第62話 年末特番1・振り返りランキング
大晦日の夜。俺は母親と共に、風華の出る年末特番が始まるのを待っていた。
相変わらず俺の家は氷室のごとく寒い。当然、エアコンは休暇中なので俺と空子は南極探検隊ぐらい服を着込んでいた。
「風華ちゃん楽しみねぇ」
「別に。やらかさないかヒヤヒヤだよ」
「まぁ空雄ちゃんたら、将来のお嫁さんに酷いこと言わないの」
「誰が嫁だよ。どうせもうすぐフラれるっつーの」
「そうかしらぁ? 風華ちゃん、空雄ちゃんの話ばかりして幸せそうよぉ?」
ふん、どうせバカにしてるだけだろ。
そうこうしていると、特番が始まった。
画面左端にいる人妻ビッキーがアップで映し出される。いつも通りのキツネ顔でお美しい。
「皆様こんばんは。気象キャスターの鳴神響ですわ。さて、本日は今年最後の特番放送となっていますの。一年とは早いものですわね……」
遠い目をしている。
ビッキーも三十後半だし、時の流れが重くのし掛かるよな。弱男の俺でさえ誕生日の度に一年何も変わらなかった焦りでダメージを負うし、年齢を気にしやすい女性はなおのことだろう。
「それではさっそくゲスト紹介と行きましょうか」
気を取り直したビッキーが画面右端に並んだゲストを紹介していく。お馴染みのお天気お姉さんや、気象解説員が挨拶をした。そして最後は風華だ。
「最後は乃和木風華キャスターですわー! 今やSNSのフォロワー七十万越えの超人気キャスター。今年は風華ちゃんの年と言っても過言ではないくらい台風のような一年でしたわね」
風華はせんきゅー、せんきゅー、と周りに言いながら勝ち誇っている。うぜぇ。
「さてさて、紹介も終わったところで、今年あった印象的な出来事をランキング形式で振り返りつつ、皆様と年を越したいと思いますわ」
人妻と年を越せるとか実質ビッキーと親戚になったと言ってもいいよな? やったぜ。
俺が哀れなことを考えていると、ランキングが始まった。十位から順番に発表されていく。
無難に六位までは真面目な天気の話や、お天気お姉さんのお茶目な失敗エピソードだった。
風華の話題はまだない。絶対上位独占してるだろうな。心当たりのある事件が一つも出てないし。
「それでは続いて第五位へ行きましょうか。第五位は、ドゥルルルル——」
人妻ドラムロールかわいい。
「じゃん! 乃和木風華キャスターの一問一答事件ですわー!」
それかー。俺と出会って初めての放送だったよな。回答がズレたせいで漫才みたいなやり取りになったやつだ。
映像が流れる。ビッキーと風華が映った。何となく顔が幼く見える。
“「好きな食べ物は?」
「魔導書」
「好きな飲み物は?」
「雨」”
クソみたいなやり取り懐かしいな。質問と事前に考えておいた回答がズレてて漫才みたいになってたんだった。
映像がスタジオに戻ると、風華がドヤ顔をしていた。
「今見ると天才的ですね。さすが私です」
何が天才的だよ。この時はもう終わったと思ったわ。
ビッキーは苦笑い。カワイイ。
「続きまして、第四位は、ドンドコドコドコ——」
人妻和太鼓かわいい。
「どどん! 乃和木風華キャスター元気象事件ですわー!」
来たか。ここが風華のターニングポイントになったんだよな。ここから爆発的にフォロワーが伸びた。
「元気象キャスターを元気象と読んでしまった事件ですわね。あれ以来、象に関することがあれば風華ちゃんが取り沙汰されてイジられていますわ」
「私はカバ派なんですけど!」
象とカバを対立構造にすんなよ。
当時の映像が流れる。風華が元気象と言った瞬間、顔を両手で覆っていた。耳を赤くしている。
まぁカワイイよな。ファンが増えるのも分かる。
「この時ばかりは恥ずかしかったですねぇ」
恥ずかしくない時ないだろ。
「かわいいですわねぇ」
ビッキーのしみじみとした顔。
この時に風華はようやく天気予報をさせて貰えたんだよな。ここぐらいから安定してきて、クビの話もなくなった。その頃を思い出してビッキーも感慨深い気持ちになっているのだろう。
「それから象のTシャツグッズが出ていますので、よかったら公式サイトからお買い求めくださいね」
スタッフがTシャツを持ってきて広げた。真ん中にはヘタウマな象が描かれている。
「私が描きました」
風華のドヤ顔。ドヤるほどじゃねぇだろ。
「それでは第三位に行きますわー」
したり顔を華麗にスルーしたビッキー。さすがです。
そして三位発表に行こうとした時だった。風華が手を上げる。
「えーっと、私が天気予報を伝えている映像はないんですか?」
こっちが聞きてぇよ。




