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3. 幼くて可愛らしいお嬢様と完璧な従者


『「イヴァン!見て!あちらに可愛らしいウサギがいるわ!」

「お嬢様、そんなに急ぐと転びますよ。それに、ゆっくりと近づかなければウサギが逃げてしまいます。」


 まだ幼く可愛らしいシャルロットは従者の()()()()とともに敷地の奥の細道でウサギを追いかけていた。


「だって、早く追いかけないと見失ってしまうわよ。」


 バラ色の唇を尖らせて従者へ不満を告げるシャルロットは怒った顔もとても愛らしく、手袋を嵌めた手でウサギの逃げた方向を指差した。


「大丈夫ですよ。ウサギの巣穴は既に見つけていますから、ゆっくりと近づいて見てみれば良いのです。」

「あら、そうなの。さすがイヴァンね。」


 この良くできた従者はシャルロットの望みを常に完璧に叶えるべく、下調べや準備を怠らない。


「ほら、お嬢様ここですよ。静かに覗いてみてください。ウサギたちがいるでしょう?」


 イヴァンの指差す木の室にはウサギが巣穴としているらしく数匹の子ウサギが丸まって眠っていた。


「可愛いわね。」


 そう言って辺境伯の娘の印である神秘的な瞳を輝かせるシャルロットを、イヴァンの青紫の瞳が優しく見守っていた。


 

「イヴァン、今日は暑いわね。私、喉が渇いたわ。」

「お嬢様、ここにお茶の準備をいたします。」


 木々の開けたところに敷物を敷いて、イヴァンは持っていたバスケットからガラスのティーセットを準備して、シャルロットの好きな果実水をグラスへと注いだ。


「さすがイヴァンね。とても美味しいわ。大好きなイヴァンもいただいてね。はい、どうぞ。」

「ありがとうございます。お嬢様はとてもお優しいですね。」


 シャルロットは幼い頃の記憶が余り残っておらず、周囲には彼女が誘拐されたことを話すものも居なかった。

 父親である辺境伯がシャルロットの名誉を守るために緘口令を敷いたからだ。


 よって、彼女が不用意に人を毒してしまわぬように自分の体液()を恐れて常に手袋を嵌めているということを知るものは少ない。』










「……ってイヴァン、これ何?この『お嬢様の日記(希望的観測)』ってやつ。」

「ああ、これは私の妄想の産物ですよ。」


 イヴァンの部屋に本を借りに行った際に、机の上に置かれた気になる表紙。

 自分のことが書かれているのではと気になって、パラパラとめくった最初の方に『お嬢様の日記〜幼少期編〜』と書かれた項に先程の文が記入してあった。


「私、こんなこと一度も貴方に言ったことないけど。」

「はい。存じております。ですから、『希望的観測』ときちんと記載しているじゃないですか。」

「しかも、何?最後の方の文。嘘ばっかりじゃない。私が誘拐されたのは身近な人は()()()()()()()、私の汗が猛毒なのも()()()()()()()()()。第一、そんな危なっかしいことを秘密にしておくほうが危ないわよ。貴方だってそんなこと知ってるじゃない。」


 勝手なことを訳の分からない日記という名の妄想記録に書かれて、もうすぐ十六歳を迎えるシャルロットは怒りを通り越して呆れた口調で、従者であるイヴァンに物申した。

 


 


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