54話『色々教える』
マーシャに下着をつけて服を着せてみるとやっぱり少し大きめに感じたが、そこまで違和感はないし問題ないだろう。
「少し形状変化を使って衣服のサイズに合わせましょうか?」
「だめだよ! せっかく色々考えながらその体型にしたんだから、マーシャは極力形状変化は使わないでね」
――上の下着はすでにちょっとキツめだけどなんとかなってるようなサイズだったのに、それで大きくなったら動いたときに破けそうだし……
「かしこまりました。しかし……お兄様は衣類を着ていないのですが、なぜ私は着なければならないのでしょうか」
マーシャが横に並んでいたゴウに顔を向けると、恥ずかしいと言わんばかりに手で顔を覆った。
「ゴウはマッドゴーレムの形状だけど、マーシャは完全にヒト型で作ったからね。ヒトと同じようにしてもらわないと見てる私が恥ずか……こ、困るんだよ」
「なるほど。理解しました。それでは極力形状変化は使わず、お嬢様のようにヒトらしく行動すればいいのですね?」
「おじょ……まぁそうそう、そんな感じでお願いね。それじゃあ夕飯を作るから、マーシャにも覚えてもらおうかな。ゴウは悪いんだけどお掃除お願いね」
「ゴオ」
「かしこまりました」
マーシャと2人で台所へ行き、ある程度道具の使い方などから教えるとこにする。
「そんな凝ったものじゃなくていいから、具材を切って鍋にいれてスープにしたり、串に刺して焼いたりするものから練習しよう」
「わかりました。切るときは道具を使ったほうがいいですか?」
「あー……それくらいなら形状変化でもいいんだけど、道具があるときはそれを使うように慣れておこうか」
そういうと包丁を手に取りキレイに切っていく。
――流石ゴーレム……大きさにばらつきがない……
「次に鍋に水を入れるんだけど、魔力に余裕があるときは魔法で出しちゃおうか。少ない時とかは無理に使わず、井戸とかから汲んでくるようにしてね」
「はい。まだ余裕ですので魔法を使ってみます」
魔法を使うと言ってもマーシャの場合は、声を出すためにすでに風魔法を使っているようなものなのですんなりと発動する。
「少しだけ必要なときもあるから、今みたいなサイズの【ウォーターボール】じゃなくて、コップくらいの量も出せるようにしないとね」
「どれくらいでしょうか?」
そういうと両手を上に向けて前に差し出し、雨粒サイズから桶くらいまでの様々な大きさの【ウォーターボール】を発動していた。
「もう同時発動できるんだ……しかも大きさ違いで……えぇと、それだけ変えられるなら問題ないよ。必要そうな量を判断できるようになればオッケーだね」
――並列起動自体難易度高めなのに、意図的に魔力濃度も調整出来ちゃうかぁ。さすがに魔石を大小4つ使っただけはあるね。
「次に鍋を火にかけるから、薪を持ってきて火をつける」
「はい」
そういうとマーシャの指先から拳サイズの赤い球体が薪に向かってゆっくりと飛んでいった。
――魔力量も多めだしサイズも大きすぎるけど、火はつくだろうしこのあたりも練習だね。
飛んでいった火球は一番下の薪に触れると、積んであった他の薪も包み込むように大きくなり、ボッという音とともに炭化した。
「……うぅーん……火をつけるだけだよマーシャ……」
「まさかこんなに燃えやすいものだとは……」
「燃やすためのものだからね?」
――空気の壁を作って周囲に散らないようにしつつ、風魔法も同時に含ませておいて一瞬で熱量を上げたのかな……火柱が上がってないだけで、もうほぼほぼ【ファイヤピラー】じゃん! それを室内でって……危なかった……明日もうちょっと練習させよう……
「えっとね、これくらいでいいんだよ【プチファイヤ】」
指先から1センチほどの火球を作り出してマーシャに真似をさせる。
「それを薪に飛ばして、薪に火がつくまで燃やす。火がついたとわかったら解除すればいいよ」
マーシャの指先にも同じようなものが生成されたので、新しい薪を積みながら成功するようにやり方を教えておく。
「やってみます」
そういうと再びゆっくりと飛んでいって薪に触れる。
今度はおかしな現象も起こらず、少しずつ火が移っていく。
薪に火がついた頃に解除したようで小さな火球は消え、徐々に他の薪へ広がっていった。
「うん、上出来上出来。」
「そういえばお嬢様は魔法名唱えるのですね。私もそうしたほうがいいのでしょうか」
「んー、別に無理に唱える必要はないけどねぇ。マーシャの場合は使うというより、出すって感じだろうし……私が唱えるのは名称があるとイメージしやすくなって正確に発動できるからだね。もちろん無詠唱もできるし、何なら【プチファイヤ】」
手をかざしてそう唱えると、目の前に水の玉が浮かんでいた。
「こんな感じで別の魔法も使えるし。まぁ魔獣とか相手なら別にいいんだけど、知識のあるヒトとか相手にするときに不意をつけて戦い方が広がるからね。まぁすべて無詠唱でも、それはそれで厄介だからどちらでもいいよ」
「なるほどわかりました」
次に味付けなどを教えようとしたが、夜も遅くなってきているため明日教えることにしてササッと調理して食べた。
「ふみゃぁ……」
夕飯の後お風呂のお湯を張る用の魔法だけ練習してもらい、私はそれにゆっくり浸かっていた。
最初は熱すぎたので水を加えたため、いつも入るときに比べて水量が多いが。
――マーシャには解析系も出来るようにしたし、味見させつつ覚えてもらったら料理も問題なくこなせそうだね。
台所での学習能力の高さを思い出し、マーシャにつけた機能のことを考える。
「味見といえば……一応物も食べられるようにしてるし、それを肥料とかに出来ないかなぁ……これなら隔離保存できてたゴウもできるかもしれないし、ご飯を1人で食べるより楽しそうだもんね。朝からはできないから、お昼からそのあたりも試してみようかなぁ」
ふぅっと息を吐きつつ、顔が沈まない程度に湯船に浸かる。
ミリアリアの頃から使っていた浴槽なので、今のミリーが足を伸ばして浸かろうとすると、ほとんど沈んでしまうのだ。
――それにしても耐性ポーションなしでマーシャと接してたけど、ゴウと同じように普通に話せるなぁ……自分で言うのも何だけど、ヒトと変わらない見た目で作ったし、ちゃんと言葉も喋るのになんでだろ……自分で作ってゴーレムってわかってるからなのかな?
湯船から頭をちゃんと上げてパシャっと顔にお湯をかける。
――もしくはヒト限定でこうなる呪い的なものにでもかかってるのかな……いやぁ、ミリアリアの頃にかかっててもおかしくないと思う反面、あのミリアリアが呪いなんてかかるのかという疑問が……まぁ現状こうなってるからどうしようもないんだけど……
「しばらくマーシャと暮らしているうちに、リルたちとも同じように話せるかなぁ……ウップゥ……そうだよ耐性ポーション飲んでないんだから深く考えちゃだめだよ……」
浴槽の縁にもたれかかってうなだれつつ、気持ち悪さが引くのを待つ。
そうしているとマーシャがドアをノックして入ってきた。
「どうかしましたかお嬢様」
「い、いやなんでもないよ」
「そうですか」
――お嬢様、お嬢様なぁ……貴族の娘とかはメイドや執事にそう呼ばれるみたいだけど、私がそう呼ばれることになるとはなぁ……やってもらおうとしてることもメイドみたいなものだし、あれなんだけどさ……そうだ、どうせならそういう気分を味わうのも悪くないね!
「あ、マーシャ、背中洗ってくれる?」
「はい。かしこまりました」
そういうとそのまま入ってこようとするので、衣類が濡れないように丈が短めなワンピース状の服以外は脱がせてから入ってもらう。
「こちらで洗えばよろしいのですか?」
作っておいた石鹸の瓶と布をマーシャに渡すと、液体石鹸を染み込ませた布を背中に当ててゆっくりと擦ってくれる。
「あはは、なんか変な感じ」
「なにか間違いましたか?」
「ううん、洗ってもらうってなかったから、不思議な感じだなぁと」
「そうですか。いつでもお呼びください」
――小さい頃はあった気がするんだけどねー。今はまた子供だけど……ん、人付き合い関係の記憶はないはずなのに、なんであった気がしたんだろ……まぁ200年近く昔のことだし、気にしても仕方ないか。
そう結論付けるとそのことは忘れて、洗ってもらう事を楽しんだ。