16球 昼休みと『母ちゃん』
みんなから責められるようになってしまった薬袋くん。
でも、別にこれはイジワルをしてるわけじゃなくて……少しでも薬袋くんがバレーを上手くなってくれればいいなって思っているんだけれど伝わるんだろうか。
午前の授業が終わるたびに、そう言えば薬袋一輝くんと御法川凛空くん、そして雲英雄馬くんたちってどのクラスなんだろう……って考えていた。特に、一輝くん。朝のことで『こんな部活ならやっぱ入るのやめようかな~』って言いだしたらどうしよう……。
こういう部員のことをいちいち気にしているのって私ばっかりなの?私が気にしすぎなの?特に凪くんも陽介くんも一輝くんのことを気にしているふうじゃないし……こういうものなのかな……。
そしてお昼休み。
簡単に作ってきてしまったサンドウィッチと水筒に入れたお茶を飲みながら前の席の凪くんはお昼は?と思いひょこっと後ろから覗いてみると……。
「あれ。凪くん、お昼は?」
「食べてるけれど?」
「何も見当たらないけれど?」
「……コレ」
スマホを操作していたらしい凪くんがスマホを置いて手にしたのは、所謂栄養補助食品というヤツ。
「え、それだけ!?」
「全然OK」
「放課後も部活があるんだよ?」
「今までもそうだったし、大丈夫でしょ」
「だめだめ!はい、せめてコレだけでも食べて!」
さすがに栄養補助食品だけではいろいろと心配になってしまった私は手元にあるサンドウィッチからまだ口を付けていないモノを凪くんの口元にぐいぐいと押し付けた。さすがにここまでやると素直に応じてくれたのか凪くんは大人しくもぐもぐとサンドウィッチを食べてくれた。よ、良かった……。
「あれ、千早が凪に餌付けしてる?」
「餌付けって……」
陽介くんはどうやら購買に行って昼食を買ってきたらしい。片手にぶらさがっているビニール袋がその証拠だ。
「だって、その……カロリーメ〇トだけでお昼済まそうとするんだよ!?絶対に放課後の部活まで持たないよ!」
「はは!確かに。ほれ、いくつか買ってきたから凪も食え食え!」
陽介くんの明るく、大きな声に押されてしまったらしく大人しくなる凪くん。うんうん、こういう感じっていいよね!他の子の健康管理を見て、気にしてあげて、それで何かしようとする風景。この二人なかなか良い感じだと思う!
「……じゃあ、サンドウィッチで」
陽介くんが買ってきたパン一覧のなかから気になったサンドウィッチを貰うと手早く封を開けて食べていくが、ふと私に顔を向けてきたから『どうしたの?』とたずねると。
「……千早のサンドウィッチの方が美味かった気がする。それ、千早の手作り?」
「あ、うん。一応」
「え、千早の手作りってもしかして一人暮らしか!?」
「違う違う!こっちには親戚がいるから住まわせてもらっているんだけれど、このぐらいは自分で用意しないとね。だから自分でできることは自分でするの」
そう言うと凪くんと陽介くんは二人して顔を見合わせてじっと黙り込んでしまった。え、そんな黙り込んでしまうようなことを言ったかな……いや、言っていないと思うんだけれど。
「親戚っつっても、大変だよなぁ……」
「……何かあれば言いなよ。力になれることがあれば力になるから」
ふ、二人とも!男子と女子が仲良くなるのはなかなかに難しいものがあるかなと思っていたけれど、二人から凄く良い言葉を聞かされて感動してしまった。
「あ、ありがとう……ね。うん、頼りにさせてもらうね……あれ?」
食後のお茶を飲んでいてまったりと気分を落ち着かせていると教室のドアからひょっこりと顔を出す姿が。もちろんその人は同じクラスメイトってわけでもなく、同学年の他のクラスの子ってわけでもなく、その人は……。
「月見里先輩?」
そう、バレー部副主将の月見里蒼葉先輩その人だった。
「お、お前ら同じクラスだったのか!うんうん、仲良さそうで安心したぜ~」
え、もしかして部員がお昼をどう過ごしているかわざわざ見にやってきたんだろうか。三年生が?
「つか、ここのクラスには薬袋は一緒じゃないのか?」
「一輝くんですか?いえ、違いますけれど」
「困ったなぁ~……いや、さっきから薬袋のヤツを探しているんだけれど見つからなくてさ。一応全クラス覗いてきたんだけれどそれらしい姿が見えなくてさ」
え。
それじゃあもしかして一輝くんの様子を見に来たってこと!?しかも一年生の教室を端から覗いて!?す、凄いな、月見里先輩。えっと、副主将だったんだっけ。それにしてもここまでできる人ってなかなかいないよね。
「私もお昼終わったので探すの手伝います」
「あ、俺も……」
「凪くんは陽介くんときちんとお昼を食べてて」
凪くんも椅子から立ち上がりかけたのだけれどそれを私は声で制した。本人は気まずそうに机に残っているサンドウィッチを急いで食べ始めたのだけれどそんな急がなくても……。
「悪い悪い。つか、残りの一年坊主どもってどこのクラスなんだよ?誰一人として見かけなかったぞ?」
「え?」
同じクラスではないってことは分かっているから、他の……えっと、一組から四組まで見てきたんだろうか。凄い行動力というか……先輩だから?この先輩はいろいろな意味で凄いと思う。まるで……その、お母さんみたいな存在かもしれない。
「教室ではお昼を食べていないってことですかね。でも、この高校って購買はあっても……」
「まあ、いざとなれば敷地だけは広いから、あちこちに散らばって食えるけれど。来たばかりの一年だろ?普通、校舎から外に出て食べようとかって考えるか?」
「えーっと、ちょっとお聞きしたいんですが、どうして一輝くんを?」
「あー……まあ、薬袋みたいなタイプは放って置けねえんだよな。俺だって別に特別上手いってわけじゃないし下手の気持ちは分かるんだよ」
新入生なのに、まだ先のことなんて分からないのに、それでも気にかけてくれるなんて良い先輩じゃない。それなのに、行方さえ不明な一輝くんと凛空くんと雄馬くん。さて、どこを探すべきか……。
まだ入学したばかり。そうそう校舎の内部についてめちゃくちゃ詳しいってわけでもなさそう。なら、何処に行く?何処なら行ける?
「あ。お昼時って部室とか体育館は自由に行けるものなんですか?」
「部室の鍵は基本、凌駕が持ってるから入れないな。体育館なら普通に入れる……って、あの三人が体育館にいるって思うか?」
「今考えられる範囲で一番行くかなって思うのが体育館かなって思います。ちなみに雄馬くんは自分でもボールを持っているのでその気になれば何処でも練習をし始めるかもしれません」
入学初日、そして海でも雄馬くんは自分でボールを持っていた。だからきっとそのボールは自分のものなのだろう。全然バレーのことは知らないって言っていたけれどボールだけは最初に用意しようと考えていたのかな?
「そういうことなら体育館でも覗いてみるか、一緒に来るか?」
「はい!」
いるかは分からない。けれど、他にアテも無いことだし、取り敢えず月見里先輩と私は二人で体育館に向かった。三年の先輩と二人きりという状況に気まずいことになったりしないかと不安だったけれど月見里先輩は気が利く人みたいで、あれこれと話題(バレーに関することだったり、全然関係無い話題もあった)を振っては話しかけてくれたから私も肩の力を抜いてお喋りすることができた。いろいろとできる先輩らしい。
体育館に近付いていくと、バシッという音が聞こえてきた。
コレは、もしや『当たり』なのでは!月見里先輩と顔を見合わせてからこっそりと体育館の入り口から中を覗いてみた。
高校生男子がカロリーメ〇トだけだと!?あ、有り得ない!!有り得ないけれど、凪くんだったら有り得そうかも!?いやいや、きっと放課後耐えられないと思うんだけれどなぁ……。
五組(主人公、凪、陽介がいるクラス)は、なんだかんだ言って仲良くやっていそうなクラスかもしれません。凪がぼけ~っとしていても陽介と主人公で構ってやったりとかいろいろしそうです(苦笑)
次回、本当に他の一年坊主たちは体育館にいるのでしょうか!?
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