2球 県外の学校へ受験。地元から飛び出せ!
最初はまともに歩くことさえままならなかった。
だからリハビリを集中的におこなった。
そして支えも無しに歩くことができるようになった。
それでも、激しい運動はできなくなっちゃったんだね、私の足……。
さようなら、バレーボール。
私は徹底してバレーボールから避けた生活をしていた。中学を卒業する前まで、バレーボール部で活動していたときには有名校からスカウトの話も受けていたけれど私の事故を知ったのかスカウトの話は無かったことにされてしまった。それでもなかには『選手としてではなくマネージャーとしてでも良ければ!』というモノ好きなスカウトの話もあったみたいだけれど、そんな選手として活躍できないからマネージャーとしてどう?だなんて、誰が好き好んでそんな話を引き受けると思うのよ。
それに同じ県内には私の名はそこそこに知られてしまっている。同世代で、バレーボールをしている人なら『千早巴』の名は知れ渡っている。なにせ全国大会準決勝まで進んだ学校で腕の良いスパイカーだったのだから。このまま県内の高校に進学すればまたどうこう言われるに違いない。下手をすればバレーボール部に勧誘されることもあるかもしれない。できれば高校ではバレーボールとは縁の無い生活を過ごしたかった。それに生活に支障なく歩けるようになったからって心も元気になったわけじゃない。むしろ心の傷の方はまだまだ塞がる様子が無い。
私は部活動に必死に取り組んで活発な選手だった。でも、今の私はまるで別人みたい。暗く、一日中部屋に閉じこもってしまうことが多くなってしまった。バレーボールに関する情報が耳に入らないように、大人しく過ごしていた。
そんな私の様子をみた両親は、このままじゃいけないと思い。高校は思い切って県外の学校はどうか?と勧めてきたのだ。
「県外?」
それは両親に言われるまで考えたこともなかった。下手をすれば高校に行くことも自分のなかでは諦めていたかもしれない。でも県外といってもどこが良いだろう。なかなか県外の中学生を受け入れてくれる高校なんてそう簡単に見つかるのだろうか。そこはインターネットを使って地道に見つけるしかなかった。北は北海道から南は沖縄まで、いろいろな学校のHPを探して新入生に求めることや受験するにあたっての条件なども確認していった。そのなかで、一つの学校に目を止めたのだ。
「神奈川の……森川学園?」
「うん。ここは県内外の生徒が多く通っているみたい。近くに家が無い生徒は寮で生活することになるんだけれどウチって確かおばさんの家が神奈川になかったっけ?住所を調べてみたんだけれどそんなに遠くないみたい」
たまたま親戚の家があること。そして県内外問わず多くの生徒が全国のあちこちから受験していること。そして、女子バレーボール部が無い、というところに私は惹かれた。もともと高校でバレーボールをする気は無かった……というか、出来ないのだからちょうど良い。
「海もそう遠く無いから……良い気晴らしになると思うんだよね。リハビリがてら散歩してみるのも良いかもしれないし」
私生活に問題が無くなった状態とはいえ、何もせずにいればまた膝の調子を崩してしまう。激しい運動はダメだけれど、リハビリは定期的におこなったほうが良いと医師から言われていた。海の近くで散歩がてら歩いてリハビリをできるのなら気持ち良いかもしれない。
「神奈川……ちょっと、遠いわね。あ、おばさんたちなら喜んで一緒に住んでくれるはずだけれど」
「このまま長野にいたら、きっと私耐えられないと思う。長野県内の高校に進学しても、きっとすぐに行けなくなっちゃうかもしれない。だから、神奈川に……森川学園に受験させてください!」
両親に向かって深々と頭を下げた。中学の間だって部活にばかりのめり込んでいて迷惑を掛けてしまったけれど、これからはその時以上に心配を掛けることになってしまうかもしれない。でも、この森川学園に心惹かれてしまったのだ。
「巴。そうね、あなた自身が良いと思った学校が良いのかもしれないわね」
「海も近いのか。長野は海無し県だから慣れるまで大変かもしれないなあ」
もちろん、受験をして、合格しなければ森川学園に通うことはできない。それでもなんとか説得することは出来たようだ。
「ありがとう、お母さん、お父さん!」
「神奈川の学校かあ、しっかり勉強しないとなあ。長野とじゃ学力にも差があるんじゃないか?」
「あ。一応、部活やっていても勉強だってちゃんとやっていたもん。今から足りないところを集中して詰め込んで臨むから大丈夫!」
部活に一生懸命になるのは良いが勉強が疎かになってしまっては学生として恥ずかしいと思った私は部活が終わればきちんと自宅で勉強もしていた。おかげで成績は上位をキープしていたからね。たぶんこのまま順調に勉強もしていけば森川学園に不合格になることもない、はず。
「巴、頑張るのよ。お母さん、応援するからね」
「……うん、ありがとう」
でもね、お母さん。お母さんは『頑張れ』って言ってくれるけれど、私ずっとずっと頑張ってきているんだよ。お母さんには伝わっていなかったのかな?部活も全国で準決勝まで進むことができたし、勉強もきちんとしていた。その頑張りを、お母さんは知らなかったのかな……。
中学校の担任の先生には受験は県外の学校に決めたと告げると『大変だろうが、応援するからな』と気合を入れてくれた。担任の先生っていうだけであまり今まで相談らしい相談事は何も出来なかったけれど今回ばかりはとても励みになりましたよ。
自分に足りない、苦手な分野を重点的に勉強しつつ、得意分野にも穴が無いように必死になって勉強をした。そして受験の日。特に緊張することもなく臨むことができた。あとは結果を待つだけ。
やはり全国あちこちから集まる学校だけあって森川学園は人気なのかもしれない。きっと倍率とか凄く高いんだろうなあ。どうか新一年生の枠の一つに私が含まれますように!と合格発表の日まで祈る日々。
『合格』と発表されたときには嬉しさよりも、落ち着いて良かった……と安堵した。これでここから離れることができる。私のことを知っている人が多い、この地域から少しでも遠くへ。私のことを知らない人がいるところで高校生活を送りたいから。
これからお世話になるおばさんの家には余裕を持って荷物を移動させた。おばさんはとても良い人で、私が事故って運動が出来なくなったと聞かされていたはずだが、そのことについては何も聞かずにいてくれた。それが何よりも今の私の心にはありがたかった。
そして、私は神奈川で新生活をはじめていくことになるのだった……。
高校受験で県外を選ぶというのはかなり勇気がいることだと思います。やっぱり同じ県内の学校へ……と考える人が多いことでしょう。でも、県外を受験する人にはそれぞれ何かを考えていたり、県外を選ぶことを考えなければならない理由があるものです。どんな学校を選んだとしてもその人を応援してあげましょう。
青春、スポコンを目指した作品です。いざスポーツがはじまったときにどんな文章で表現できるのか不安ではありますが、頑張らせていただきます。
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