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