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12球 レシーブ練習のコツは?

 これも新入生の試練!

 放課後は上級生と練習試合をするらしい。

 そのためには……いやいや、まずバレーのことを少しでも知ってもらわなければならない人がいる!

 朝の練習は、ネットを張って……ということは少ないみたい。ネットを張る時間も勿体無いと考えているらしくて、だったらネットが無くてもできる練習に時間をつぎ込んだ方が良い!ということらしい。

 ネットを用意しなくてもできることは多い。一対一でアンダーレシーブ(両腕でしっかりと受けるレシーブ)とオーバーレシーブ(両手を頭上に上げて手のひらで受けると言うより指先にきちんと力を入れて押し上げるレシーブ)を繰り返す。たまーに意地悪な部員が混じっていると軽いスパイクが打たれることもあるのだけれど……。

 二人一組になってとにかくレシーブを繰り返していく。単純な練習……と思われるかもしれないが、これは非常に大切なこと。きちんとボールの落下地点へ移動すること。そして、正しい姿勢でレシーブをすることができるか。そのレシーブした球はきちんと相手のいるところへ飛んでいくか。そもそもレシーブはバレーをやるなら欠かせない動作の一つ。レシーブがまともにできなければ強豪校ではレギュラーを獲得することだって難しいだろう。

 でも……レシーブの練習どうこうの前に……。


「あで!……っ……レシーブって、こうやってやるんじゃなかったのか!?」


 一人、大問題な部員がいた。

 バレーを知らない、初心者。というか、バレーそのもののルールももしかしたら分かっていないかもしれない雲英雄馬きら・ゆうまくん。

 そこそこの経験がある帷子凪かたびら・なぎくんと組んでもらってレシーブ練習をはじめてみたものの……雄馬くんがレシーブする球はあっちこっちへと飛んでいって他にペアを組んで練習している人たちの方にも飛んでいくものだから……他の人たちも落ち着いて練習することができなかった。つまり、一番指導……アドバイスをしなければならないのは雄馬くんみたい。一年生の中には他にも危なっかしいレシーブをしている部員もいたが、雄馬くんは正しい姿勢だったり腕の形を維持し続けることも難しいみたいだから注意が必要だ。


「はぁー……ねぇ、やる気あるの?」


 雄馬くんがとんでもないレシーブをしているからとうとうペアのなぎくんにまで注意されることとなってしまった。しかも溜め息付きで。


「あ、ある!もちろん!ただ、やり方が……」


「俺と同じ姿勢でやれば良いよ。……ねぇ、ちょっと。……千早、ジャンプしなくて良いからその場で軽くで良いから俺にスパイク打ってみて。雄馬は俺の姿勢ちゃんと見てて」


「え、私?」


 マネージャーの杢代もくだい先輩はあれこれとノートに書きこんでいくことで忙しいし、主将も副主将も自分の練習はもちろんのこと、組んでいるペアの練習具合をチェックしていくことに忙しい。つまり、誰も暇をしていないということだ。


「わ、分かった。……いい?雄馬くん、凪くんの姿勢……足はどうなっているか、腕の形はどうなっているか。どんな形でボールを受けているか……しっかり見ていて。凪くーん、いくよ!」


 まあ、この距離だし勢いを付けたスパイクなんて打つつもりもない。立っている場所からボールを構えるとなぎくんに向かってスパイクを打った。

 久しぶりに手のひらに感じるボールの感覚に体が震えた気がした。


 バシッと打たれたボールの落下する位置へ素早く移動した凪くんは構えると、いとも簡単にレシーブをし、私のいる場所へ返ってくるボールを再びスパイクで打ち返していく。レシーブ練習ではお互いにレシーブの形を取ることが一般的だけれど、片方がとにかくスパイクを打ち、もう片方はとにかくレシーブをしまくる……という形をとって練習している人たちもいる。別に間違ったことをしているわけじゃない。


「お。千早もなかなか……それをきちんと返す、帷子かたびらはさすがだな!」


 軽く打っているだけだとしても千早がスパイクを打つ、その音は体育館の中でなかなかに良い音が響いていた。


「あのゲーム小僧。セッターの練習ばっかやってるモンだと思ったけど……まあ、やるんじゃない?」


 セッターは守備が弱い。そんなイメージを持たれるのが一番最悪だと考えている世凪せなはなかなかに実力のありそうな凪に素直じゃないもののその実力は認めているらしい。


 私が気持ち良くスパイクを打てているのも、やっぱり凪くんが高く良い位置にレシーブを返してくれるからだ。横目に雄馬くんの様子を伺うと『う~ん』と唸っているばかり。凪くんのレシーブの形は綺麗だと思う。だからこそバレー初心者の雄馬くんとペアを組ませているのだけれど……ちゃんと理解できているだろうか。心配だな……。


「……全然、できるじゃん。千早、そろそろ雄馬と代わってくれる?」


「はい!」


「……えーっと、腕をこうして……」


 腕を構えてみてはぶつぶつと呟いている雄馬くんに、まだまだ先は長いかな……と思った。


「雄馬は、とにかくボールを上にあげることを意識してみてよ。上にさえあがれば、なんとかなるから」


「上に?」


 思わず体育館の天井に顔を向けてしまった雄馬くん。

 上に。確かに、上にあがってくれれば他の部員たちでいくらでもフォローすることはできる。ただ、今のままだと雄馬くんがレシーブをすればまったくとんでもない方向に飛んでいってしまうのでフォローしようにも難しくなってしまう。


「そ、上に。別に俺に届けようとかは思わなくていいから。上にあげてみて、上に」


 すると凪くんは片手でポーンとアーチを描くような高いボールを雄馬くんに向かってあげた。ボールの落下地点へ余裕を持って移動する雄馬くん。そう、その位置ならレシーブしやすいだろう。アンダーレシーブの形をつくってボールを待ち構える。


「力んじゃダメだよ!リラックスリラックス!」


 あの時。

 砂浜で一回だけだったけれど綺麗にレシーブすることができたじゃない。あの時を思い出せ!


「余計な力は、抜く……!」


 ポンッと雄馬くんの腕に当たったボールは見事に横にも逸れていくことはなく、真っすぐに上に向かって飛んでいった。上に向かうボールを目で追っていくと、ここの体育館の天井ではない……あの準決勝をおこなった広い広い体育館の高い天井が……見えた気がした。


「……分かった?今の感じなら何とかなるんじゃない……千早?」


「……あ、あぁ!うん。そうだね。誰かに向かってボールを返そうとは思わないで、とにかく上にあげることを考えてもらおうか」


 最初はレシーブ練習もまともにできないかも。ちゃんとボールを受けるだけで時間がかかるかも……と思っていたけれど、ちょっと考え方を変えてみれば、すぐに対応できる力があるのだから大切になっていくのはどんなアドバイスが的確になっていくかが重要になるかもしれない。


「ふ~む……」


「ちょっとぉ、なぁに、ニヤニヤしてんのぉ?」


 あぶみが凪・雄馬・千早のレシーブ練習を見てニヤニヤしていたのは間違いない。それは将来、きっと良いチームになるだろうと思ってのことだった。が、それを間近に見ていた世凪せなからすると不気味以外なんでもないものだったらしい。


「いやいや、もしかしたら初心者の雲英きらが一番上達して上手くなるのもそう遠くないかもなあって思っていただけだよ」


「はぁ?あの下手くそが!?はっ、有り得ないでしょぉ。まだまだあのレベルなら試合にだって使えないからねぇ。せめて試合に使えるレベルぐらいにはなってもらわないと……それに、俺は雲英よりも……一年マネの方が怖いと思ったけれどねぇ」


「怖い?」


「ゲーム小僧と一緒だったとは言え、あの下手くそに上手いアドバイスができてるんだよぉ?アイツが敵側にいたら……何でも見透かされそうじゃん」


「なぁ~る!さっすが我らがセッター殿は見ているところが、違いますなぁ!」


「ちょ、いきなりスパイクとか打ってくるな!余裕だけれどねぇ!」


 なんだか、ごくごく一般的なレシーブ練習だったはずだけれど、他のペアたちも白熱してきているみたいだ。ただ、他にも問題が……。今のレシーブ練習には人数の都合上、三人で組んで練習しているメンツがある。一年の残りの三人だ。静かに練習できているのかと思っていたのだが……。


「きちんとこちらに返してください。まったく続いていきませんよ」


「ただ、そこで突っ立ってないで移動しろよ!足使えってことだよ!」


「まあまあ!ほれ、アンダー飽きたから、今度はオーバーな~」


 なんだか、今度はこの三人が危ない雰囲気を醸し出しているかもしれません……。

 レシーブ(パス)練習!知らない、よく分からない人のために!

 とにかくレシーブ練習のこと、です!アンダー(腕を胸元で構える)とオーバー(頭上に両手を構える)でボールをレシーブしていますよね。バレーを観ているとほとんどが安定したレシーブをするため、アンダーを鍛えることの方が多いようです。が、オーバーレシーブを狙ってくる選手もいるので上でも下でもきちんとレシーブができることが基本です。両方きちんとできればレギュラー獲得に一歩近づき、レシーブが上手くなればなるほどレギュラー確実です!!


 なんだか、やっぱり落ち着かない一年生たち。まあ顔を合わせたばかりですから上級生たちよりも暗雲が立ち込めるのは仕方ないかもしれませんね……が、頑張れ!一年!!


 良ければ『ブックマーク』や『評価』などしていただけますと幸いです。もちろん全ての読者様には愛と感謝を!作品を書いていくことでお届けします!!

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