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普通列車

私はしばらく仕事を休むことにした。呉林たちと別れてから、エコールの谷川さんに連絡して体調不良を理由にしばらく2・3週間の休暇を取ることにした。当日欠勤をしたのも初めてとなる。  

3年間。一日も休まず働いていたのに事情が事情なだけに仕方がなかった。谷川さんは「珍しいね」と言ってたっけ。


呉林たちも大学を休むことにしたようだ。

翌日、私は安浦と呉林と3人で林の中にある問題の喫茶店にいた。あの嵐の時と一切変わらずにそれはあった。けれど、違ったところもある。光沢のある木製のドアに「クローズ」と看板が掛けられているところだった。

「閉まっているね。笹井喫茶室」

 と、私は顔に落胆の色をだす。

「そうね。ここのオリジナルコーヒーを何らかで調べれば、何か解るかと思ったんだけど。どうしよう……」

 呉林も見るからに落胆した顔をしていた。恐らく呪いか何かで調べるのだろう。

「定休日じゃないの?」

 安浦は不安そうに言った。しかし、店先の看板には定休日は水曜日になっているし、今日は火曜日だった。

「あ、これを見て」

 呉林が店の窓を指差した。そこには、

{まことに御勝手ながら一週間ほど海外でコーヒー豆を採取してきます。 店主}

 と書かれた張り紙が付けてある。

「どうやら、来週じゃなければ駄目みたいだね。仕事休まなければよかったよ」

 私は愚痴り。谷川さんや中村と上村に悪いことをしたと悔やんだ。けれど、これから何が起きるのかと思うと、仕事どころではない。

 呉林も神妙な顔で、

「でも、昨日のようなことがまた起きるはずよ。これからの一週間で何が起きるかわからないけれど」

「ねえ、ほんとにここのコーヒーが原因なのよね」

 事情を強引に呉林が話したような。安浦は少し不安な声色をして私に問う。

「恐らく、不思議なことで頭が変になるけれど、ここのコーヒー以外に共通点がないはずだし。何かの薬でも入れられたかな?」

 私も少し不安な声色になっているのかもしれない。私は信じられそうもない非日常に直面していて、かなり混乱しそうだった。


 これからどうしよう……。


「あたし、怖くてしょうがないわ。でも、来週になれば、あの電車の出来事が治るのかしら。あたし、気持ち悪いから一週間くらい電車に乗らないようにしようっと」

 震える安浦は単純に、昨日の普通列車での体験だけが、また起きると考えているようだ。

 私と呉林は目を合わせる。呉林は無理に明るい表情を作り、私にウィンクをした。

「あのね、恵ちゃん。そうじゃなくて……」

 呉林が友人の肩に手を置いて、優しく何か言おうとしたが、

「こんな緊急時だし、みんなの携帯電話番号を教え合おうよ。あのようなことが起きたらすぐ連絡し合うために。別にやましい気持ちなんて無いからさ」

 ちょっとはあるが……。

 訂正。もうちょっとある……。

 呉林は頷いた。

「賛成よ」

安浦も賛成した。

私はどうしようもない不安の中、この二人がいる。とても感謝していた。それは呉林と安浦も同じ気持ちだと思える。

 

もし、私一人であの体験をしたとしたら……ちょっと想像が出来ない。恐らく、とてつもない恐怖と混乱の真っ只中、毛布の中などで途方に暮れていただろう。助かったかどうかもわからない。

そして、これから起きることはきっと、不可解で恐ろしい体験。そんなことが何度か起きるのだろうか? 呉林は何が起きるのか知っているのだろうか?

そんな疑問が私の中で渦巻いた。私たちは、晴れない顔で携帯の電話番号を教えあった。それにしてもこんな時だが役得なのかも知れない。奥手の私は緊急な体験をした時の緊張感で、これほど積極的に女性と話せることが出来た。

「この一週間で何が起きてもおかしくないわ。みんな気を付けてね。それと赤羽さん。絶対、変な事では電話をしないでね」

 最後に呉林が釘を刺した。


 あの後、床屋でボサボサ頭を何とかして、今風の髪型にしてもらい。まっすぐ家に帰ると、冷蔵庫からビールを取り出す。あの体験以来、昼間でもコンビニで滅多に飲まない酒を買い。飲んだ。携帯の時計を見ると、午後の三時だった。

「今日は家に籠ろう」

 酒も飲んだし……。

 さすがに一人になると怖かった。もう電車に乗るのも御免だった。

 私は仕方なくテレビを点けて、少し昼寝をすることにした。ベットに横になると、いろいろなことが頭に浮かぶ……あの二人は大学に行くのだろうか、それとも……。あの喫茶店のコーヒーは何故、不思議な体験の原因なのだろうか、違うのだろうか……?

 

 テレビではニュースをやっていた。

「……今入りました情報によりますと、東京都荒川区……町のひまわり商店街で、電気屋からテレビを盗んだ犯人は、店主の横山さん{三十二歳}をハンマーで殴り逃走。警察は強盗……」


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