02 お願い
働かざる者、食うべからず。
僕たち狩人の場合は、少し意味合いが違います。
働きが悪い者、つまりヘタクソは、満足に食い扶持にありつくこともできやしないってこと。
僕だって、いつも狩りが成功するってわけじゃないですし。
でも心配御無用、大物・レア物を仕留めることさえできれば、食卓もおサイフも、いろいろと余裕ができちゃうのです。
先日、やたらとデカい大いのししの魔物を狩れたおかげで、
お肉の方は在庫過剰ぎみ。
立派な毛皮やデッカい牙も高値で売れて、ふところはかなり暖か。
お陰さまで食材や調味料もいっぱい買えまして、魔導『収納』食糧庫内も余裕たっぷり。
まあ、この『収納』庫は入れた食材が劣化しないので、消費を急ぐ必要はないのですが。
というわけで、シュレディーケさんにも冒険者活動はしばらくお休みしてもらい、
久しぶりにふたりきりでのんびり過ごそうか、という、わくわくのらぶらぶ待機状態。
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「わがままを言っても良いだろうか」
妻の望みを叶える試練は夫としての晴れ舞台。
何なりとお申し付けください、奥さま。
「お願いの前に、まずはその態度について、だな」
「どうも最近のフォリスさんは、浮かれ過ぎというか、がっつき過ぎというか」
「もちろん今の生活を楽しんでくれていることは嬉しいのだが、少々心配になる時もある」
だって本当に楽しいですもん、今の生活。
でも、シュレディーケさんを困らせるのは嫌なので、以前のような孤独な狩人っぽい無口でニヒルなフォリスに戻りましょうか。
「いや、無理に己を偽らないで欲しい」
「私は、そのままのフォリスさんが……好きだ」
僕も、そのままのシュレディーケさんが大好きです。
そのままの生まれたままの姿とか……
「……やはり、自重して欲しい」
善処します……
「わがままというか、お願いしたいのは……里帰り、なのだが……」
リグラルト王国、ですね。
「イーシャさんやロイさんの御尽力のおかげで、あの国が私たちにとっての揉め事の種となる芽は潰えた」
「これを機に、王都リグラートにいる父に、直接結婚の報告が出来れば、と……」
では早速予定を組みましょうか。
リグラルト王国といえばロイさんが村長さんをしている村がある国ですよね。
では、まずはロイさんのお宅に『ゲートルーム』で『転送』かな。
確か、あの村から王都リグラートまでは徒歩だとひと月以上かかる距離。
都市間移動の定期便の馬車を乗り継ぐか、時間をかけてでも徒歩での旅にするか。
『転送』名人のサイリさんにお願いすればすぐにでもリグラートに連れて行ってもらえるのでしょうけど、
できればふたりきりで旅したいな、なんていうのは僕のわがままですかね。
えーと、どうしましょう、シュレディーケさん。
「待て待て、里帰りの旅に乗り気なのは嬉しいが、もう少し落ち着いて欲しい」
「我が家の家計、皆との相談、長旅の前に考えねばならんことが諸々あろう」
「何より、今の私の立場での国を跨ぐ旅ともなれば、リグラルト王国への根回しを、イーシャさんへのおねだりでは無く、ツァイシャ女王様へと直談判せねばなるまい」
「どうか、今一度落ち着いて欲しい」
ぎゅっ
これは自分の気持ちを落ち着けるための、僕からのハグ。
こんな浮ついた気持ちを静めるのに何より効果的なのは、
心からの優しいハグであることは先刻承知の経験済み。
もっとも、逆効果になってますます興奮しちゃうことが無きにしもあらずなのも経験済み。
…………
はい、落ち着きました。
それでは、里帰りの旅、ゆるりと相談しましょうか。