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1球 MVP候補のスパイカーが消えた日

 バレーボール。

 拾って、繋いで、決める。同じ動作をどれだけ多く繰り返すことができるかがチームの強さに繋がっていった。

 中学時代、毎日のようにおこなわれる部活の練習に苦痛だなんて考えることは無かった。ただ、練習をすることが楽しい。みんなと一緒に目標に向かって臨んでいけることが楽しかった。



 あの時までは。

 全日本中学校バレーボール選手権。女子の部。

 決勝は明日。

 私たち、長野県代表の梓花あずさばな中学は全国大会にまで進んでも順当に勝ち進んできている。これなら、今日の準決勝だって問題無く勝てるだろう。でも油断は禁物。どんなチームだって負けるために試合をするわけじゃない。勝つために試合に臨むのだから。


 はじまる準決勝。

 ここまでくるとカメラマン席には多くのカメラを構えている人たちも多い。きっと高校に行って活躍していくことになる選手を見定めている人もいるのかもしれない。でも、私たちは先のことよりも今が大事。これからはじまる準決勝の試合が何よりも大事なのだから。


 ホイッスルが鳴る。


 さすがにここまで勝ち上がってきた相手校も簡単にサーブミスをしないし、サーブで崩れるほどヤワな守備をしているわけではない。だったら、強いスパイクで決めてやる!


「ライトー!!!」


 守備ならこちらだって当然負けていない。相手校から打たれたスパイクだってきちんとレシーブをすれば良い位置にセッターまで上がっていく。そこで私は打ちやすいトスをセッターに要求するのだ。私に上げてくれれば、私にトスを上げてくれれば絶対に点を取るから!そう強い意志を込めてセッターに声をかける。

 私の声が届いたセッターは私が打ちやすいトスを上げてくれる。高さもネットから離れた位置もドンピシャ!相手校は私のスパイクに警戒してレシーブもブロックもより気合を入れているのを察した。でもね、どんなにレシーブを構えていたって、ブロックに力を入れていたって私のスパイクを止められないわよ。

 ブロックが抜けなければブロックに当ててアウトを誘えばいいだけ。もちろんブロックに隙があればコントロール良く隙間をついたスパイクを決めるだけ。そう、こうやって攻撃していけばこの準決勝も勝てる!

 そう、思っていた……。



 何がいけなかったんだろう。

 助走の仕方?ジャンプの仕方?着地したときに足でも痛めてしまったのだろうか?


 何度目かになるスパイクを決めた私がコートに着地した途端に、まるで雷にでも打たれたかのような鋭い痛みが膝から下に走った。スパイクは相手コートに決まり、自陣に点は入ったものの、私は立っていることもままならず、そのままコートに倒れ込んでしまった。

 足が、膝が……言うことを聞いてくれない。

 まだ試合は続くんだから立たないと、すぐに立って動かないと!

 でも、体が私の意思を拒否してくる。


「た、タンカを!!!」


 主審の焦った言葉が聞こえる。

 相手校の選手たちも心配そうに私を見下ろしてくるし、もちろん私の学校のチームメイトたちも『どうしたの!?』『しっかり!』と声をかけてくれる。が、それ以上に足の膝の痛みが増さってしまってまともに応えることができなかった。


 チームの、先生……?

 監督だ。

 監督……私、まだやれるよ。だからコートから外さないで……お願い、私、これが最後の年なんだよ。


「すぐに病院へ!救急車を!!」


 病院?

 救急車?

 いらない、そんなのいらない。

 それよりもテーピングを、この痛みを少しでも和らげるためのテーピングをしてよ、お願い。


 ついに私は苦痛によって試合がどうなったかも分からないままに意識を失ってしまった。そして、次に目を覚ましたのは病院のベッドの上だった。視界が体育館の天井ではなく真っ白だったため一瞬自分がどこにいるのか分からなかった。

 ベッドの脇には同じチームを引っ張ってくれる副主将の姿と監督の姿が。二人とも顔色が優れない。どうしたというのだろうか。

 意識はまだ少しぼんやりとしているけれど、いつまでも寝ているわけにはいかない。試合はどうなった?


「監督、試合は!?」


「あのまま続けることなんて出来なかった。チームメイトのメンタルが崩れてしまったからな。途中棄権……リタイアをさせてもらったよ」


「そ、んな……」


 私のせいだ。

 私が派手に転んで、情けなくもしっかりと立って動くことができなかったから。だから……。


ともえ、足は……どうなの?」


 副主将の神原朔かんばらさくがじゃっかん顔を青くしながらたずねてくる。


「足?もちろん、へい……き……う、ぐっ……い、た……っ……」


 なに、この痛みは。

 ちょっと膝を曲げようとしただけなのに鋭い痛みが走って脂汗が滲んでくる。

 こんな痛み、今まで味わったことがない。


「巴、ダメだよ!静かに寝ていて!足、動かしたらまずいらしいから……」


 まずい?

 ちょっと捻ったとか、筋肉を傷めたとか……そういうレベルじゃ、ないの……?


 私の意識が戻ったことを医師に報告に行ったらしい監督が私の手当をしてくれた医師とともに戻ってきた。まだまだ監督の顔色は優れない。


千早巴ちはやともえさん、ですね。気が付いたようで良かった」


「先生。あの、私の足は……?どうなっているんでしょうか?」


 まずは足の状態を知らなければ。そして適切な処置をして、運動後のケアもしないと。試合は残念な結果になってしまったけれどまだチャンスはある。高校で今度こそ優勝を目指すのだ。


「千早さん。……バレーボールをされているようですね。膝への負担がとても多いようです。……とても、申し難いことになるのですが、あなたはこれから先、バレーボールのように負担の多い激しい運動をすることはできないでしょう」


 え?

 ちょっと、待ってよ。

 これ、ただの怪我じゃないの?リハビリとかすれば時間はかかっても良くなるんじゃ、ないの……?


「今は動かすのもやっとの状態です。まずはリハビリで歩けるようになりましょう。ですが、バレーボールのように跳んで、着地するような膝に負担のかかる運動は無理かもしれません」


 高校での優勝を目指す目標。

 それが、ぐしゃりと音を立てて崩れていった気がした。

 バレーボールもできないの?

 運動も?


 そんな……私は、これから、どうすれば……。


「「巴!!!」」


 今頃になってお母さんとお父さんが病室にかけこんできた。でも、きっと医師から私の状態は説明されていたのかもしれない。二人とも顔色が優れないもの。


「……私は……これから、どうすれば……」


 呟くようにもれた私の言葉。それを聞き取った医師は


「まずはリハビリだ。もちろん君の今の状態を考えると簡単ではない。それでも……やるかね?」


「……やります。というか、それしかやることってなさそうなので……」


 不思議と涙は流れなかった。

 副主将の朔も監督もお母さんやお父さんだって涙目で時折目元を拭う仕草をしているというのに、私は涙なんて出なかった。きっと強い子だ、と医師は思ったのかもしれない。でも、逆なんだよ。涙一滴も出ないぐらいに私の心は壊れてしまっていて、正直なところ朔の姿も監督の姿も見たくなかった。ただ、そう言うだけの余裕も無かっただけ。


 そして私はしばらくの間、中学校を卒業するまでの間、ずっとリハビリに通い続けることしか考えていなかった。バレーボール部にはもちろん顔を出していないし、朔とも監督ともまともに話すらできていない。

 ただリハビリを繰り返す毎日。

 そう、リハビリだけを考えて過ごす毎日。



 とある年の全日本中学校バレーボール選手権、準決勝で起きた私への悲劇。もしかしたらこの大会でMVPを取ることも夢ではないと周囲からは言われていた一人のスパイカーの消息が消えた試合だった。多くの取材が詰めかけたけれど私はその全てを無視。いつだったかあまりにもしつこい取材者がいたので一言だけ、ほとんど感情が入らない声で『高校ではバレーボールはやりません』、とだけ答えたことだけは覚えている。

 私がバレーボールから離れたきっかけとなった悲劇。

 

 全日本は有能な一人のスパイカーを失ったのである。

 熱血モノ、スポコンアニメならぬ『スポコンラノベ』にチャレンジしてみたくて、でもどんなスポーツが良いかな?と思ったのが私個人でもテレビなどを通じて見るのが好きなバレーボールを取り上げてみました。あ、でもバレーボール見るのは大好きですが、私個人としては下手なのですよ。スポーツと言えどいろいろとキャラクターが多くなる作品。ラノベでスポコン!?無理無理と思われるかもしれません。いえ、おそらく無謀でしょう。キャラクターのセリフや設定などもじっくりと考えていきたいため(特にキャラクター同士のやり取りだったり、試合シーンなどは)毎日更新とはいかないかもしれませんが、それでも私が辞めない限り続いていく作品になります。


 今、超傷付いてしまった一人の選手。主人公の巴。高校で、どうなっていくのでしょうか。良き出会いがあって再びバレーボールに興味を持っていただく予定ではありますが、良き出会いを祈るばかりです!!


 スポーツものを文章のみで描くのはなかなか難しいところもありますが、チャレンジ!!試してみないと分かりませんからね。良ければ『ブックマーク』や『評価』などしていただけますと幸いです。そして、全ての読者様に愛と感謝をお届けしていきます!!

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