第57話 弱男を絶対殺すイベント
冷蔵庫の中か、ってくらい寒いボロアパートで俺は憂鬱な気分になっていた。
それは弱男を絶対に殺すイベントが近づいているからだ。一般的な名称で言うと“クリスマス”である。
嫌でも意識させられるイベント。少しでも町を歩けば耳に入ってくるクリスマスソング、赤白緑で彩られたクリスマスカラーの住居、店頭に並んで存在感を示してくるクリスマスケーキ。
あぁ嫌だ嫌だ。この期間だけ冬眠しときたい。
「……あ、もう時間か」
今日も風華とリモートで話すことになっている。
ちなみに密着お天気お姉さん二十四時の評判はすこぶる良かったらしい。フォロワーもグングン増えた。あー羨ましい。上級国民は何やっても上手くいくんだよな。
俺が嫉妬と怨嗟を脳内で混ぜて洗濯機のようにグルグル回していると、風華がモニターに映った。
「もしもーし、ありゃ、お墓から出てきたゾンビみたいな死にかけの顔をしてどうしたんですか?」
「元々そんな顔なんだよ。それより今日はどんな問題を持ってきたんだ?」
「失礼ですね。ですがお望みならば問題を与えてあげますよ。なんと二十五日にクリスマス特番をすることになったんです」
出たよ。呪いのワードクリスマス。効果、弱男に大ダメージを与える。
「ふぅん、具体的にはなにするんだ?」
「女性お天気キャスターでクリスマスパーティーをやります」
一人だけいた男キャスターはどうしたんだ。弱男向けにシフトしたか。
「へぇ」
正直、あまり見る気がしない。見れば大好きなお天気お姉さんばかりで楽しいだろう。しかし、見終わった後、クリスマスに俺は何をしているのだろうと虚無感が襲ってくるのは間違いない。だから見たくない。
「もちろん響さんも出ますよ」
「ふぅん」
「生足を出したかわいいサンタのコスプレで」
「絶対見る!」
「エサを前に目を輝かせた犬みたいですね」
そうです。俺は人妻の犬です。
「俺、なんかアドバイスした方がいいか?」
「教えたがりおじさんですねぇ」
誰がおじさんだよ。まだナウでヤングな若者だぞ。
「空雄さんは幸運の置物みたいなものですから見守ってくれるだけでいいんですよ」
人をまねき猫みたいにいいやがってよぉ。そんな可愛げねぇか。
「響さんもいいですけど、私のこともちゃんと見ててくださいね」
ニコッ、と笑う風華。目を逸らす俺。ふん、仕方なく見てやるよ。仕方なくな!
「ところで二十六日空いてますか?」
なんで二十六だ? クリスマス当日は仕事として、クリスマスイブは真の彼氏とデートするからかぁ? 寝取られビデオレターの鑑賞会でも始めるんじゃねぇだろうな?
「空いてるが、なんで二十六?」
「それは当日まで秘密です。シュッシュッ」
なんかシャドーボクシングし始めた。なんだ? 殴り殺されるのか?
「またまた話が変わりますけど空雄さんはどういう下着の色が好きですか? トナカイの肉色ですか?」
「茶色なのか赤なのか分かんないライン突いてくんな」
いきなりなんでこんなこと聞くんだ? クリスマス、下着……ま、まさかな。
「それで何色ですか? イノシシ肉色ですか?」
ジビエシリーズやめろ。
「ぴ、ピンクかな……」
「豚肉色ですね」
肉から離れろ!




