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人見知り最強魔女は仲良くしたい  作者: Guen
2章『森の異変』
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50話『忙しくなるかしら』リル視点

 ミリーも参加して行った研究作業の翌日、私は早めにハンターギルドに来ていた。

 今日来る予定の追加の研究員に関する手続きや、多くはないが今日やる予定だった通常業務を終わらせるためである。


 ――ミラス博士もいるから、できるだけ一緒にいないといけないしね。


 研究員が来ることに関する報告は領都のハンターギルドに送ればいいのだが、ミラス博士自身が出発する際に報告しているため、そこまで面倒なものではない。

 通常業務で扱っているものも緊急を要するものはなかったので、通常通りの出勤でも問題なかったかと若干後悔する。


「んー。回ってきてる依頼もいつも通りかしらね。ブルーワイバーンの件は送った直後にミラス博士が直接来たからか、情報は広まってないみたいねぇ……」


 昨日の夕方までに来た書類を確認しながらつぶやく。

 一通り目を通し終わった頃に、ギルドの入り口で声がした。


「あ、おはようございますぅ。はい、たしかに受け取りましたぁ」


 声が聞こえなくなってからギルドのドアを開けて入ってきたのは、受け付け担当のアニーだった。


「リルさん、おはようございますぅ。丁度配達が来たので受け取っておきましたぁ」


 そういいながら手に持っていた書類や手紙を私に差し出してきた。


「おはよう。ありがとね。さて、アニーが来たから私は部屋で続きをするわ」


「はい、わかりましたぁ」


 一応ギルドを開けているので、ハンター達がきてもいいように受け付けで作業をしていたが、他の職員が来たのでギルドマスター室へと上がる。


 窓際においてある机に手紙を置いて、お茶を入れてから席に座ると、質のいい封筒に家紋付きの封蝋がされている手紙が目についた。


「この紋章はオーキンス辺境伯のものね。オルティス家のほうじゃなくて、こっちってことは何かあったのかしら……」


 普通の依頼や連絡等であれば家名の方で送ってくる事が多いのだが、国からの連絡や政治に関することなど、重要な事柄のときは肩書きの方で送ってくる。

 若干緊張しつつ封筒から取り出して目を通してみる。


『連日の豪雨による被害はほぼないとの事だったが、手助けが必要な際は早急に連絡してほしい。

 また、ブルーワイバーンという強力なモンスターの出現について、再び起こりうる可能性や別の強力なモンスターが降りてくる可能性についても分かり次第連絡いただきたい。

 後者に関しては、後発の研究者たちと意見を交換し、報告書をミラス博士に持ち帰ってもらうので構わない』


 というような内容だった。


「援助のことだったかぁ。水害も起きてなかったし、農家の人からも特に悪い報告は上がってないからそっちは平気そうよね。ブルーワイバーンもしくは他の強力なモンスターが降りてくる可能性ねぇ……このあたりは他の研究者たちの意見も聞いてからかしらね。あら? オルティス家の封蝋もあるわね……え、レイシス様から?」


 差出人を確認したあと手紙に目を通す。


『息子が急に訪問して済まない。しかし、そちらの山脈には強力なモンスターが住み着いていることは把握していたが、討伐しなければならないような場所にまで降りてくるとは……山頂は危険にせよ、中腹にすらそのレベルのモンスターがいるのは気になる。儂も訪問することになるやもしれぬが、そのときはよろしく頼む』


 ――まさかレイシス様が来るの!? い、いや、訪問するかもしれないってことだから可能性があるってだけよね? いや、それならわざわざ手紙を書かないか……息子のミラス博士も急に来たし、現当主じゃない分動きに制限は少ないし……これは覚悟しておいたほうがいいかもしれないわね……


 小さく息を吐いてから背もたれに体を預けつつお茶を一口飲む。


 他に届いたものに急ぎのものはなかったため、ひとまず朝のうちにやっておきたいことは終わった。


 ――あとは後発の研究員たちとの意見交換ね……


 と窓の外を眺めていると、ドアがノックされたので返事をする。


「ミラスです」


「どうぞ入ってください」


 そう言うと立ち上がってミラス博士の分のお茶も用意する。

 ドアを開けて入ってきたミラス博士を、入り口近くのソファーに招いて2人分のお茶を机に置いた。


「おはようございます、ミラス博士」


「おはようございます。こんな早くからすみません」


「今日やっておきたかったことは済ませたから大丈夫よ」


「さすが優秀なギルドマスターですね。これといった用があるわけではないのですが、今日の研究が楽しみすぎまして……」


 と苦笑しながら頭をかく。その目元には寝不足からなのか、若干の疲れが現れていた。


「そちらも優秀な博士じゃないの。昨夜はよく休めなかったかしら?」


「あー……ミリー殿とやってた研究作業が、あまりにも普段と違う観点からの作業で興奮してしまいまして……それを思い返したり、忘れないうちにメモを取っておりました」


「なるほど……なら今日は早めに終わるといいわね」


「いやぁ、あの検体を前にして他の研究員がそれを許してくれるかと言われますと……」


「通常のワイバーンの時ですら初日はほぼ寝てなかったものね……」


「あのときは次の日に領都へ運んで、研究はそこそこに解体したのですが……」


「今回のはどうするの?」


「通常個体のワイバーンであれば、以前と同じように明日にはと思いましたが、希少な個体ですからね……搬送中はまともに作業が出来ませんし、少しでも劣化は抑えたいので2日ほどはお世話になると思います」


「分かったわ。ミラス博士は引き続きギルドの部屋を使ってもらうとして、人数が分かり次第近所の宿を手配するわ」


「ありがとうございます」


 立場上貴族の方を普通の宿に一緒に宿泊させるのはまずいので、ミラス博士はギルドの部屋を使ってもらっている。

 普段ただの研究者として扱ってほしいと言っている博士も、そのあたりは分かっているので口を出しては来ない。

 現在の問題はミラス博士が単独で出発したため、後続の人数が分からないというところだ。


 それから少し雑談をしていると、ドアがノックされてすぐに開いた。


「リル姉、今日のことなんだが……お、おはようございます……」


 普段通りの態度で入ってきたカーウィンは、ミラス博士がいるのに気が付いて、若干青ざめた表情で挨拶をした。


「おはようございます。カーウィン殿、今日もよろしくお願いしますね」


 見られたらまずいと思っていたであろう相手は、普段と変わらずニコリと笑って挨拶を返していた。


「こ、こちらこそよろしくお願いします」


「ほかの研究員が来ても私に敬語は必要ないですからね?」


「わかり、あぁ分かった」


 特にお咎めがないことに安堵した様子のカーウィンも席につくように誘い、お茶を用意してあげる。


「それで? カーウィンの要件は?」


「いや、今日もミラス博士の手伝いをしつつ警護ってのは把握してるんだが、時間を聞きそびれたから早めに来た感じだな」


「なるほどね。まぁちょうどよかったんじゃないかしら? 後続が到着してから合流するよりいいでしょ」


「まぁそれはそうだ……」


「あぁ、そうだ、ミラス博士。領都から手紙が届いて、強力なモンスターが降りてくる可能性とかの報告書を作って持って帰ってほしいらしいわ」


「わかりました。ほかに何か書かれてました?」


「援助が必要な際は早急にってくらいかしらね。あ、レイシス様がそのうち来るかもしれないからそのときはよろしく頼むとも来てたわね。家名の方の手紙で……」


「レイシス様って……」


「父上がですか……まぁ前に降りてきたワイバーンに続き、今回は特殊個体ですからねぇ……狩りや戦闘が好きな父上なら来たくなるのも分かりますが……」


「領都付近にもいるでしょうに……」


「もちろん西の山の方に行けばいますが……立ち入りを禁止している区域に自ら向かうなど……」


「まぁ止められるわね……」


「そこで禁止していない地域にブルーワイバーンがでたからってことか」


「そうでしょうなぁ……まぁ父上にも報告したいことはありますし、もしかしたら予想より早く来るかもしれませんね」


「……それはミリーのことかしら?」


「えぇそうです。も、もちろん悪いようにはしませんし、広げたりもしませんので!」


「分かっているわ。レイシス様達になら構わないって言ったのは私だしね」


「それに私自身ミリー殿と親しくなりたいと思っておりますので、機嫌を損ねたくはありませんしね」


「よろしく頼むわね」


「えぇもちろん」


 その後後続の研究員が到着するまで雑談しつつ、3人でギルドマスター室で待機していた。

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