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南米

 後ろの村の入口から、ゾクリとする視線を感じた。

 振り向いてみると、それは話に聞いたカルダのようだ。

 両の目で私をしっかりと見つめていた。

高齢を思える皺の顔、姿形はこじんまりとしているが、しかし、その目は幾人も殺した殺人者の目というより、数多の骸の上に君臨する女王の目だった。

 背筋の凍りそうなその目で見られると、私は何故か過去に幾度も二人に出会った感じがした。そう悪夢の世界で……。

カルダの隣に青年がいる。その青年も古代文明の王といった風格をしていた。

二人の服装もこの村の長老と比べると豪勢に見える。毛皮はやはり猛獣のそれと解るが、ぶ厚く豊富に着こなして、所々に高価そうな金や銀での輪を散りばめらていた。

 カルダが手を上げると、黒い霧が一斉に霧散した。辺りは松明や炎で燃えている天幕以外、シンと静まり返った。

 カルダが奥の森のところにいる私のところへと歩きだす。青年も後を追った。

 ゆっくりと歩く。その歩き方はなんらかの不思議な威厳が感じられる。


 私の目の前まで来ると、その不気味な雰囲気を私は感じ取った。

「死ぬための訓練はしたか。……こ……この男、起きている」

 青年が私に向かって驚いている。その声は今まで聞いた時が無い。冷たい声だった。

「こ……ここまで連れてきた甲斐があったものよ……。お前はわしの長い時の中……探していた覚醒者だ。200年以上も探したぞ……。この南米にいると思ったのだが……それは間違いじゃった……。ウロボロスが完全に目覚める時が来た。ルゥーダーよ。この者を必ず生贄にするのだ。そうすれば長い年月のわしらの願いがかなうぞ」

 まるで、呪いの言葉を話しているかのような声……喜びの表情のカルダは、隣の王者のような青年に禍々しい笑顔を向け嬉し泣きをしていた。それを聞いて私は流石に頭にきた。けれど、体が恐怖で動かない。後ろにいる呉林姉妹、ディオと村の人々は硬直していた。

「お前をやっと……見つけた。明日に儀式を始めるぞ。一番……残酷な儀式でゆるゆると……すぐに死ぬことを望むまでな」

 カルダは禍々しく泣いている。

 こんな恐ろしい奴らが私たちを招待したのか、と今の心の天秤に怒りと恐怖が芽生える。どちらが大きいかというと、当然、怒りだった。

 どうやら、カルダの木を目覚めさせるためには生贄がまだ必要のようだ。それも私のような夢の世界でも起きていることができる者の。私はここへ来て、本当の解決は、このカルダの説得とか生易しいことでは到底不可能だったのだ。ディオたちの言うような戦の準備や命のやりとりをしなければならなかったのだ。


 ここへ来て、悪夢のような戦が不可避なのが解った。

「待ってな! 明日、こっちからぶっ殺してやるよ!」

 私は気力を振り絞って叫んだ。

 私はボロアパートへ帰ることを必死に考えた。

「赤羽くん! 三日後にするのじゃ!」

 奥の森から硬直から理性と精神力だけで、その呪縛を放ったディオが駆け出して来た。私の隣に来ると、

「カルダさんよ。こちらもまだ準備ができていない。そちらもだろう。ここは矛を一時収めて三日の準備期間が必要じゃろう。それで、双方万全なかたちとなる。本当の戦いができるのじゃ」

 ディオはそのギラギラした目でカルダを挑発した。

「三日も必要ない。明日だ」

 カルダの隣の青年は平然と応じた。

「う……」

 ディオが唸る。しかし、動きだした歯車は止まらない。

「では、明日」

 私が手を振ると、カルダと青年が消えた。

「い、今のは?」

 私が目をパチクりしていると、

「駄目じゃ。こちらの負けじゃ」

 ディオの言葉に私の心に傷が付く。

「何故。俺には力がある。訳ないさ」

「さっき言ってたじゃろう。カルダの魔術で眠らすと……。赤羽くんのさっきの力は、どうやら夢の世界で、起きていないと出来ないのじゃろう」


「ええ、そうよ」

 奥の森で女子供と一緒にいた霧画が駆けだして来て話に割って入った。もう安心だと思い呉林もやってくる。

「赤羽さんの力は、この夢の世界で覚醒することにあるの」

「ならば、尚更負ける。敵はこの村の四倍の規模。そして、赤羽くんは何かの魔術で眠ると、力を失う。それに敵の事を全く知らない。勝機とは幾らか知恵比べでも力比べでも対等でなければ生まれないんじゃ」

「大丈夫さ。何とか寝ないようにするよ」

 ディオは仕方ないといった顔をして、呉林姉妹の手を取り、大急ぎで長老の天幕へと向かう。私も付いて来いと言われたので走る。

「じゃあ。僕たちは村を見てきます」

 渡部が言った。

 角田と渡部は無事な村の人たちを確認する役に回った。

「何か書くものを!」

 ディオはテントに私たちと雪崩れ込むと叫んだ。私は手近かの木の棒を渡して、地面に書いてくれと言った。


 ディオに大声で呼ばれた長老とバリエも走って来る。

「ここが、わしらのいるところじゃ!」

 地面に木の棒で丸を書く。

「そして、ここがやつらのいる所じゃ!」

 

 丸の離れた先に丸を書いた。

「この森のわしらとやつらの正面には、何があるのじゃ。川か谷か……!」

「とても大きな広場が有ります」

 バリエが口を開く。

「それじゃ。その広場には丘はあるか」

「はい。この森を少し抜けると、幾つかの起伏があります」

「起伏と広場か……。やはり、正面きっての戦いしかないか」

 ディオは考え込んだ。

「穴掘りが得意な者はおるかな」

「はい。何十人かいます」

 ディオとバリエの会話の中、私は兵力が足りるのか足りないのか解らなかった。向こうは村は大きいが、黒い霧を何千体もだせるのなら村の大きさは関係ないはず。逆に、黒い霧が数百体しかだせないのなら……。それと、そこの村の人たちは戦いに参加するのだろうか。

「勿論しないと思うわ」

 呉林が私に話しかけた。

「え?」

「要するに、黒い霧だけの数を知りたいのでしょう? カルダの村の人は参加しないわ」

 ディオもこちらに顔を向ける。

「えーと。8千体もいるわ……」

「違うわ。約9千体よ」

 青い顔の呉林の言葉を霧画が訂正する。

「9千体……。こちらはどう見積もっても……約百人」

 ディオは唸る。

「あ。そうじゃ、この村だけじゃない。他の村も協力するとして。して、何人じゃ?」

 長老は静かに言う。

「大きい西の村と斜めの東の村、北の谷の村ならば、協力するじゃろう。全部で5千人くらいにはなるじゃろう」

「こちらのだいたい二倍か。それと赤羽くん。さっきの力はかなり遠くても出来るのかな」

「ええと。恐らく」

 私が自信が無いように言うと、呉林姉妹が当然、可能だと太鼓判を押した。

「何とかなるか」

 ディオはニンマリした。

 

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