11球 ポジション不明だらけの一年生
「それじゃあ、一年!希望するポジションがあれば言ってくれ。あとはー……まあ、豊富とか頑張りたいことがあればどんどん言ってくれ!」
三年そして二年の先輩たちの自己紹介が終わると、とうとう一年生の番になった。
頑張りたいこと、か……よし!
端に立っている男子から……となると、今一番端にいるのは、凪くんね。
「帷子凪。ポジションはセッター」
「……って、それだけか?何か頑張りたいこととか、豊富は何かないのか?」
主将の鐙先輩が小さなメモ帳を片手に、苦笑いしながら凪くんにたずねたものの……
「う~ん……楽しければいいかな」
「……なるほどな。じゃあ、次!」
「はい!薬袋一輝っす!高校バレーはテレビでも中継されているんでそれに憧れてまっす!」
「確か、中学のときバレーやってたんだよな?ポジションは何処だった?」
え、中学でバレー経験者だとかって話は主将の耳には入っちゃってるの?凄い情報収集力じゃない。どこからそういう話って集めたりするんだろう。まさか全ての試合を見たり、聞いたりしてチェックしているのかな?……いやいや、有り得ないよね。
「あ、いや、それが……だいたい、何処でもやれるっす!」
「何処でも?セッターは?やったことあるか?」
「はい!ちょこっとだけ。でも、やっぱセッター以外が良いっすかね。セッターは頭使いそうなんで」
「はは!確かにな」
笑って言葉を返してくれる鐙先輩だけれど、薬袋くんが何処でもやれるって言ったときに一瞬怒ったような、不満のような……あまりいい顔をしていなかったような気がした。
「御法川凛空といいます。あまり体力に自信はありませんが、情報観察力なら負けません」
「まあ体力ならこれからいくらでも付けていけるさ。情報か……なかなかいない選手になりそうだな。ポジションの希望は?」
「中学ではバレー部ではあったんですが、その……控え、でしたので……これから自分に向いているポジションを探したいと考えています」
「OKOK!じっくり練習しながら考えてみてくれ」
ふむふむ、とメモに取りながら小さく頷いていく鐙先輩。なんだろう、楽しいもの・面白いものでも見つけたかのような顔をしている?
「昼神陽介っす!希望はスパイカーっす!」
「元気があっていいな!その調子で部のこともドンドン盛り上げていってくれよ?」
「了解っす!」
確かに、陽介くんは声が大きい。今まで見た限りだと『熱血』って感じが一番あてはまりそうなのはやっぱり陽介くんかな。この調子で部全体も盛り上げてくれると部全体の士気も上がるかもしれない。
「雲英雄馬です。えっと、バレーは初めてなので……あ、巴にイチから教えてもらうつもりです」
と言いながら軽く背中を雄馬くんに叩かれてしまった。いや、ここで私の名前を出さなくても良かったんじゃない?普通に「頑張ります!」とかでも良かったんじゃないの!?うぅ……例え軽く叩かれたとはいっても、それだけでじゅうぶん注目を集めてしまった私。しかも最後に自己紹介するのって私じゃない。なんだか、気恥ずかしくなってきた。
「それじゃあ、最後に」
バチッと鐙先輩と目が合ってしまった。きっと先輩も私の怪我のことは知っているの……かな。だったら、わざわざそんなこと言わなくてもいいか。
この部でやりたいこと、自分がしたいこと……。
「千早巴です。……マネージャーのお手伝いもします。が、この部ではいろいろなことを試してみたいと考えています」
「いろいろなこと?何か具体的に考えていることはあったりするか?」
「……まず、雄馬くんがバレーのことをほとんど知らないので教えること。それから一年のほとんどは希望ポジションが決まっていないので練習具合などを見て、それぞれに合うポジションを一緒に探していく……ところから始めていきたいと考えています」
すると『はぁ?』とか『なんだなんだ?』とか『ふぅん』とかって声が呟かれると同時に部内がざわついた。
「そうか。なら、杢代の手伝いをしつつ、練習内容を徹底して観察してみてくれ。もちろん一年だけじゃなく、二、三年の様子を見て違うポジションを提示してみるのも有りだ。ま、一年だし、先輩に向かってあれこれ言うのは難しいだろうからまずは俺や月見里に先に相談してくれるのも有りだからな?」
「はい!」
よ、良かったー……。
一年が生意気なんだよ、とか。そんなこと頼んでいない、とか言われたらどうしようって思ったけれど、その心配は無さそう……かな。実際、凪くんははっきりポジションが決まっている……というか、セッターしか考えていないって言い方だったから他の部員たちの良さを引き立てるポジションを考えてあげないと。陽介くんだって希望はスパイカーって言っているけれど、もしかしたら他に彼の良さが発揮されるポジションがみえてくることもあるかもしれない。
「自己紹介は、以上!あ、そうだそうだ。放課後は監督が来るから、その時に……二、三年対一年でちょっとした練習試合でもやってみるか。お互いを知るには試合形式が一番!それにセッター候補が一年にも入ったからやっと部内で練習試合ができる。もともと人が少ない部だから練習するのも大変だったんだよ」
練習試合!うん、どんなことが得意そうで不得意なのか分かるには絶好の機会!
あ、でも……。
私は慌てて片手をあげつつ発言をした。
「あの、鐙先輩!試合をすることには賛成ですが……人が、足りません……」
そうだ。
このまま試合をするとなると一年が五人だけになってしまう。どうしても一人足りない。
「はは!言うと思った。だからそっちのチームには監督を入れてやってもらうつもりだ」
か、監督を!?
まあ他に人がいないんだからそうなるしかない……もしくは、チーム内の人数を減らしてやるっていう手もあるけれど、時間がかかるかも……。
「はっはー!監督が入る!?なら、楽勝じゃねえか!やれるやれる!放課後に向けて作戦でも立てるか!」
う~ん、さすが熱血タイプの陽介くん。勝つ気満々。負ける気でいるよりは全然良い。けれど、やる気な陽介くんをじろりと見ている視線があるんだよね……しかも複数。それは、もちろん上級生たちからのもの。
「監督がいるからって……楽勝だなんて思わないでよねぇ。上手い人が一人いれば勝てる……なんて単純なモンじゃないんだよぉ?バレーは」
あわわ……火を付けてしまったのは世凪先輩。そして、意外にも……
「まあ、な。負けたからって泣きべそかくんじゃねえぞ?」
そう、意外にも鐙先輩にも火を付けてしまったみたい。主将だからどんなときでも冷静かと思っていたけれど、対戦ともなれば心意気みたいなものが変わるのかもしれない。それに高校でバレーをしてきているっていう経験値が先輩たちにはある。とてもじゃないけれど、楽勝だなんて一言で言える状況じゃないよ!
「……面白い試合にしてくださいね、先輩」
こっちでも負けまいとして凪くんが言い返していくから落ち着くものも落ち着かなくなってしまった。だ、誰か止める人は……あ、副主将の月見里先輩は!?
「はは~!お互いに熱くなって良いじゃないの~!みんなに刺激になって良い練習になりそうじゃんか」
だ、だめだー!
一歩下がった位置から面白がっているって感じがする!つい救いの手を求めて杢代先輩に視線を向けたけれど『無理無理』と首を左右に振られてしまった!
ちょ、みんな、熱くなりすぎだってばーっ!!!
いろいろな一年生がいて、面白そうな新入生が来て……やっぱりやることといったら、練習試合!上級生vs一年生っていうのは有りでしょう!!
放課後が楽しみ楽しみ!!(果たして自分の文章力でバレー書けるの、か……??)
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