第59話 クリスマス2・プレゼント交換
まだまだお天気お姉さん達によるクリスマスパーティーが続いていた。
禁断の女子トークが一区切りしたようで、ケーキが運ばれてきた。
「それじゃあ皆様、お待ちかねのクリスマスケーキを食べましょうか」
司会のビッキーが言った。
お天気お姉さん達の目の前にある机には何種類かのケーキが並んでいる。
「まずは定番のショートケーキからいただきましょう」
ありふれたイチゴの乗ったショートケーキだ。少し違うのはサンタとトナカイの砂糖人形が上に乗っていること。
トナカイ姿の風華がサンタの人形をひょいと掴んだ。
「サンタさんめ、日頃の恨み!」
そう言って砂糖菓子のサンタ人形を噛み砕いて食べた。トナカイロールプレイいつまでやるんだよ。
「それでは復讐でトナカイさんをいただきますわ」
と言って、ビッキーがトナカイ人形を頬張った。
「ああ! 我が同胞が!」
風華が頭を抱えている。
プッ、いいコンビだな。
続いて木の幹を横倒しにしたようなケーキをカメラが抜いた。
「こちらはブッシュ・ド・ノエルですわ。フランスのケーキですわね」
「クリスマスツリーの生皮ですね」
そんな生々しいものではない!
「それじゃあ風華ちゃん、食べてみてくださいな」
「お任せください!」
と言って、フォークで小さく切って一口。
「バリ! ベリベリ! ムシャア!」
木を食ってるようなクソ効果音やめろ!
「スゴイです! この倒木、チョコ味です!」
でしょうね。
それから今度は雪化粧をしたような粉砂糖に包まれた、ケーキっぽくない食べ物が映し出される。
「こちらはシュトレンですわ。ケーキというより菓子パンですわね。ドイツでクリスマスの時期に食べられるものですわ」
「クッ、中二心が疼きますね」
中二病はドイツ語が好きだからな。
風華が一口食べる。
「クッ、右眼が疼く! これはホワイトアイススノーパワーが覚醒するに違いないです……!」
そそられない単語の羅列やめろ。
で。
みんなでケーキを食べる時間。それをニヤニヤ眺めるだけの視聴者。これが幸福というやつか。
俺が哲学的なことを考えていると動きがあった。
「あ、ちょっとそこ、イチャイチャしない!」
ビッキーの視線の先では、お天気お姉さんの一人が風華にケーキをあーんと食べさせていた。
その一人とはSNSフォロワートップの人だ。たぬき顔で巨乳、漫画アニメゲームやプラモ作り、カードゲームが趣味で弱男受け抜群の女である。
でも風華も顔とスタイルなら負けていない。顔のどのパーツを取っても美しく、それが完璧なバランスで配置されている。
アイドルグループならどちらがセンターに立っても映えるだろう。ま、俺がプロデューサーならビッキーをセンターに据えますけどね。
俺がバカなことを考えていると黒子のスタッフが包装紙に包まれた大小様々な物を運んできた。
「続いてはプレゼント交換のコーナーですわー」
拍手が巻き起こる。
立方体のくじ引き用の箱がビッキーに渡された。
「皆様に事前に持ってきていただいたプレゼントに番号を振ってありますわ。今から一人ずつクジを引いていただいて、出た番号のプレゼントを貰えますの。もし、自分の番号が出た場合は引き直しですわー」
わーわー、と子供のように盛り上がる。
さっそくクジを引いていき、フォロワートップの巨乳たぬき顔お姉さんはバスグッズが当たった。お風呂配信してくれないかな?
他はぬいぐるみ、化粧品、高級ワインなどが当たっていった。
残るプレゼントはビッキーのと、風華のだけになった。
「それじゃあ次は風華ちゃん。一応、クジを引いてくださいな」
「私か響さんのどちらかを貰えるということですね」
どっち引いてもビッキーのしか貰えねぇよ。説明聞いてなかったのかよ。
風華は試合前のボクサーのように手をプラプラさせたり、首を必要以上に回したりしている。当たり決まってんだから早く引けよ。
「ほいっ!」
間抜けな掛け声とともにクジを引いた。
「きたぁぁ! 響さんのですぅ!」
はい。既定路線。
渡された厚みのあるA4サイズくらいの包みを開ける。中には上下セットの服が入っていた。
「フリーサイズのルームウェアですわ」
モコモコの素材で上の服にはキツネの顔が描かれている。ビッキーってキツネ顔だけど自分に似てるから買ったのかな? だとしたらカワイイ。
「響さんに似て悪そうでカワイイキツネさんですねぇ」
「悪そう、は余計ですわね」
「あ、待ってください。これ有名ブランドのやつじゃないですか!」
「そうですわね。ちなみに私のと色違いでお揃いですわ」
ふぅん、ちょっと重いか? まぁ女同士だしセーフか。俺なら人妻とお揃いなんて嬉しいけど。ビッキーってたまにお茶目な一面見せるよな。そこが良いんだけどさ。
「じゃあ今度これ着て二人でごんぎつねごっこしましょう!」
「しませんわ」
バッサリ。仲良いからこそできる芸当だな。
「それじゃあ最後は私ですわね。風華ちゃんのプレゼントを貰いたいと思いますわ」
残った辞書くらいの大きさの小包みを取り、リボンを解く。
「……これは」
ビッキーが眉根を寄せる。
「響さんのカレー三個パックです!」
ビッキーのパッケージのレトルトカレーだ。カレーぶち撒け事件の後、会社の偉い人の意向で作られたグッズのようなものである。
よりによってビッキーに当たるとはついてない。いや、ある意味ではついてるか。
「今度作って掛けてあげますね!」
今度はご飯に掛けろよな!
「おだまり」
腹の奥に響きそうな声でビッキーが言った。
で、気を取り直し。
「それでは最後に私達から視聴者さんへプレゼントがありますわ」
なに!? 人妻からのプレゼントだと!?
長机が運ばれきた。上には複数の“ハンドベル”が乗っている。
「今日のためにみんなで練習しましたのよ」
お天気お姉さん達が横一列に並ぶ。美人しかいねぇ。風華も美人だが、今は赤鼻のトナカイだしさすがに微妙だな。
お姉さん達を観察していると、演奏が始まった。クリスマスソングが流れる。
めちゃくちゃ上手いかと言うとそうではないが、ハンドベルの音色の良さと、簡単な曲調のお陰で不快というほどではなく聞くことができた。
これが厳格な音楽コンクールであったなら審査員の眉間に皺が寄り、目尻はみるみる内に吊り上がっていただろうけどな。
それより全国の弱男は服の隙間から脇が見えないか血眼で凝視していることだろう。もちろん俺もである。
目が乾くくらい見ていたが残念ながら成果は得られなかった。ちきしょおおおお!
演奏が終わり、画面外のスタッフから拍手が起こった。
「ということで本日はこれで全てのコーナーが終わりですわー! 参加してくれたキャスター、スタッフ、それと画面の前の皆様もありがとうございましたわー! それでは皆様、よきクリスマスをお過ごし下さーい! メリークリスマース!」
他のお天気お姉さんも画面に向かって手を振りながら声を合わせてメリークリスマスと言った。
トナカイも端っこで言いながら、腕を組んで親指を立てていた。
この後にでもトナカイを鍋に入れて煮込もうぜ。




