第56話 密着お天気お姉さん二十四時3・価値観の変化
密着お天気お姉さん二十四時も終盤に差し掛かっていた。
番組内の時間で午後七時。場面は変わり、雑誌のインタビューを受けていた建物の前に風華がいた。
——この後は何を?
「響さんとご飯ですね」
なに!? ビッキーとご飯だとぉ? 聞いてないぞ。俺も人妻とご飯食べたい。
店が分からないようぼかされた居酒屋が映る。
『華の職業お天気キャスターというと、小洒落たレストランで食事かと思われたが、二人が訪れたのは意外にも大衆居酒屋であった』
と、ナレーションが流れた。もちろん声は風華。
自分で言うな、ナレーター変更しろ。
ビッキーが映る。黒髪短髪キツネ顔。いつ見てもお美しい。
二人が雑談しながら食事をしていると、スタッフがビッキーに質問してきた。
——風華さんに初めて会った時の印象と現在の印象を教えてください。
「そうですわね、初めて会った時は凄い美人が来たなって思いましたわ」
「もー、響さんったら、真実を言わないでくださいよぉ」
うぜぇ。レモンの汁でも目に入れてやれ。
「それで、なんとなく美人は仕事をそつなくこなすイメージがあったのですけれど、蓋を開けてみたらとんでもなく問題児でしたわね」
「響さん!?」
「このままでは解雇されてしまうのではないかと心配していましたの。でも途中から自分の色をどんどん出すようになって、出来なかった仕事も少しずつ覚えて、めきめきと成長して目を見張るものがありましたわ」
「響さん……」
「今の印象は本当に凄いの一言ですわ。相変わらず過激な発言に肝を冷やすことはありますけれど、それもまた風華ちゃんの魅力で、いつの間にか周囲を明るく照らしていますの。これは誰にでも出来ることではないですから私も見習っていますわ」
「響さん……!」
響さんBOTうぜぇな。
「風華ちゃんがようやく世間様にも認知されて自分のことのように嬉しいですわ」
さすがビッキー。優等生な回答ですなぁ。
「響さぁぁん!」
抱きつこうとする風華。
「食事中は大人しくしてなさい」
冷静。さすがですビッキーさん。
で。
まだまだ二人の食事風景が映っていた。
「風華ちゃんの好きな男性のタイプは?」
おい、ビッキーなに聞いてんだよ。
「私の男性バージョンです、と昔は思っていたんですけど、最近は変わりましたね。一緒に居て安心する人がいいです」
……コイツを安心させるヤツはいても、安心するヤツなんて普通の男は無理だろうな。
食事が終わり、解散した。もうビッキー終わりかよー、風華は放っといてビッキーに密着しようぜ。
——これからどこへ?
「私の始まりの場所です」
場面転換。路地にあるなんの変哲もないドブ川が映った。ん? なんか見たことあるな。
——ここは?
「私がゲーム機を落とした場所です」
おい! 俺と出会った場所の近くじゃねぇか!
意識高い番組にありがちな風に吹かれながら遠くを見ている風華の横顔が映る。コイツの場合、どんな顔してても笑えてくるのなんでだろうな。
「この辺りでゲーム機を落として泣いていたら見知らぬ不審者と出会ったんです」
おい、間違ってねぇけど失礼なヤツだな。
「不審者は泣いている私にそっと傘を差し出してくれたんです。そこから色々とあって立ち直ることが出来たんですよね。今でも不審者さんには感謝しています」
そう、俺と色々ね。ここを詳しく言うと炎上するからボカシたんだな。風華ってこういう危機回避能力はあるよな。いつもギリギリだけどな!
——風華さんにとってお天気キャスターとは?
「人の生と書いて、人生、ですかね」
頑張って捻った答えを出そうとしたけど、全然深くないのやめろ。
そして場面が切り替わる。
午後十時。社員寮の入口に戻ってきた。
——本日はありがとうございました。
「いえ、こちらこそ密着していただいて楽しかったです」
スタッフはもう二度とごめんだろうな。
「あ、寝起きドッキリとかやらなくて大丈夫ですか?」
——結構です。
「密着二十四時なのに二十四時間じゃなくて大丈夫ですか?」
——大丈夫です。
面倒くせぇこと聞くなよ。スタッフかわいそう。
「じゃあゲームでもしますか! 新しく買った対戦ゲームで、ボコボコにする相手を探してたんですよ!」
——もう帰って。
ギャハハ! この手の番組でスタッフに呆れられるヤツ初めて見たわ!
風華が渋々、帰っていく。その背中には哀愁が漂っていた。
そして最後にナレーターの風華が一言。
『彼女のお天気キャスターの人生はまだまだこれからだ』
打ち切り漫画みたいなこと言わされてやんの。




