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【完結】弱男だけどなぜかお天気お姉さんと付き合うことになった件  作者: 一終一(にのまえしゅういち)
最終章 本物の恋

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第53話 近くて遠い人

 俺こと九森空雄(くもりそらお)三十歳は、今日も動画サイトを漁っていた。


 俺には今ハマっているものがある。遊園地で楽しそうに踊るお姉さん、麻雀をするお姉さん、将棋をするお姉さん、VTuberのお姉さんだ。


 ちなみに全員人妻。やっぱ人妻がいいよな。初めから脳破壊されておけばNTRやBSS(僕が先に好きだったのに)もない。


「やっぱ人妻は最高だぜ」


 お天気お姉さんはどうしたかって? ……あれだ、人妻お天気キャスターの鳴神響(なるかみひびき)ことビッキーのは観てる。


 ……後はウチに入り浸っていた乃和木風華(のわきふうか)二十三歳だが、一応アイツが出る回は観てる。だけど、もう俺がアドバイスする必要もないくらい成長していて、ミスも焦ることも少なくなった。だから別に観なくてもいいと思っている。


 ……風華はすっかり遠い人になってしまったな。元々だけど。


「はぁ、そろそろか……」


 動画サイトを閉じて通話アプリを立ち上げる。


 すぐに画面に風華が映った。胸の辺りまで伸びた長い黒髪を手櫛(てぐし)で整えている。黙っていると美人だ。


 最近は直接会わずにずっとリモート通話をしている。というのも風華は SNSのフォロワー50万越えの人気お天気お姉さんで、俺みたいなちんちくりんと関わっているとバレたらスキャンダルになるからだ。


「あ、あー、聞こえますかー?」


「…………」


「ばぁーか」


「聞こえてるぞ」


「あひ!? な、なんだぁ、だったら返事してくださいよぉ」


 最近、コイツと話すと心が乱される。


 ——キス、しますか?


 花火の日のあの時からだ。おままごとみたいなものとはいえ“無限イチャイチャ計画”なんかに付き合うんじゃなかった。


「随分寒くなってきましたね」


「ああ寒いな」


 季節は冬。日付は十二月一日。


 俺は雪国の先住民族ぐらい厚着していた。


「ちょっと着過ぎじゃないですか? エアコンつけないんですか?」


「着込んだら耐えられるからな。夏とは違うんだよ、夏とは」


「ケチなだけなのに偉そうですねぇ」


 そう言って、半袖の風華は団扇(うちわ)を優雅にあおいでいる。


 どんだけエアコンの温度設定高いんだよ。貴族かよ。


「あ、これは秘密なんですけどね、今度地上波の番組に出ることになったんですよ!」


 また情報漏洩(ろうえい)か。これを週刊誌に売って小銭を稼ぐのもありだな。そんな度胸ないけど。


「へぇ、凄いじゃん。どんな番組なんだ?」


「“密着お天気お姉さん二十四時”という番組です!」


 テレビ屋に辞めておけと言ってやりたい。こんなやつと二十四時間もいたらカメラマンが死ぬぞ。


「もう収録は終わっているので、絶対、ぜーったい観てくださいね?」


 もう終わってたか、そりゃそうだ。カメラマンはきっと亡くなったんだろうな。


 しかしどんどん遠くなっていくな。いや、元々近づいてもいなかった。ただ風華は太陽のような人間で、離れていても熱を感じてしまうから近くにいると勘違いしてしまった。


「あの、空雄さん、元気ないですか?」


 画面越しに顔を覗き込んでくる。


 俺のバカ。察してちゃんの、構ってちゃんかよ。普段通りに接しないと。俺なんかが弱みを見せたらダメなんだ。


「ふん、いつも通りだよ。どうせ俺はいつでも暗く見えるんだ」


 そろそろ風華と距離を置きたい。


 本当に好きになってしまう前に。

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