第65話 本物の恋1・遠い人
年末特番が終わり、母親との地獄恋バナも終わった。
三が日はもちろんイベントはなく、ゴロゴロと転がっているだけだった。
日付は進み、一月五日。
今日も適当にプログラミングされたロボットのように仕事場と家を往復するだけの人生が続いていた。
無駄に重い玄関ドアを開いて中に入る。
「ただいまー……」
返事はない。空子は仕事だろう。家の中は外と変わらず寒い。風が防げるだけの住処なので仕方ない。
荷物を所定の位置に置いてパソコンの前に座る。
風華とリモート通話をする約束をしているので準備に取り掛かる。
気が重い。風華と話せて楽しいという気持ちより苦しいという気持ちが勝ってしまっている。
鬱々としていると、画面に風華が映った。
「あ、空雄さん、こんばんは! 今日も相変わらず地球爆発の前日みたいな暗い顔してますねぇ」
「うるせぇよ」
「それよりこれ見てください!」
スマホの画面をコチラに向けてきた。文字が小さくて見えない。
「見えねぇよ」
「もう、お爺ちゃんですねぇ。なんとですよ、SNSのフォロワー力がトップになったんですよ! パチパチパチ!」
自分のスマホで確認すると、風華のSNSのフォロワーは八十万を超えていた。これで会社内どころか全てのお天気キャスターで一番になったわけだ。
「……おめでとう。本当にすげぇよ」
まさか本当に達成するとは夢にも思わなかった。あのたった五百しかなかったポンコツがここまで成長するとはなぁ。……本当に遠い人になっちまったよ。
「あ、そうだ、初詣行きましたよ」
「そうか」
「私はもう詣っちゃいましたけど、前言った通り、明日か明後日くらいにでも空子ちゃん連れて三人で行きませんか? もちろん二人でもいいですよ……?」
何がもうでっちゃっただよ。若者言葉っぽいのやめろ。
「……そう、だな」
風華の話がまともに入って来ない。浮かぶのはただ焦燥。
ふと、昔のことが頭をよぎった。
昔、友達のような知り合いがいた頃、その知り合いが大学に進学して少し距離が空くことになった。
初めはメールで近況を報告し合っていたが、相手のどこへ旅行に行ったとか、彼女ができたとかの話を聞いていて辛くなっていった。
相手はただの報告のつもりだったのだろうけど、俺にとっては自慢にしか聞こえなくなっていった。俺は何も変わらないのに、相手はどんどん幸せになっていくのが苦しかったんだ。そして嫉妬が憎悪に変わりそうな気がして連絡を取らなくなった。
俺は今、風華にそれと似た気持ちになっていた。風華の報告が自慢、というか自分の住む世界とは違うのだと嫌でも分からせてくる。それがすごく辛くて、重い。
「空雄さん? 聞いてますか?」
「うん? ああ」
そろそろ引き際、だよな。
俺には上級国民は眩しすぎる。底辺は底辺らしく日陰で大人しくしていよう。
隣で成功していく人間を見るのはあまりにも辛い。
これ以上、一緒に居たら風華に酷いことを言ってしまうと思う。そうなる前に離れよう。それがお互いのためなんだ。




