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1.人間は嫌いですの

人間は嫌いですの。なぜって? いつの時代も人間は争いばかりで学習しないし、利己的で愚かで弱っちいからですわ。


そのうえ寿命が短くすぐに死んでしまう。にもかかわらず、率先して争いに参加したり危ない橋を渡ったりと、理解できないことばかりですの。


まあ、人間の国で長く暮らしているので、それなりに交流がある者たちもいるにはいるのですが。でも、基本的にごく限られた人間としか交流はしてきませんでしたわ。


だから、あの子たちが初めて私のところへやってきて、満面の笑みで「弟子にしてください!」と言ってきたときもまともにとりあいませんでしたわ。


そもそも、私は世界でもっとも強き種族である吸血鬼。しかも、その頂点に立つ真祖に限りなく近い血筋ですの。


吸血鬼相手に弟子にしてくれなんて言ってきたの、あの子たちが初めてでしたわ。もちろん、断りました。「血を吸いますわよ?」と半ば脅し気味に断ったのですが、あの子たちったら懲りずに何度もここへ来るんですもの。


結局押し負けて、今では三人の小さな女の子を弟子として育てることになってしまいましたわ。


ん……。遠くから声が聞こえてきた。女の子特有の姦しい話し声。あの子たちが学校を終えてやってきたようですわ。


三分も経たないうちに、玄関から「リズせんせーー!」と元気な声が聞こえてきた。まったく、そんな大声張らなくても聞こえてますわよ。


さて、今日も稽古をつけてあげましょうか。


「ふふ」とわずかに口元を綻ばせ、私はゆっくりと玄関へと向かった。



──緩くウェーブがかかったグレーの髪をツインテールにまとめたリズが、血のように紅い瞳でじっと弟子たちの様子を見つめる。


少し離れたところでは、弟子のユイとモア、メルが「うーん、うーん」と唸りながら懸命に魔法陣を展開しようとしていた。


「ユイ、もっと集中なさい」


栗色のポニーテールがトレードマークのユイ。三人のなかで一番勝ち気で元気な女の子だ。一番の問題児でもある。


「モアはもう少し魔力を込めてみなさいな」


「は、はい!」


唯一のメガネ女子、モアは三人のなかで一番まじめでおとなしい女の子。しっかり者でもある。


「メルは……うん、反対にもう少し魔力を抑えるように」


「はーい」


肩の上あたりまであるふんわりとした金色の髪が印象的なメルは、とってものんびり屋でマイペース。いわゆる天然女子だ。そしてとんでもない天才肌。謎多きミステリアスガールである。


「はい、そこまで」


リズがパンっと手を打ち鳴らすと、ユイとモアが「はぁ〜」と大きく息を吐いた。お疲れのようだ。一方、メルは空を見上げて「あ、鳥」などと言っている。


「反省点はあとで伝えるとして、とりあえずおやつにしましょうか。手を洗ってからリビングへいらっしゃいな」


リズが踵を返し屋敷の玄関へ向かうと、三人娘が「はーい!」と元気よく返事してあとを追った。



──リズ邸のリビングには中央にローテーブルがあり、それを挟むように三人がけのソファが二つ設置されている。


もともとソファは一つしかなかったのだが、弟子たちがほぼ毎日やってくるため追加で購入したのだ。


向かいで三人並んでクッキーを頬張る様子をちらりと見たリズがくすりと笑みを漏らす。


三人とも性格が全然違うのに、ほんと仲がよいですわね。ちょっと不思議ですわ。と、お腹が満足したのか、ユイがポニーテールを揺らしながらリズのそばへやってくると「えへへー」と笑いながら隣へ腰をおろした。


「あっ! ユイちゃんズルい!」


「ユイ、抜けがけはダメ」


リズにピッタリと寄り添うように座るユイへ、モアとメルが不満を示す。


まだソファが一つだったころは、リズの両隣を巡って頻繁に争いが発生していた。それを見かねたリズが新しくソファを買ったのである。


「ユイ、モアとメルが睨んでいますわよ?」


「えへへー、知らなーい」


リズがジト目を向けるが、ユイはどこ吹く風でその小さな体を密着させた。なお、リズも身長は百五十センチ程度であり、見た目は十四歳くらいの美少女なので、並んで座るとまるで姉妹のように見える。


「もー、ユイちゃんったら……なら私も……!」


ソファから立ちあがったモアがいそいそと移動し、ユイとは反対側のスペースへ腰をおろした。


「はぁ……モアまで、何してるんですの? あなたたちが頻繁にケンカするから、わざわざあなたたち用にソファを買ったというのに」


口をへの字に曲げるリズを気にすることなく、モアがぐいぐいと体をすりつける。ユイもだが、まるで野良猫のようだ。


「二人ともズルい。なら私は……」


ソファからすっくと立ちあがったメルは、スタスタとリズのそばへ近寄ると――


「あ!」


「あ!」


「!?」


驚く三人を尻目に、なんとメルはリズの膝の上へまたがるように座ってしまった。しかも、リズと向きあうように。


「メル……そこにのられると、私紅茶を飲みにくいのですが?」


「だって、ここしか空いてないもん」


大胆なメルの行動に、最初に掟破りをしたにもかかわらずユイとモアがぶーぶーと文句を口にする。


「ズルいぞメル!」


「メルちゃんズルいです!」


ぶーぶーと文句を垂れる二人に「それはこっちのセリフ」とメルがやり返す。


「はいはい、騒ぐんじゃありませんの」


ふぅ、と小さく息を吐いたタイミングで、突然メルが「あ」と声をあげた。そのままリズの膝からおり、もといた場所へトテトテと戻ると、スクールバッグをあけ何かをゴソゴソと探し始めた。


「どうしたんですの、メル?」


リズが首を傾げていると、ユイやモアも何かを思い出したらしく、弾けるように自分のスクールバッグをとりにいった。


いったい何をしているのでしょう? 人間の、子どもの行動って本当に謎が多いですわ。そんなことを考えていると、三人が顔を見あわせてからこちらを向いた。三人とも手を背後へまわし、何かを隠しているように見える。


「みんな、せーのだよ? いい? せーの!」


三人がそれぞれ紙を両手でもち、一斉にこちらへ向けた。それを見たリズの目が大きく見開く。


「それは……」


「はい、リズ先生!」


ユイとモア、メルがそれぞれの紙を手渡す。紙には、黒いワンピースドレスを纏ったツインテールの女の子が描かれていた。


「美術の授業で、一番尊敬している人の絵を描くように言われたからリズ先生を描いたの!」


満面の笑みを浮かべながらユイが言う。


「うまく描けたと思うんですが、やっぱり実物のリズ先生のほうが美人ですね!」


自分で描いた絵とリズの顔を交互に見やるモア。


「ん。リズ先生はかわいいから描きがいがある」


個性的すぎる絵を堂々と見せつけてくるメル。


リズの胸の奥底から、ぽわぽわとあたたかいものがこみあげてきた。とても上手とは言えない絵なのに、なぜかとても嬉しい。


「あ、あなた方、普通そういうときはご両親を描くのではなくて? なぜ私を……」


思わず口元が綻びそうなのを、リズは何とか気合いで我慢した。


「えー、だって一番尊敬してるし大好きなのはリズ先生だもん!」


「ユイちゃんの言うとおりです!」


「リズ先生はかわいい」


一人だけおかしな返事が混じってはいたものの、ついにリズは我慢の限界を迎えた。


「……あなた方、ちょっとこっちへいらっしゃいな」


顔を見あわせて首を捻った三人娘が、再びリズのそばへ近寄る。


「……師匠をこんな気持ちにさせるなんて、ほんと困った弟子たちですこと」


そう言うなり、リズは三人娘をまとめてぎゅーっと抱きしめた。三人娘も満面の笑みを浮かべる。


「私も……あなた方のこと、大好きですわ。それに、かわいいかわいい自慢の弟子ですの」


口々に「やったー!」とはしゃぐ弟子たちの温もりを腕のなかに感じつつ、リズはしばらくのあいだかわいい弟子たちを抱きしめ続けるのであった。

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