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【完結】弱男だけどなぜかお天気お姉さんと付き合うことになった件  作者: 一終一(にのまえしゅういち)
第1章 弱男だけどなぜかお天気お姉さんと付き合うことになった件
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第11話 食レポ3・弁当交換

 緑豊かな公園。時折吹く強風が木々を揺らす中、仕事で遅れていた人妻お天気キャスターの鳴神響ことビッキーが走り寄ってきた。


 揺れる黒髪ショートはツヤがあって美しい。服は暗めの紺のシャツに明るめの青いジーンズ。


 いつもは白が多いイメージだけど、ピクニックだし、汚れても目立ちにくくするためかな?


 靴は歩き回ることを想定してかシューズを履いている。


 うんうん、どっかのヒール女とは意識が違って素晴らしいね!


 その問題児である乃和木風華の方を見ると、まんじゅうを食べ終わりベンチで休んでいた。自身のポニーテールを団扇(うちわ)がわりにして顔を(あお)いでいる。


 ポニテにそんな使い方があったとは斬新! ってなるか! 絶対手で扇いだ方が風強いわ!


「ふぅー……」


 今度はお腹をさすりながら虚空を見上げて大きく息を吐いた。


 まだ弁当あるのにお腹いっぱいになってんじゃねぇぞ。まぁラーメン食べた後にまんじゅう五個も食ったらそうなるわな!


「遅れてしまって申し訳ありませんわ」


「いえ、全然大丈夫ですよ。うっぷ」


 お前の腹は大丈夫じゃなさそうだぞ。


「お弁当持ってきましたけれど、まだ食べられそうですの?」


「もちろん、まだ腹八分目なのでイケます」


 ほぼ満腹じゃねぇか!


「あはは、あまり無理せずに残してもいいですからね」


 そう言って弁当箱を開けて渡される。


「うわーキレーですぅ」


 おせち料理のように(いろど)られた食べ物たちが広がっていた。


 チマキ、魚の照り焼き、揚げたエビ、サヤエンドウや鷹の爪で彩られた煮物、三色の酢の物、そして複数の野菜の漬物。


 なんなのこれ。お弁当ってこんな色とりどりなの? 俺が学生の頃はババアに米と梅干しだけ入れた弁当箱渡されてオカズは現地調達してこいって言われてたぞ。どこのサバイバーだよ、ってよく喧嘩してたわ。くそっ、これが格差か……!


 ビッキーが朱色に金の模様が入った上級国民箸を乃和木に渡した。


「ではさっそくいただきます!」


 何から食べるか迷いつつも、まずはチマキを開けることにしたようで丁寧に箸で広げた。中にはタケノコ入りの赤飯が入っていた。うまそー!


「うわ、凄い美味しそうですぅ!」


「明後日は端午の節句なのでチマキにしてみたのですわ」


 なるほど。さすがビッキー。季節も考えてるなぁ。


 さっそく赤飯に手をつけた乃和木。


「うん、このお赤飯パンパンですねぇ!」


 それはお前の腹のことだろ!


 ダメだ、パニック状態から復帰出来てない。これじゃあズレた表現しかできないっぽいな。


 俺が頭を抱えていると、乃和木は赤飯に混ざっているタケノコもつまんで口に入れた。


「このコリコリ、タケノコタケノコしてます!」


 逆だろ!


「相変わらず独特な表現ですのね」


 苦笑するビッキー。怒らないだけありがたいわ。ビッキーマジ天使。


 続いて魚の照り焼きをほぐしてつまみ上げた。


「これは高菜ですか?」


 魚だよ!


「それはブリですわ。旬ではないのですけれど、美味しそうなので衝動買いしちゃいましたわ。うふふ」


 はい、かわいい。ビッキーは完璧超人だけど、こういう人間味あるところが人気に繋がってるんだよな。四六時中ピエロの乃和木風華にも見習って欲しいわ!


 そのピエロ女が手皿をしながらブリを食べた。


「あ、美味しいです! 外は上品、中はドロドロです!」


 お家騒動題材の昼ドラかな? 魚に使う表現じゃねぇだろ!


 次にエビを揚げたものを箸で持ち上げて見つめる。


「エビ……はっ!」


 トラブルに次ぐトラブルで頭が真っ白だけど辛うじてエビをシュリンプシュリンプと言っていたことを思い出して生気を取り戻した顔してんじゃねぇぞ! 俺にはバレバレだかんな!


 一口。


「このエビ、シュリンプシュリンプしてますねぇ!」


 シュリンプシュリンプタイムきたー! って、なに言わせんだよ!


「もう一ついただきます! うん、シュリンプシュリンプしてます!」


 うおおおお! なんか俺も謎にテンション上がってきたぁ!


「エビの尻尾は……パーリィパーリィしてます!」


 パリパリだろ! それはパリピのパーティーの言い方じゃねえか!


 次に鶏と里芋の煮っ転がしに手を付ける。隙間から見えるサヤエンドウと、上にまぶしてある鷹の爪が彩りを与えて食欲をそそる。


 まずはよく味の染み込んでそうな鶏肉を箸でつかんで口に運ぶ。


「この鶏、ケセランパサランしてますねぇ!」


 パサパサじゃないからセーフ! んなわけあるか!


 そして里芋へ。


「このお芋、外はツルツル、中は溶けてます!」


 お前の脳みそのことか?


「サヤエンドウはコクってます!」


 煮物の青春が今始まる! ってバカ! どうせコクがあると間違えたんだろ!


「あ、鷹の爪がアクセントになってキックのある味になってます」


 うんうん、パンチのある味の上位互換的なのね。キックはパンチの三倍の威力とも言うし、超美味い的なことだな! ま、コイツがそんな気の利いた言い回し思いつくわけねぇよな! 偶然だよ!


 次に目を付けたのは、大根、人参、錦糸卵の三色なますだ。


「うん、大根さんはトロトロした懐かしい味、ニンジンさんはサラサラした優しい味、卵さんはシャキシャキした刺激的な味です!」


 なに一つとしてピンとこねぇよ!


 最後に漬物へ。


「このお漬物、胃薬みたいですねぇ……」


 今、お前が欲しいものだろ! 幻覚見えちゃってるぞ!


 コリコリと小気味いい音が響く。


「ああ、シャバの味がしますねぇ……」


 お前は元囚人かよ。せめてシャバシャバだろ。シャバシャバでもねぇけど!


「ひと通り食べ終わりましたね。最後に美味しかった鶏さんもう一度いただきます」


 一口含み、目を見開く。


「うわぁこの鶏さん、チャシュチャシュしてます!」


 だからチャシュチャシュやめろ! ここから見たやつなんのことか分かんねぇだろ! いやどこから見てもわかんねぇか! ガハハ!


「うっぷ、ごっつぁんです」


 相撲取りになってんぞ!


「アハハ……」


 ビッキーは苦笑い。怒らないのは多分遅刻してしまったという負い目もあるのだろう。


「あ、じゃあ次は私のお弁当持ってきますね」


 そういや弁当交換だったか。一問一答の時に自炊してるって言ってたし変なものださねぇよな?


 乃和木は弁当らしきものを抱えて肥えたブタのようにのっしのっしと歩いて戻ってきた。


「じゃーん、カレーです!」


 弁当にカレーかよ。たまに学生とかが持ってきて大惨事になるやつじゃん。案の定、少しこぼれていた。


 その時だった。俺の脳に稲妻のごとく、乃和木風華の周囲に散りばめられた今までの布石が駆け抜けた。


 ——強風、足場の悪い公園の土、食べ過ぎて重いお腹、新調したかかとの高いヒール。


 これらから想起されることは一つしかない。嫌な予感。あはは、散々フラグが立っているとはいえ、まさかそんなベタなことしないよな!


「あ、とっとっ」


 や、ヤバい、誰もが予想した通りの結果になろうとしている! 辞めてくれ!


「ふんっ!」


 しかし、乃和木はコケそうになるも相撲取りがシコを踏むかのごとく思い切り地面を叩き、何とか踏み留まった。よくやったぞ! 人生最大の功労だ!


 と思ったら、手元のカレーは宙を舞っていた。


「あ……」


 俺と乃和木の声が偶然重なる。


 スローモーション。人は危険を察知すると時間がゆっくり流れるらしい。


 宙を舞うカレーを観察する。


 あ、結構シャバシャバのカレーなんだー。


 具材は結構細く切ってるなー。


 自炊するってのもあながち嘘じゃなかったのかもなー。


 ……どうでもいいわ!!


 雑なツッコミで現実に引き戻された瞬間。


 最悪なことに、ビッキーの頭にカレーがぶちまけられていた。


 時が止まったかのように誰も動かない。


 ああ頼む、せめて次の一言は乃和木風華の謝罪であってくれ。


 そして、その女がゆっくりと口を開いた。


「あはは、か、カレーも滴るいい女になりましたね……」


 うわぁ、バカ。


 ビッキーの目尻が吊り上がっていく。そして。


「おだまり!」


「す、すみませぇぇん!」


 そして、“※しばらくお待ちください”のテロップと共に空の映像が流れ始めた。


 ビッキーがマヌケ女を説教する音声だけが虚しく流れ続ける。


 今度こそ終わったな。さようなら乃和木風華。

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