09 ご実家
本当に穏やかで楽しい旅でした。
徒歩ですので日程こそひと月以上かかりましたが、ふたりで歩いた日中も、ふたりきりでの野営でも、実に安心・安全な、快適新婚旅行。
そしていよいよ、王都リグラートに到着。
シュレディーケさんは数年ぶりの帰還、
それでも、勝手知ったる地元なのでしょう、王都の複雑な街並みを迷うことなくご自宅へと歩んでいきます。
「ふむ、随分と様変わりしたのだな」
「何というか、雑多ながらも活気がある」
「以前はエルサニア王都城下街のような、もっと整然とした落ち着いた印象の街並みだったのだが……」
お知り合いとか、いました?
「知人には出会えていないが、王都民の顔ぶれ、と言うか、住人から受ける印象が、なぜか以前とは全く異なる、気がする」
「少々落ち着かんな」
早くご自宅に行きましょう。
お父さんのお顔を見れば、街への違和感も吹っ飛びますって。
「……急ごうか」
そしてついに、ご実家に到着。
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なぜか開けっぱなしの大きな門を通り、結構な距離を歩いて、たどり着いたのは玄関の大きな扉。
うむ、元騎士さまとは聞いてましたが、やはり大きなご自宅、ってか、お屋敷。
シュレディーケさん、帰還の声も高らかに、
「ツァイシェル・ジオルシア、ただいま戻りました」
バンッと開いた扉から、飛び出してきたたくましい男性が、
いきなりシュレディーケさんに抱きついた!
「待たせすぎだぞっ、ツァイシェルッ」
声、デカッ。
「痛いですっ、父上っ」
「しっかと鍛えているようで何よりだ」
シュレディーケさん、護身の技でするりと抜け出し、男性の腕を捻りあげる。
たまらず片ひざを地面についた男性、嬉しそうに笑い出す。
「護身の技も磨きがかかっているようで何より」
「良い旅が出来ているようだな」
「じゃれるのは程々に、まずは紹介したい人が」
スイッと立ち上がった男性、僕を見据えるそのまなざし、
その圧、半端無し。
「マクレルガ・ジオルシア」
「ツァイシェルの父だ」
フォリスです。
シュレディーケさんの夫です。
「では、始めようか、フォリス殿」
何をです?