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白い城

「南米か。戦うしかないか。……仕方ないかな」

 角田が窓辺で呟く。空を移動する巨大な城はぐんぐんと南米へと向かう。私たちの戦いももうすぐ終わりを迎える。

 食事が終ると、みんなそれぞれ固有のスペースを取ってゆっくりしていた。

 ここは、白い城の食事をした巨大な一室である。

 中央の長いテーブル以外で、みんな寛いでいた。

 この白い城は何階かあるようで、それぞれ居住スペースと何かがあるようだ。呉林はその探検に出ようと、ディオと私と霧画を誘う。

「ディオさん。遅くなったけど、あなたの知識と私たち姉妹の知識を突き合わせましょう」

「解った。ここにサイダーはあるかな」

 ディオは余程サイダーが好きな様子だ。私は霧画の話を聞きたかったので賛同する。

 4人はこの建物の外へロココ調のドアを開け、歩きだす。

「まず、私から話すわ。この世界とは(今の夢の世界ではなく)違う世界にいたのよ。その話からしたほうがいいわ」

 霧画が私たちに話してきた。


 4人は回廊を渡る。

「そこは夢の世界?それとも現実の世界?」

 呉林は裏表の疑問を呟く。

「大きな夢……虚構の世界じゃからどっちでもいい」

 ディオが呟いた。

「私はさっきも言ったけど誰もいない世界にいたのよ。目覚めたわけじゃなくて、あの時、赤羽さんたちが消えちゃって、私だけがポツンといたのね。それから、自宅へと戻ったのだけど、ご存知、真理もいなくて。それどころかコンビニの人や隣人もいなかったのよ。仕方なく私は勉強しながら六週間暮らしていたわ」

「六週間?俺たちの感覚だと。かなり短かったけれど」

 私は時間の食い違いを指摘した。

「そうじゃろう。夢の世界は浦島太郎やSFの宇宙旅行と同じく時間の流れが違うのじゃろう」

 ディオが言う。

「さっき。ディオさんは……」

 呉林の声に、

「あだ名じゃし、ディオでいいぞ」

 ディオは色が変色した赤いジャケットのポケットから飴を取り出し、口に放り込む。

「ディオ。さっきお姉さんが虚構の世界へ行ったと言ったわよね? どういうこと?」

 ディオはボサボサ頭を掻いて、

「皆それぞれ寝ているのじゃが、誰でも夢という虚構の中にいる。寝たままで日常生活を送っているのじゃ。わしはそう考えるのじゃ」

「え? 私たちは今ここにいて、何も不思議なことなんてないわよ」

 呉林が見るからに動揺した。

 私はこの世界の人が寝ていてみんな夢(虚構)を見ているという仮説を呉林姉妹に話した。


「えーと……」


 呉林が珍しく混乱する。


 目の前に大きい階段が現れた。ロココ式の階段だった。4人は下へと降りる。

 霧画が解り易く呉林に話し、何とか呉林は立ち直った。

「それでは何故、今の人類は夢あるいは虚構を見ているのかしら」

 霧画もディオの仮説に感心している。それは素晴らしい思考力からくるものであろう。

 私は呉林姉妹にディオの言う空気の話をした。

「凄い。私と姉さんでもそこまで考えなかったわ」

「ほんとよね。凄いわ。場所が南米なら有り得るわ。その仮説が当たっていればこの白い城は南米に行くことが直観だけでなく確定するもの」

 あの呉林姉妹が驚いている。私は何やら予め知っているための高揚感が出てきた。

「じゃが、現実なんて最初の一度きりで、それからは全て虚構の世界かも知れない」

「現実を守る神の力が最初から無効化されるなんて、恐ろしいとしか思えなくなるわ」


 霧画が唸る。


「現実を神が与えてくれているとして、その力を破壊しようとはシャーマンはかなり残酷じゃな。しかし、現実も残酷じゃ。どちらも残酷過ぎる。……死ぬほど空腹になると餓死をするのと同じじゃ」

 ディオの言葉に霧画が目を見開き、

「でも、夢の世界の方が毎日、何百万、何千万と生命が死んでいるの。夢の中で生命を失うという夢はありふれているから。それが、現実になると人類は完全に死滅するわ」

「夢の世界でも現実の世界でも良いことがある。両者を天秤に掛けると、どちらが得か一目で解るはずじゃ」


「いいえ、夢は危険なものよ」

「ちょっと、姉さん! それからディオも! ……困ったわね」

 ディオと霧画の討論は尽きることがないと判断した呉林は仲裁に入った。

 ディオの考えは余りにも深さを探求するような考え方だ。まるで、言語や論理の梅を泳いでいるみたいだった。

「あ、でも夢のそのまた夢では、どうして五感があるの。物体に触ったり、匂いを嗅いだり、怪我をしたり」

 呉林は今度サイダーを買ってあげると言いながら疑問を呈した。

「恐らく」

 ディオは私の方を見た。私はサイダーと弁当の話を呉林姉妹に教えた。

「どうじゃ、お嬢さんたち……わしの仮説は?」

 呉林姉妹は顔を見合わせ、

「私は真理、そして姉さんは霧画でいいわ。それと、ええと。私たちは眠っていながらどこかの場所で、この白い城の食事を食べていたというわけね」

 呉林は真剣な眼差しをディオに向ける。

「そうじゃ。五感が勘違いをしている訳じゃなく、現実の世界で体験をしているのじゃ。眠ったままでな……」


 霧画はハッとして、

「その仮説だと確かに恐ろしいわ。その通りなら、死んだら終りね。精神が歪み過ぎているから、とてもじゃないけど精神が持たないわ」

「そうじゃろう。だから夢の世界で死んではならん。わしの友人も姿を消した」

「ご友人がいたのね。お悔やみ申し上げます」

 呉林は静かに言った。

「でも、ディオの仮説と私たちの仮説を合せると、やはり南米に何かがあるのは確かね。それも強大な敵もセットで……。そして、死んだりしたら助からないか……。これはまずいわね」

 霧画は項垂れ、考え込んだ。いや、人生で一番の難局に出くわしたと言ったところか。

「そうね、姉さん。私たちはやっぱり後方支援しか出来ないと思うけど、頑張りましょう。私たち姉妹の力が必要な時はきっとあるわ」

 呉林は俯いた姉の肩に手を置いた。それは美人姉妹の美しさを醸し出す。


「それと、ディオ。私も頑張って勉強したんだけど、ウロボロスという名の蛇がこの世界にいるはずなの。その蛇の話をしましょう。お姉さんも力を貸して」

 呉林が最近の知識を出す。


「ウロボロスという蛇?」

 ディオは流石に首を傾げる。……それもそうだと私は思う。

「蛇はグノーシス主義では、プネウマ的(霊的)な象徴なのだそうだ。或いは原初の混沌でもある」

 ディオの淡々とした言葉に、私は参った。首を傾げたのは知識を持っているのに以外だったからか……。いや、ウロボロスの蛇自体は知らないだけだ。

「ええ……あ、あれ……?」

 今度は少し勉強不足の呉林が参ったようだ。

「そうね。恐らく今のウロボロスの蛇は神聖なプネウマ的なものではなく、原初の混沌だと思うわ。シャーマンがそうしたとも言えるのよね。ウロボロスには意志があるのよ。シャーマンが何らかをして……その意志を悪い方へと変えたのね。結論を早めると、私たちはその悪い意志を持った夢と現実を司る怪物……いえ、神のウロボロスの蛇を、何とか目覚めさせないようにしないといけないのよ。その蛇は今は原初の混沌だから、それを完全に目覚めさせると強力な夢の力で、この世界の現実を破壊する意志を持っている……と考えれるわ」


 背筋をピンとしていられるのは、やはり霧画のすごいところだ。

「そうか。それは厄介じゃな……ウロボロスの蛇か。夢と現実を司る……じゃがどうやって完全に目覚めたら眠らすのじゃ」

「それはシャーマンたちの力で……。後は赤羽さんの力なら……」

 霧画は少し考える。最後の言葉は尻つぼみとなった。

「とにかく、何とかしないと」

 呉林が呟く。

「でも、どうやって何とかするのかな」

 私の何気ない発言に、

「それはすぐに解る」

 そう言うと、ディオは階下を指差した。


 階下へと続く階段を降りると、そこには広大な訓練場があった。勿論、戦いに備えられる。

「相手は好戦的な人ね」

 呉林が唸る。

「そうね。どんな人なのかしら。私、夢の世界は多分これが初めてだけど、さっきの食事といい。こんなにリアルで凄いなんて」

 霧画が恐怖を覚えて呟く。

「南米のどこかの部族のシャーマンなのだから、恐らく好戦的な性格の部族なのじゃろう。赤羽くん。気を付けるのじゃぞ。相手は本気だ。ここまでするのだから、本格的に叩き潰しにくるじゃろう」


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