17球 一年トリオの自主練
どうやら薬袋一輝くんの様子を心配していたのは私だけではなかったらしい。
三年の月見里蒼葉先輩と一緒に体育館を見に行こうとすると、何やら物音が……もしかしたら一輝くんも凛空くんも雄馬くんも一緒にいるんじゃないの!?
バレないように体育館の入り口からそーっと中を覗く月見里先輩と私。すると……。
「また崩れていますね、薬袋くん。体の形が変ですよ」
「ぐっ……また、かよ~……」
「はは!まあまあ!一輝もボールはちゃんと上がってるぞ!ナイスナイスー!」
これ、は……!
ある意味、思っていた通りのことが起きていた。
薬袋一輝くん、御法川凛空くん、そして雲英雄馬くんが適度な位置に立ってブレザーの上着を脱ぎ、シャツを腕まくりしながらレシーブ練習をしていたのだ!
凛空くんは冷静に一輝くんのフォームを見ては、逐一『崩れていますよ』と伝えているし、雄馬くんもレシーブ練習に一緒に付き合っていることで自分のレシーブ練習にもつながっているし、もちろん一輝くんのレシーブ練習にもつながっている。
一輝くんは上手くいかない自分のレシーブに文句を吐きつつも、一緒に練習に付き合ってくれている他二人に対して文句を言うようなことは一切していない。自分に文句を吐いているようだ。
「ほらほら、次は凛空!いっくぞー!それっ!」
まだ雄馬くんのレシーブは安定しているものと思えないから両手で高く、凛空くんにボールを放り投げている。アンダーレシーブで構えている凛空くんの腕にあたり、バシッと良い音はしているはずなのだが、どうにも納得していない様子の凛空くんに『どうした?』とたずねる雄馬くん。
「なにか、変なような気がして。……自分では上手く言えないのですが、もっと良いレシーブの形があるような気がするのですが……」
「う~ん……ボールはちゃんと雄馬の方に飛んでいくよな?」
「こっちには届いているけれど……なんだろ、俺にもよく分かんねえんだよなぁ……」
そろそろ、だろうか。
不意にじっと月見里先輩を見上げると目が合った先輩は『やれやれ』と肩を竦めつつも体育館の中へと足を踏み入れていった。ついでに、私も。
「御法川は、ボールを受けている腕が上過ぎんだよなぁ。もっと下……前腕の方で受けることを意識した方がもっと上手くいくぞぉ?」
「「「月見里先輩!」」」
「あ、巴もいる」
「お邪魔しま~す」
「いいかぁ?レシーブっていうのは肘に近いところよりも、前腕の真ん中辺りで受けた方が一番安定しやすいんだ。腕の前過ぎず、後ろ過ぎず……こればっかりは何度も往復練習して体を慣らすしかないなぁ」
「は、はぁ……あ、ありがとうございます!」
きょとんとしていた凛空くんだったけれど、慌てて頭を下げてお礼を述べた。しっかりとした姿勢は、今までに築き上げられてきたものなのかもしれない。
「巴、どうしたんだ?先輩と一緒に」
「どうした?じゃないよ。三人とも教室にいないっていうから……もしかしたらって思って体育館に来たら練習しているし……」
でも、先輩からは自主練しておくよーに、だなんて言われたわけでもないのに自主的にお昼時間を使って練習をしているなんて三人のこと、改めて見直さなきゃいけないかもしれない。さっきまではもしかしたら一輝くんはバレーをやめちゃうんじゃないか……って思っていたもんね、私。
「だってよ~……朝、主将にこてんぱんにされたんだぜ?俺。あんなの、あんなやられっぱなし……悔しいじゃねえか……」
個人練習をしているところを見られて気まずかったのか、そっぽを向きながらも悔しさを表に出してくる一輝くん。主将があまりにも厳しくあたるから大丈夫かな?精神的にもしょげてないかな?って思っていたけれど、逆だったみたいだ。運動部ならでは、というか、逆に火を付けてしまったみたいでやる気は一応継続してくれているみたい。
「でも、まだ顔を合わせたばかりの先輩が、あんなに熱心に練習に付き合ってくれるっていうのもなかなか無いと思うよ。それだけ一輝くんに期待している、って考えれば良いんじゃないかな?」
「……最初は、帷子くんも誘おうと思ったのですが……たぶん、というか、おそらく一年の中で彼が一番上手そうなので。でも、見つからなかったものですから……」
「凪くんも陽介くんも私と同じ五組だよ」
「五組!?……三人とも、頭良いんですね……」
「は?」
え、五組だと頭が良いの?え、そういう決まりとかってあったりしたっけ?
私が不思議そうな顔をしているからそれを察したのか、月見里先輩がそっと言葉を付け足してくれた。
「ウチの学校って、基本五クラスなんだけれど……成績は五組がトップ……っつーことになっているらしいぞ?」
「……それは、知らなかったです……」
そうなの?つまりは、入試のときの成績ってことだよね。
それが、トップ……凪くんも陽介くんも勉強ができるってことなんだ。あ、いや、別に、できなさそうには見えないんだけれど……あんまり、そういうイメージが……無かったなぁ……。
ちなみに話を聞いていけば雄馬くんと一輝くんが一組、凛空くんは二組だとのこと。……お、同じ学校だし!これからどうなるか分からないんだからクラスがちょっと違うってだけで頭良いとか悪いとかなんて分からないじゃない!うん!
「んで?邪魔したコッチが言うのもなんだけれど、続き……やるのかぁ?」
「あ、巴も来たからフォームもきちんと見てもらえるじゃん!」
「はいはい、でもギリギリまで練習しないでよ?余裕を持って切り上げるからね」
ぱんぱん!と手を叩くと時計を見上げて時間を確認。
うん、午後の授業までにはまだ余裕がある。
だったら少しでも良い練習ができるように集中しなければ!
「よっし、じゃあ俺は薬袋を見てやろう。……言っておくがジョークは狙ってねえからなぁ?」
「……そういうジョークは、あまり口にしない方が……」
一瞬、一年トリオは静かになり、月見里先輩に向けて呆れたような何とも言えない顔をしていた。少しばかりシラケたような空気になりながらも月見里先輩は一輝くんに付き添って徹底的にフォームを見直していった。
そして、私は雄馬くんと凛空くんに付き添うことで、雄馬くんもレシーブ練習ができるようにボール出しをしていった。うーん……まだまだ雄馬くんのレシーブは『レシーブ』と呼べるかどうか怪しいものだけれど初心者が自主的になってここまで頑張っているのだから、その頑張りというものは素直に褒めてあげたい。
凛空くんはやる気もあるし、きちんとボールの落下地点にも足が動くようになってはいるのだけれど、自分で納得のいくレシーブができていないことに不満そうにしていた。そうやって『俺はできている!』と納得してしまうより全然良いかもしれないけれど、たまには自分を褒めてあげることも学んだ方が良いかもしれない。
「凛空くん、少しずつだけれどちゃんとレシーブがこっちに返るようになってきているから自信を持って良いからね!」
「雄馬くんは今は取り敢えずボールを上げることを意識して。一回できたら次の一回目もちゃんとできるようにね!」
「「っす!!(はい!)」」
ちらりと月見里先輩と一輝くんのコンビの様子をみてみると……。
「おおー!今のいい感じだぞぉ!出来てる出来てる!んじゃ、次も出来るように気合いを入れてみろ~?」
いい具合に褒め言葉も向けてくれる月見里先輩だからなのだろうか、一輝くんの顔も目も生き生きとしているように見られた気がした。
こうして、月見里先輩と私を巻き込んでおこなったお昼の自主練は無事に終了していったのだった……。
部活の時間だけじゃなくて、空いている時間に少しでも……と、ボールを触れている生徒ってどこにでもいるようなイメージがあります。……が、どうでしょう?だいたい体育館とかその近くとかでやっていることが多いかもしれません。さすがに教室とかでは無理でしょうね(汗)
雄馬・凛空・一輝……意外と、一輝から声をかけて集まったのではないでしょうか。あくまで、勘……ですがね(苦笑)
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