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【完結】弱男だけどなぜかお天気お姉さんと付き合うことになった件  作者: 一終一(にのまえしゅういち)
第1章 弱男だけどなぜかお天気お姉さんと付き合うことになった件

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第32話 風華と響の天気予報3・フリートーク

 視聴者投稿コーナーが終わり、いよいよ最後のフリートークが始まろうとしていた。


「ここからはフリートークのお時間ですわ」


「時間稼ぎですね」


 うんうん、天気だけだと時間が余ったり退屈だったりするもんね! って言うんじゃねぇよ!


「今日の朝は何を食べたのかしら?」


「今日はぬるいバナナを食べました」


 ぬるいってなんだよ。その形容詞いらねぇだろ。


「ぬるいって……フフッ、常温の、ってことですわよね?」


「ですです。いつもはシュガースポットが出てから冷蔵庫で冷やして食べるんですけど、今日は冷やすのを忘れてたのでそのまま食べちゃいました」


「フフッ、ぬるいバナナって表現いいですわね。今度使おうかしら。フフッ」


 ビッキーがツボにハマっている。カワイイ。


 乃和木が手元のカンペをチラ見する。よしよし、ちゃんと覚えてるな。困ったらカンペを見る。これでパニックを避けやすくなるはず。


「響さんは何を食べました?」


「私はパンと紅茶を摂りましたわ」


 イメージ通り、優雅ですなぁ。


「ちなみに昨日はなにを食べたんですの?」


「夢」


 バクかよ。


「ゆ、夢ですの? そういう商品名ではなく?」


「はい、夢の中で夢を食べる夢を見ました」


 夢多すぎんだろ。ゲシュタルト崩壊するわ。


「すごい発想ですわね。普通は夢なんて言えませんわ」


「エンターテイナーですからね」


 トラブルメーカーだろ。


「私は昨日、寮の近くにあるたい焼き屋さんのたい焼きを食べましたわ」


「あ、道路を挟んで向かい側にありますよね。私も以前、そのお店でたい焼きを食べようと思ったんですけど、近くにいた全裸の犬に持っていかれました」


 野良犬でいいだろ!


「全裸の犬って、フフッ、災難でしたわね。取り返せましたの?」


「死闘を繰り広げた挙げ句、敗北してもう一個持っていかれました」


 負けてんじゃねぇよ!


 ビッキーが口元を押さえて笑っている。かわいい。


「ああお腹が痛いですわ。たい焼きと言えば、私はたい焼きを頭から食べる派なのですけど、風華ちゃんは頭から? 尻尾から?」


「はらわたから」


 腹でいいだろ!


「はらわた……フフッ、その発想はなかったですわ。お腹からかぶり付くってことですわよね?」


「いえ、ナイフで腹を掻っ捌いて中の臓物から食べます」


 アンコだろ!


「臓物……うふふ、風華ちゃんのワードセンス本当に凄いですわ。昔からそうなんですの?」


「自分ではいまいち分かりません。普通に話しているつもりなんですけど人からは言葉選びが悪いと言われたり、逆に面白いと言われたりしているんですよ」


「天性のものなのですわね。凄いですわ」


「ただ、きっかけがあるとしたら幼稚園の頃滑り台から落ちて頭を打って、小学生の頃鉄棒から落下して頭を打って、中学生の頃階段から落ちて頭打ったことでしょうか。頭を打つ度、凄く思考が冴える気がするんですよ」


 頭振ったらカランコロン音がしそう。


「まぁ。頭は怖いですわ。気をつけてくださいな、安全第一ですのよ。……ところで、さっきから見ているものはなんですの?」


「あ、えっとハンペンです」


 カンペだろ!


「はんぺん? ああ、カンペですのね」


「はい、すぐパニックになっちゃうのでお守り代わりに持ってます」


「偉いですわ。ちょっと見せて貰えますの?」


 そう言ってカンペを覗き見するビッキー。


「……なるほど、単語を書いてすぐに思い出せるようにしてるのですわね。じゃあ、これ聞いちゃおうかしら、えっと、お天気キャスターになろうと思ったきっかけは?」


 俺とも話したことだな。


「あっそれはですね、えっと、“げんきぞう”、あっ……」


 そこまで発言して顔を両手で覆い隠した。指の隙間から見える顔が赤くなっている。


 どうした? ……げんきぞう? あっ!


 俺はあることに気付いてイスから転げ落ちそうになった。


「アハハハ! コイツ元気象(もときしょう)キャスターの部分を元気象(げんきぞう)って読みやがった!」


 多分、カンニングペーパーに書いていた元気象の部分で一旦区切って次の行に移ったから間違えたんだろう。


 コイツで初めて心の底から笑ったわ。そうか、コイツに足りないのは恥じらいだったんだよ。パニック顔は散々晒してきたけど本当に求められてるのはこういうちょっとしたハプニングからの照れやほんの少しの焦りなんだよ。


 それを見て俺達視聴者は笑ったり、癒されたりしてまた見ようってなるんだよな。うん、今のコイツは面白いし、かわいい。


 ビッキーは動かなくなった乃和木を見て心配そうに近付いてカンペを覗いていた。すると、全てを察したのか笑いを(こら)えるように口元を押さえながら自分の席に戻った。


「あ、えーフフッ、えっと、申し訳ございませんわ。何が起こったか視聴者の方々に説明致しますと、元気象キャスターと読もうとしたところ、元気象の部分をゲンキゾウと読んでしまったのですわ。元気な象さん、パオーンですわね、フフッ」


 笑っちゃうからパオーンやめてくれー!


 スタッフ達の笑いが響く中、乃和木がようやく立ち直った。


「す、すみません。やってしまいました」


「いいんですのよ。かわいかったから全て許しますわ。パオーン」


「や、やめてくださいよぉ」


 ビッキーがこんなイジるの初めて見たわ。もっとやっていいぞ。今まで散々嫌がらせ受けてきたからな!


「さて、もっとかわいい風華ちゃんを見ていたいところですが、お時間が来てしまいましたわ。風華ちゃん、今日はどうでしたか?」


「本当全然ダメダメで、また響さんに迷惑をかけてしまいました。すみません。でもでも、楽しかったです。今度はもっと漢字や言葉を勉強して皆さんにお天気をちゃんと伝えられるように頑張りたいと思います」


「風華ちゃんなら大丈夫ですわ。あなたの生む言葉の数々は将来きっと唯一無二の武器になると思いますの」


 いいこと言ってくれるなぁ。ここまでビッキーに嫌われてたら終わってたよな。本当一生推せるわ。ありがとうビッキー。


「それじゃあ風華ちゃん、ここまでありがとうございましたわ」


「はい! ありがとうございました!」


 スタッフの拍手が響く中、乃和木はカメラの外へはけていった。


 たどたどしくも何とか終えることができたな。


 コイツにしては頑張ったよ。いつも通りといえばその通りだけど、最後のフリートークは俺が知り合いじゃなければもっと楽しんで見ていられたと思う。


 認めたくはないが才能はあるんじゃねぇかな。お天気お姉さんとしてというより有名人としてさ。こういうパワーワードやキラーワードを反射的に生み出せる人間ってそう多くはない。


 コイツの目指す一番人気のお天気キャスターも夢ではないと思わせるそんな一幕だった。


 ビッキーや社長やプロデューサーのように俺ももう少しコイツの行く末を見ていたい。素直にそう思った。

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