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23.みんな違ってていいですわ

ユイたちがエステル集落の住人へ魔法の指導を行う初日。集落の端に設けられた広場では、ユイたち三人娘がそれぞれ二人の生徒へ指導を行っていた。師匠であるリズは少し離れたところからその様子を見守っている。


ふむふむ。三人ともまずは簡単な挨拶と説明から入りましたわね。もしかすると、昨日三人で相談しあったのかもしれませんわ。さて、まずはユイから見ていきましょうか。



「ええと、魔法って頭で理解するより実際にやったほうが早いんだよね。あたしもそうだったし。というわけで、さっそくやってみよう」


「わかりました、ユイ先生」


「せ、先生……!」


ユイの顔がにへらとだらしなく緩む。自分よりずっと年上の青年から先生と呼ばれて上機嫌だ。


「と、とりあえず、魔力を練るところからね。ええと、あたしの真似をしながらやってね。両腕を前に出して……うん、そうそう。で、体のこのあたりがぽかぽかしてきたら、その状態を維持するの」


「んー……」


「どう? 感覚わかる?」


「わかる、ような……」


「あれ、わかんないかな? とりあえずもうちょい続けてみよう」



離れたところで見ているリズがくすりと笑みをこぼす。


なるほど、ユイはとにかくやらせてみようの実践主義ですわね。まあ、難しい話をあれこれするより、実際にやらせたほうが感覚を掴みやいかもしれませんの。


ただ、この集落の住人は魔法に関する知識がほとんどありませんわ。その状態でいきなり実践、というのは果たしてどうでしょう? ユイにとっても一種の賭けなのかもしれませんわね。さて、モアのほうはどうかしら?



壁際に設けられた的にモアが放った『炎矢(ファイア・アロー)』が命中し、見ていた二人の生徒が感嘆の声を漏らした。やや緊張した面持ちのモアが、二人の生徒へ向き直りスッと息を吸い込む。


「あの、魔法ってイメージがとても大切なんです。だから、まずはさっき私が放った炎矢のイメージをしっかりもってくださいね」


「なるほど……イメージですね」


指導を受けている十代後半の少女と二十代前半の青年が、納得したように「うんうん」と頷く。


「それで、魔法を行使するときは、まず魔力を外へ出力できるようにしなくちゃいけないんです。ちょっと絵に描いて説明しますね」


しゃがみ込んだモアが、木の枝を使って器用に地面へ絵を描いていく。


「えっと……魔力は体内をこのように巡っていると言われています。で、このままでは使えないので、ええと……このあたり、この丸を描いたあたりに魔力を溜めて、そのうえで魔力の出口を作ってあげるんです。その出口から放たれるのが魔法なんです」


「へ〜……すごくわかりやすいです!」


「あ、ありがとうございます」


年上の女性から褒められたことにモアの頰がかすかに紅潮する。


「もちろん、これはあくまで基本です。慣れてくると、離れたところに魔法陣を展開して、そこを魔力の出口にして強力な魔法を発動したりもできます」


「あ! もしかして、リズ様の『煉獄(ヘルファイア)』みたいな?」


「そうですそうです。あ、リズ先生の煉獄、見たことあるんですね?」


「はい。以前野盗が襲ってきたとき、たまたま通りかかったリズ様が魔法でみんな焼き尽くしてくれて」


「そ、そうでしたか」


その場面を想像したモアが、心のなかで密かに「ひっ」と声を漏らす。


「とりあえず、魔法がどのような仕組みで発動するのかを理解すると、習得までの期間も短くなると思いますよ」


「「はい!」」



腕組みをしたまま様子を窺っていたリズの口元が満足げに綻ぶ。


さすがはモアですわね。勉強好きでまじめなあの子らしい指導の方法ですわ。口頭ではわかりにくことも、絵に描いて説明することで生徒も理解しやすくなってますわね。


もしかすると、人に何かを教えるという行為に関しては、モアがもっとも優れているかもしれませんの。学校の教師や、衛兵、聖騎士なんかに魔法を教える指導者としても適性があるかもしれませんわね。さて、と。最後はメルですが……。


リズが広場の西側へ目を向ける。なぜか、メルのところだけはさっきから三人とも地面に腰をおろしたまま微動だにしない。いったい、何をしてるのだろうと首を捻りつつ、メルたちのやり取りに意識を集中させた。



「メルちゃん、ここがちょっとわかりにくいんだけど」


「ん、どこ」


地面の上で開いた本へメルが目を落とす。


「ええと、この「魔力の体内循環」ってとこ」


「何も難しくない。私たちの体を魔力が巡っているってこと。それ以上難しく考える必要ない。その事実だけ覚えとけばいい」


「な、なるほど」


三人が目を落としているのは、メルが魔法女学園の授業で使用している教科書である。もう一人、二十代前半の女性も真剣な面持ちで教科書へ目を通している。


「はぁ〜……魔法ってこういう仕組みなんですね」


「ん。そういうこと」


初めて目にする魔法の教科書を読み進めつつ、女性が感嘆の声を漏らした。その後も、メルは特に何かを説明したり実践させたりせず、ただただ教科書を読ませ続けた。



メルたちの様子を見ていたリズが思わず苦笑する。


ほんとあの子は……。毎度私の想像を軽く超えてきますわね。まさか、学園で使用している魔法の教科書を読ませるとは。


たしかに、口であれこれ説明するよりも、教科書を読ませたほうが遥かに楽ですし生徒も理解しやすいですわ。誤った知識を伝える心配もありませんし。


メルは聞かれたことにその場で答えればいいだけですし、なかなか効率的かつ合理的な指導方法ですの。まあ、ただ面倒くさがりなだけかもしれませんが……。


さてさて、三者三様の指導方法ですが、結果はどうなることやら。最終日が楽しみですわね。


弟子たちが指導している姿へ優しい視線を送りながら、リズはクスッと楽しげに口元を綻ばせた。

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