14球 三年生のスパルタ指導
同学年同士で、はじめたレシーブ練習。
しかし、このままじゃまずい……と思っていれば、上級生と下級生がペアを組んだレシーブ練習がはじまっていった。
朝のレシーブ練習は、そこからメンバーチェンジを一気におこなった。あ、でも経験豊富な凪くんは相変わらず雄馬くんと組んで、ひたすら雄馬くんのレシーブを鍛えることにしていた。凪くんって結構面倒見が良かったりするのかな。必要以上な連絡などはあまりしてくれない性格みたいでそれが部活にもあらわれるかもしれないと不安がっていたのだけれど意外と部活には熱心で、事あるごとに雄馬くんに対して指導やアドバイスをしていた。むしろレシーブ練習をするよりも、凪くんからのアドバイスを受けていることの方が多かったかもしれない。
「違う違う。もっと腕は下で構えて」
「……はい、もう一回」
「……さっき言ったこと忘れた?腕はもっと下にしてくれる?」
そして、ある意味、雄馬くん以上にレシーブ練習が嚙み合っていなかった残りの一年生。陽介くんは副主将の月見里蒼葉先輩と組んでレシーブ練習をおこなっていくことになった。月見里先輩は陽介くんの様子をしっかり見て、とにかく褒めまくっていた。褒め上手?なのかもしれない。
「お、今の良い感じじゃん!」
「そうそう!今のレシーブならOKOK!」
「ちゃんと足動いてて良いぜ!」
と言った感じだ。そんな褒め言葉を向けられて喜ばない人なんていないだろう。陽介くんは更に熱が入って月見里先輩との練習は上手い具合に進んでいった。三年生と組んで大丈夫だろうか?と思っていたけれど全然!むしろ相性は良いかもしれない。
そして、情報収集が得意だと言いつつ体力が無いと言っていた御法川凛空くんだが、彼は三年生の九世凪先輩と組んでいる。とにかく世凪先輩はスパルタと言っていいかもしれない。わざと凛空くんの足を動かすために右へ左へとあちこちにボールを飛ばしてはレシーブ練習を徹底的におこなっていった。凛空くんも相手が三年生ということで下手に文句を言えるはずもないようで、大人しく世凪先輩の指導を受けていった。すると自然と凛空くんの足も動くことになっていき、良い体力作りにつながっていけるかもしれない。
「ほらほらぁ、もっと行くよぉ」
「そんなんじゃ、試合にも出させてもらえないからねぇ?」
「ほらぁ、次ぃ!」
容赦が無いって言ったら簡単かもしれない。けれど、世凪先輩はイジワルでボールをあちこちに投げているわけじゃなさそうだった。きっと体力を気にしている凛空くんのことを考えてくれているのかもしれない。
そして、残りの一人。薬袋一輝くん。凪くんからも指摘があったように姿勢を一定にすることができていないようだった。そして組んだ相手というのが、主将の鐙凌駕先輩になった。鐙先輩は頼れるって感じだったし、優しい言葉をかけながら指導し、レシーブ練習をおこなっていくかもと思っていたのだが……。
「おらぁ、どうした!」
「全然できてねぇじゃねえか」
「ちゃんとコッチに返せ!」
とにかくまともなレシーブができるまでひたすらに一輝くんに次から次へとボールを投げていく鐙先輩。一輝くんがレシーブを受けて返したボールが少しでも鐙先輩が移動しなければ取ることができないとなると途端に怒声が響き渡っていった。
「お前、経験者なんだよな!ちゃんとやれ!」
「ほーら、またきちんとコッチに返ってねぇじゃねえか!」
「一球、一回のレシーブに集中しろ!」
……す、スパルタだ。
世凪先輩もスパルタ派かもしれないが、世凪先輩からはどことなく相手を気遣った優しさのようなものも感じられていた。が、鐙先輩はまったく容赦が無い。とことん、できるまで同じことをやり続ける。一回できたから満足するのではなく、次もきちんとできるように。そのまま安定したレシーブをさせるために。
経験が高い三年生と組ませて不安だったところもあったけれど、それぞれに良いペアリングができていると思う。さすが三年生といったところかもしれない。最初は、私から誰と誰を組ませようかと考えていたのだが三年生の方から積極的に『じゃあ、俺がコイツと』という流れでペアリングが決まっていった。
三年生にはもう一人、毒島琉生先輩がいる。ちょっと背も高く体格的には恵まれていると思うのだが弱気で、猫背の先輩だ。そんな毒島先輩は二年生の五十木先輩の双子たちと三人組になってひたすらレシーブ練習をしている。が、二年生の双子たちは莉央先輩がとにかくはしゃぎまくっていて、それに対して冷静に眞央先輩がツッコミをいれていた。
「ははは!琉生先輩、いっきまっすよ~!」
「莉央……うるさい」
「ま、まあまあ二人とも……な、仲良く……な?」
まるで漫才コンビに挟まれてしまった毒島先輩が狼狽えまくっているという図だ。だが、今まで一緒に部活をおこなってきた上級生同士だから無駄にふざけることはなく、眞央先輩が冷静にレシーブ練習の要になっていたみたいだった。
最初はどうなることかと思っていた朝の練習だったが、ひとまず収まるところに収まったようだ。じゃっかん三年生たちからのスパルタに付き合い続けた一年生たちは体育館の床と仲良くべったりと倒れ込んでいる姿もあったものの、とても充実した朝の部活の時間を過ごせたように思う。
もちろん私も。
「基本的に朝はボールだけを準備してもらえば良いかな。時間があればボールにきちんと空気が入っているかチェックしてもらえると嬉しい。放課後は今日、上級生と新入生で練習試合の予定があるからネットを張る必要があるんだけれど決して一人ではやらないで。最低でも二人、できれば三人で用意して。支柱は絶対に一人で運ばないこと」
「ボールのチェックと……器具の用意は一人ではしない、と」
やっぱりマネージャーとしての仕事も覚えてこれからしていかないと!と意気込んでいたし、ポケットの中に入れていたメモ用紙に必要なこと、杢代先輩に注意されたことをメモしていく。
「今朝は……いつも以上に、みんな気合いが入っていたみたい。やっぱり一年生がいると違うね」
「そうですね。ちょっと……と言うか、かなり主将の意外な姿というかスパルタな姿がみられたのはびっくりしましたけれど」
「確かに。ちょっと鐙っぽくは無かったかな」
鐙先輩のスパルタ指導……それは、一輝くんに将来を期待してのもの、だと良いのだが……ちょっと気になってしまった。一輝くんに対してちょっと思うところがあるかのような、何か言いたいことでもあるかのような……そんな気さえしてしまったのだ。
「さ、朝はこれぐらいで。鐙!……そろそろ時間」
体育館にも存在している時計を確認しながら鐙先輩に声をかけると『!おお、了解!』と朝の練習を切り上げることになっていった。
「……アイツは、まだまだだな。もっと基礎から叩き込んでやるか……」
たまたま鐙先輩の横を通り抜けた際に、ぼそっと聞こえてきた鐙先輩からの呟きの声。ちょっとイライラしているようにも聞こえてしまって、先が心配になってしまった。きっと一輝くんのことに対して言っているんだろう。二人は知り合いってわけではなさそうだけれど、何か主将的に考えがあるのだろうか。
いろいろと新たに生まれる心配に、安心して練習を見守ることはまだまだできないようだった。
もちろん主将(鐙)は、一輝に対して思っているところがあります。それは、最初に自己紹介をしたときから。とある一言に、主将は反応しているのですが……どう、感じて、何を考えているのでしょうねぇ??ワクワク!!
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