18球 部室サプライズ
昼休みも終え、午後の授業がはじまる前にちょこっとだけ凪くんと話した。
『アイツら、いた?』と心配そうに問い掛けてきたものだから、体育館にいたよ、と応えると『そっか』とだけ。でも、わざわざ聞いてきたってことは、少なからず凪くんも気にしていたのかな?
午後の授業も何事も無く終えると凪くん、そして陽介くんの背中を押して体育館……の前に部室へ連れて行った。凪くんは『もう少し待って』と言っていたけれど、部室に向かうなか器用にスマホをイジっていたからきっとゲームか何かでもしていたんだろう。陽介くんは、これからおこなわれる予定の上級生vs一年生の練習試合にやる気を満ちているようだった。やるからには、負け腰じゃなくて勝つ気でいることは良いことだよね。
あ、でも部室って……。
ガチャガチャ
凪くんが押しても引いても開く気配の無い部室のドア。
!……わ、忘れていた。部室の鍵って三年の主将の鐙先輩が持っているんだったっけ。なら、私が着替えるはずの更衣室も……。
ガチャガチャ
……まだ、開かない。
しまった……ドジ踏んだ。そうそうに着替えて、練習試合のために支柱やネットの用意とかしたかったのに、これじゃここで先輩たちが来るまで待ってなきゃいけないんじゃん……。
「……ふふ、千早でもこういうドジするんだね。覚えておく」
「いや、そこは忘れてくれていいから!……鍵……先輩から預かっておけば良かったかなー……」
校舎の造り的に、一年生の方が部室に近い。だったら先に到着するであろう一年生に部室や更衣室の鍵を渡してくれたって良いのになあ……あ、お昼に月見里先輩に言って鐙先輩から貸してもらえば良かったのかも。しくじったー……。
「ま、開かないんじゃしょーがねえよ。待つしかないって」
仕方なく待つことに。
が、残りの一年生は集まってくるものの、二年三年の姿がいつまで経ってもあらわれない。あれ、どういうこと?
「千早チャ~ン、先輩から何か連絡とか入ってたりしねえの?」
「来てればとっくに教えてるよ。……何も無いし」
陽介くんが少しからかい気味に私にたずねてくるものの、一応スマホをチェックするが、主将はおろか、マネージャーの杢代先輩からも何も連絡らしい連絡は入っていない。
おかしいな。
遅れるとか、遅くなる場合があればきちんと連絡はくれるって言っていたんだけれど……。
「……ここでボケっと待っていてもはじまりませんね。一度、体育館に行ってみては如何です?」
腕組みをしながらも落ち着いているらしい御法川凛空くんに言われて、仕方なく体育館に移動することにした一年生組。
すると……。
「お。やっと、来たかお前ら!……って、なんだその顔は」
私たちの存在に気付いたらしい主将の鐙凌駕先輩がきょとんとした顔で見てくる。よくよく見れば他の上級生たちは制服姿のまま練習試合のために支柱やらネットを張る準備をしていた。
「え、え!?なんで、え!?」
すっかり私は混乱してしまって、頭を抱えたくなってしまった。だって、先輩たちはまだ制服姿なんだよ!?普通、着替えてからそういう準備ってするものなんじゃないの!?
「ん~?一体、どうした?お前ら。……もしかして、俺らが準備しているからビックリしたか?」
「いや、だって普通は……えーっと……」
「……普通は、着替えてから準備するものなんじゃないのか?って千早は混乱してるみたい」
な、ナイス凪くん!そう、それが言いたかったの!私は!!
「あー……なるほど。つか、蒼葉は?お前ら昼に会ったんだよな?アイツから何も聞いてないのか?」
鐙先輩が言うことに、?マークを顔に浮かべる一年生組。もちろん私も。
「あー……うん。いや、何でもない。うん……今度からは気を付ける。ほら、鍵!先にお前ら着替えてろ」
鐙先輩が投げてよこした(結構危ないと思います!)鍵をキャッチしたのは雲英雄馬くん。
「……先輩たちは?」
鍵をキャッチした雄馬くんが、まだ着替えていない先輩たちを見ては首を傾げていた。
「コレ、準備してから着替えるから、先行っててくれ」
な、なんだったんだろう?
特に何も言ってくれない先輩たち……一緒に着替えてくれれば良いのに……部室だってそこまで狭いわけじゃないよね?私が更衣室として使うところだって一度に何人も入って着替えるスペースぐらいあるはずなのになぁ……。
「よし、開いた!……って、なんだこりゃ!?」
先に部室の鍵を開けてドアを開けたらしい雄馬くんが部室のドアを開けたまま、素っ頓狂な声をあげている。何かあったんだろうか、と慌てた私は『どうしたの!?』と男バレの部室に顔を出すが、そこには……。
『ようこそ!男子バレーボール部へ!歓迎!新一年生!!!』
と書かれた紙が壁から反対側の壁に画びょうで留められ、折り紙で作ったらしい装飾が部室中に飾られていた。
「……これ、もしかして……もしかしなくても先輩たちのせい、だよね……」
「……他にいないでしょ」
まだ呆気にとられている私に、近くにいた凪くんがぼそっと呟きをもらした。
一体、いつの間に。……昼休み?昼休みに先輩たちがコレを用意していたんだろうか?部室の鍵は鐙先輩が持っている。だから、鐙先輩が他の先輩たちに声をかけて、コレを用意してくれていたのだとしたら……。
「おぉー!すっごいな!これ、俺たちのためにしてくれたんだろ!?はは!すっげー!」
雄馬くんは素直に驚き、そして感動していた。
他の一年生たちも最初は驚いていたものの、やがて落ち着いてくれば『凄いことしますね』『先輩たちって意外と暇人?』といった声があちこちから。
部員の数はそこまで多いとは言えない部だけれど、それでもこういう気遣いというか、一年生たちをビックリさせたい、そしてこの部にやってきて良かったと思わせたいという気持ちが伝わってきて、いろいろな意味で凄い先輩たちがいるものだ、と感動してしまった。
「……そこで感動しているのは良いんだけれどさ……いつまでいるの?覗くつもり?」
ハッ!!
凪くんのジロリとした視線と言葉に我に返ると、慌てて男バレの部室から出て行った私。なんか、そのうち凪くんから、からかわれてしまうような気がしてきた。
そして、雄馬くんから更衣室の鍵も受け取った私は、女子更衣室にも装飾が施されていることにまたもや感動。そして、この森川学園の名が刺繍されている練習用のジャージ(上下の長袖長ズボンは黒色のジャージだった)がラッピングされて『千早巴ちゃんへ』とメッセージ付きで置かれているものを見つけたときには、さらに感動してしまった。
さ、サプライズ好きだったりするんだろうか……こういうのってあまり慣れないからビックリしちゃうんだけれど、やっぱり嬉しい!
ワクワク、ドキドキと胸の鼓動を高鳴らせながら準備されていた練習用のジャージは、自前のTシャツの上に着て、着替えは完了!驚くほどにジャージのサイズはぴったりで、誰がサイズとか調べたんだろう?と思ってしまったけれど、だいたいジャージとかってフリーサイズだもんね。
私が更衣室を出たところで、真っ黒になった集団と出くわした。彼らはもちろん、練習用のジャージに着替えた一年生組。
「お、そっちにもあったのか!はは!先輩たちって凄いこと考えているんだな!俺、感動しちまったぜ!」
うん、陽介くんの発言に私も同意。
さて、この姿になった私たちを見て、先輩たちは何て言うだろうか……ちょっと、その反応を楽しみにしながら体育館へと向かった。
こんなことされたら嬉しいに決まっている!
絶対、入部!絶対、頑張る!!あれ、でも仮入部だったんじゃ……でも、ここまできたら入部確定でしょう!!
意外とサプライズ的なモノが好きな先輩たちが揃っていると楽しそうだなぁ!意外と主将辺りが言い出して準備していたりして……?
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