性癖
ホラーです。
怖度★★★☆☆
性癖……とは厄介なものだ。三大欲求である性欲。それを満たすためのもの。
エスだエムだというのは可愛いほう。男なのに女装しなくてはならないもの、人に見てもらわないとダメなもの、自身のパートナーを誰かに襲われなくてはならないもの。
そう言うものが生まれつき備わっていては不幸だ。共感を得ることは難しいし、一生隠しながら平凡な睦み合いで我慢するしかない。
ある時爆発しなければ──。
私はそんな我慢が出来ない男だ。自分の性癖は他人に迷惑をかける。だから一生を独身で過ごすつもりだ。
普段は平静を装い、信頼が大事な銀行員をしている。しかしずっと我慢することは体によくない。明日の仕事のために発散させる必要がある。
その我慢は一年。半年。二ヶ月、一週間とバラつきがある。今回は持ったほうだ。前回より10ヶ月と21日。
しかし衝動が押さえられず、車に乗って隣の県へ移動した。
時間は22時が23時に近くなったところ。道に立っている娼婦を見つけた。周りには誰もいない。私は彼女の横に車を止めた。
「ここは寒いわ。隣に乗せて」
「いいとも。さあ乗った。ホテルでいいかな?」
話は早々にまとまって自分の行き着けのホテルと言いながら山道を目指す。
女はこの辺にホテルはないと早々に言ってきたが、実は車の中でしたくなったと言うと、シャワーが浴びれないと文句を言ったが構わない。
やがて誰もいないシーズンオフの別荘地に入って行動を開始した。彼女に襲いかかり、その身を縛り上げる。
「ちょっとちょっと! 縛るのは別料金!」
「うるさい! 大人しくしろ!」
彼女の首に光るナイフを押し当てると、彼女は全てを悟ったのか真っ青な顔をしていた。
そう。私の性癖は行為中に相手に刃物を刺すことだ。簡単に殺してしまっては面白くない。
その絶叫を何度も何度も聞きたい。
早く素晴らしい声で泣いて欲しい。
命乞いをして欲しい。
今までの女がそうしたように……。
「ああああああああーー!!」
◇
私は月夜に青白く写る、元人だったものを眺めていた。
性癖とは厄介なものだ。
全てが終わるとなんと虚しいことだろう。
しかし、あの絶叫は面白かった。これならまた数ヶ月我慢できそうだ。
私が縄を引きちぎったの時の絶望の顔ったらない。
ナイフを持って茫然自失の顔ったらなかった。
鼻に噛みついてやった。
唇を引きちぎってやった。
耳を。指を。性器を──。
マジで最高。満足だ。
車と死体はいつものように処分しておこう。
明日からしっかり地味なOLさんができる。さっさと帰って思い出しながら寝よう。




