第66話 本物の恋2・ちょっとだけ勇気の湧いた日
風華と二人で初詣に行こうとした日。その日は雪だった。
思ったよりも吹雪いていて、今後も強まる予定なので初詣は中止になった。
正直、助かったと思った。風華の顔を見るだけでも辛いのに、会ってしまったら心が壊れてしまいそうだから。
代わりに風華とリモート通話をしている。
「ホワイトクリスマスですね」
「クリスマスじゃないけどな」
「そうでしたね。それは昨日でした」
「うん、昨年だな」
このくだらないやり取りが楽しい。
でもやっぱり辛い。苦しい。
このまま終わりたい。でも終わらせたくない。
戻ることも進むことも出来ない。
『もう連絡を取らない方がいい』の一言がいえない。
相手を傷つけるから? まさか。自分が傷つきたくないだけだ。
俺はいつだって情けなくて優柔不断でどうしようもない弱男だ。
出来れば向こうから言って欲しい。いや、言われたくない。何事もなかったように自然に消滅したい。
「空雄さん?」
「ん? どうした?」
「最近、なんだか上の空ですね」
「そんなことない」
「……私のこと、嫌いになりましたか?」
「そ、そんなわけない! むしろ俺は、いや、その」
言葉に詰まる。
「今日はあれだ、寒いから頭が回らないんだ。だから、その、また連絡する」
「……分かりました。風邪をひかないようにしてくださいね」
通話を切った。
ベッドに寝転がる。くそ、どうしたらいいんだ。
終わりにしないと、お互いにとって良くない。
何を怖がる必要があるんだ。何もなかった日々に戻るだけじゃないか。
仕事場と家を往復するだけの毎日。それこそが俺みたいな無能にはふさわしい。
そうだ、それでいいんだ。言おう。
さよなら、と。
少しだけ決心した、その時だった。スマホから通知音が聞こえてきた。
誰だよ。って言っても空子か風華か職場の人間か、あるいはゲームアプリからのクソ通知くらいだよな。
重たい腕を動かしてスマホを取る。
そこには風華の名前が表示されていて、たった一言。
『会いたい、です』
「……ッ!」
心臓が高なった。たった一言、それだけなのになぜだろう。体が熱を帯び、脳が覚醒する。
なぜだか勇気が湧いてきた。いや、なぜもなにも無いだろ。風華の言葉が嬉しかったからに決まってるだろ。
胸が苦しい。だけど、メールをくれて嬉しい。
俺は、俺は本当にバカだ。何を迷っているんだ。このまま終わっていいわけがない。ガキじゃねぇんだぞ。勇気を出せ。
伝えろよ。俺の気持ちを。いつまで誤魔化してんだよ。好きなんだろ、風華が。
『俺も会いたい、今すぐに』
そう返信して俺は家から飛び出した。




