第61話 弱男を絶対殺す“隠し”イベント
クリスマスが過ぎ、年末。もうすぐ弱男を絶対に殺す“隠し”イベントがある。簡単な用語でいうと、親戚の集まりである。
だがしかーし! ウチは祖母も祖父もすでに他界している。父方の方もだ。さらに空子に兄弟姉妹は居ない。息子は俺一人だけ。
ガキにお年玉を渡すこともない!
つまり、親戚が居なければどうということはないのだ! 勝ったぜ! 弱男初勝利! ギャハハ!
……虚しい勝利だよ。
能面のような顔をしていると、風華から連絡が来た。リモートアプリを立ち上げて映像を映す。
「こんにちは、みんなのアイドル風華ちゃんですよ」
もう否定しづらいこと言うんじゃねぇよ。
「よう」
「知ってると思いますけど年末年始にある特番見てくださいね」
大晦日から元旦にかけて放送される年越し特番だ。
「忙しそうだな」
今日も仕事の合間を縫って連絡してくれたらしい。俺なんかに時間使ってバカだなぁ。
「そうですね。でも時折、こうやって空雄さんと愛を育めるので頑張れています」
「そ、そうか」
レスポンスしづらいことを言うんじゃないよ。
「ところで空雄さんは初詣だれかと行くんですか?」
ハツモウデ? オデ、ソンナノ、シラナイ。
……そういえばそんなのもあったな。幸せそうな家族やカップルだらけのやつね。クソ、こんな隠しイベント思い出さすんじゃねぇよ。大ダメージ受けたじゃねぇか。
「行かねぇよ」
「空子ちゃんとも?」
「アイツは昔から賽銭箱に五円すらもったいないとか言うヤツだからな。絶対行かないぞ」
「そ、そうなんですか……」
苦笑い。風華すら引くってよっぽどだぞババア。反省しろ。
「風華は? 家族と行くのか?」
「はい。毎年両親と一緒です」
と見せかけて真の彼氏じゃねぇのかぁ? あるいは夫とかな!
「別の日でもよかったら二人で行きませんか? あ、三人でもいいですよ?」
……あんまり良くないよな。二人でいるところ見られたらスクープになるし。
「あぁ……考えとく」
はっきり断るべきなのに、俺って優柔不断だな。分かってたことだけど。
決断って行為はなんでこんなに痛みを伴うのだろう。なにも感じなければこんなに苦しむこともないのに。感情ってのは残酷なシステムだな。
「あ、そういえば空雄さんって成人式って行きました?」
は? てめぇ、二十歳にスルーした隠しイベントを掘り起こすんじゃねぇよ。もう俺の人生では二度と回収できないイベなんだぞ。
「行ってねぇ」
人生勝ち組の自慢大会なんて行きたくもないね。
「じゃあ子供のままということですね」
ふん、どうせ俺は子供部屋おじさんだよ。
「成人式なんていう自動的に大人にされるクソイベが悪い。デスゲームでもして大人になれるのは一人だけにすべき」
「空雄さんは負けそうですね」
「おいおい、俺は今までデスゲーム漫画やアニメをたくさん見てきたんだぞ。対処法は心得ているから、開始五秒で死ぬね!」
「……フフッ、空雄さんってたまに面白いですねぇ」
「まぁな」
こんなくだらねぇ会話が楽しい。でも苦しい。
風華と後どれくらい話せるのだろうか。
いずれ迎えるバッドエンドに向けて覚悟を決めとかないとな。後悔は絶対するだろうからせめてダメージを最小限にしたい。何にも思い付かないけど。
あーあ、このまま時間が止まってくれたらいいのに。




