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ゴルフ場

 休憩が終わり、東に向かってしばらくすると、みんな汗でバケツをかぶったようにびしょびしょの格好になった。疲れてきていた。頭もぼーっとして、これからの重労働どころではない。

「水もないし、池もない。どうしよう。あ、暑いよー」

 角田は疲れ果てた顔つきになって、さすがに弱音を吐いた。

「とりあえず、目的地らしいところに着いたわ」

 呉林は少し先の広大な砂地を指差した。ぼっかりとこれでもかと空いているバンカーだ。かれこれ、休憩をした雑木林から1時間余り東に行ったところだった。

「何で掘るんですか?」

 渡部ももう真っ青でふらふらだ。

「手よ!」

 この灼熱の世界で、炎の広大な砂地を手で掘るのは気が引けるどころか、自殺行為なのでは……。

 私は目が回った。今から水分補給をしに、遥か西へ戻れるワケでもない。呉林がいても、ここで死んでも何も可笑しくはない。どうしても、この灼熱地獄の真っ只中、暑過ぎる砂地に入りたくは無い。グラグラする頭から死の文字を必死で追い出す。

 一瞬、気を抜くと、ここは悪夢ではなく紛れもない酷い現実だった。

「呉林、こんなに広い砂地を手で掘っていくなんて。他の方法は探せないのか! そうでなきゃ……やっぱり、どうしてもっていうんだろ」

 考えたくもない絶望の二文字が頭を過る。もう決死の覚悟だった。

「俺もやるぜ。仕事がある」

「あたしも」

「僕も」

 みんな青い顔で広大な砂地の穴に勇み足になる。高温の砂の地獄へ入って行った。

 私はボロアパートへ帰るために、砂地へ降りた。

 この世界では、絶望とは以外と簡単なのだ。困難に立ち向かわずに元の世界に戻ることを諦めればいい。でも、そんなのは糞食らえだ。

 意地を張って、ただ地獄のようなかんかん照りの中、黙々と砂地を掘り返す。

 呉林は砂地に蹲って灼熱の砂を手で掘り始めた。服が大量の汗で変色しだす。

 

 太陽光で渡部、角田、安浦もあっという間に、服が汗で変色しだした。

 それは、凄まじい高温によって、服や体から湯気が沸く光景だった。

 呉林は手で掘りながら私に言った。

「赤羽さん……もうそろそろよ。頑張って! だんだんあなたの中で仲間が大切になってきているわ」

 呉林はふらふらの体で叱咤し、荒い呼吸でも決して諦めなかった。自分の不思議な力を信じているのは、他でもない彼女自身なのだ。絶対にみんなが助かると、彼女は砂まみれで必死に信じているのだろう。私も死ぬ覚悟だ。

 どれくらい経っただろうか。あっという間に日焼けしそうな太陽光の中、バラバラになって砂地を掘っていた仲間たち、まず、安浦が倒れ、そして、渡部と角田も倒れた。

 呉林は奇麗な茶髪のソフトソバージュと長い爪を、砂まみれにしていた。きっと、私と同じく目の回る吐き気を我慢しているのだろう。

 地獄と化したゴルフ場で10分は経っただろうか。

 それでも、彼女は諦めなかった。

 安浦や渡部、そして、角田は、呼吸も弱弱しくなりだした。

 私はグラグラとする頭で、吐いた。地面の吐瀉物からも湯気がでる。

「あ……赤羽……さん……強い……意志……を……もうちょっとよ」

 彼女は体中の水分を一体どれくらい失ったかで……倒れる。

 辺りはしんと静まり返った。私の他はみんな倒れている。私はもう死を待つだけだった。

「あ……雨……雨でも……降れ……ば」

 出来れば喉の渇きを潤してから死にたかった。

 ポカンと空に口を開けていると、それと同時に冷たい風が吹いた。

 ポツリ。

 空から滴が落ちてきた。

 雨が降ってきた。

 しばらく必死に上を向き、口いっぱいに雨水が溜まると、それを飲む。

私は体の中に水分が行き届くと、勢いよくラクダ色のTシャツを投げ捨てた。砂地を猛烈な勢いで掘り返す。

 

 それでも彼女のことは、見守っていた。倒れている呉林の顔を目の当たりにしていた。私は呉林が途方もなく強く見えた。刑務所で強い意志を持ってと彼女に言われたが、今の私はその半分の意思も持っていないただの小心者のように思えてしまう。

 私は倒れそうになりながら、砂地を掘り返した。汗を振り撒き、やり切れない気持で、最後に地面を殴ると、その拍子に小さい穴ができた。

「じりりりりりー」

 叩いた場所から砂だらけの赤い目覚まし時計がでてきた。

あと一歩だったのだ。

辺りに赤い目覚まし時計の音が鳴り響く。

「こ……これで元の世界に戻れるか……も……」

 雨の中で吐き気を堪え、ふらふらの体を鞭打ち、砂地に埋まっていた赤い古風な目覚ましを振りかざした。


 イースト・ジャイアントは騒然となっていた。中の3人の客が衰弱して倒れたのだ。救急車がサイレンを鳴らして、車の多い道の中央を走る。店内に白い服と白いメットを被った数人の男たちが担架を3本携えて入ってきた。

 3人とも意識不明の重体だった。

「毒でも入っていたのかしら……」

「この店に限ってそんなことは……」

 周囲に野次馬たちができた。



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