49話『製作開始!』
町からでた私は気配を消して足早に森へと向かった。
ある程度離れたところで振り返ると、カーウィンさんは門番をしていた人とまだお話しているようだった。
一瞬こちらを見たような気がするが、気配を消している状態でこの距離なら恐らく分からないはずなので、本当に気のせいだったのだろうが、軽く手を上げてから森へ入った。
帰りは1人だったため、町へ行くときより早い時間で帰ることができた。
夜ではあるが先日までのような雨雲もなく、月明かりで充分視界が確保できていたのも大きい。
「ただいまー」
森に近い裏口からではあるが自宅に入って声をかけると、大部屋にいたであろうゴウが顔を出してくれた。
「ゴォ!」
「遅くなってごめんね、何もなかった?」
「ゴオ」
私の質問に対し、軽く頷いてくれる。
――といっても結界もあるから、何かあったとしたら卵関係くらいしかないか。
そう思いながら外套を脱いで大部屋の壁に掛けておく。
「ふあぁぁ……無事終わったぁ……」
大部屋の椅子に座って机に突っ伏しながら大きく息を吐く。
――最後もちゃんと声をかけてくれたし、これは成功でいいんだよね? 漏れ出てる威圧感のせいで不安だったけど、なんとかなってよかった……
「ゴー」
顔をあげるとゴウがお茶を持ってきてくれていた。
夕飯を食べてから出たため、お腹は空いていないが、一息入れたかったのは間違いないのでお礼を言って撫でる。
「それにしても大きい博士だったなぁ……」
先程まで一緒にいた赤毛の博士のことを思い出す。
2メートル近い身長と、その背の高さに比例するようなゴツい体付き。そしてその外観からは想像しにくいような、繊細な手付きでの研究作業。
――見た感じ戦闘もしてそうだったんだけど、本人が戦闘は苦手って言ってたなぁ。父親や息子は得意ってことだったけど、私が感じたあの力量の博士にそこまで言われるって相当強そう……
お茶を一口飲みながらそんなことを考える。
「研究作業も楽しかったし、そのうちまた一緒になにかしたいな」
「ゴオ、ゴオ?」
お茶を置いたあと、浴室へと入っていったゴウが戻ってきたので、何をしに行ったのか見に行くと、浴槽を洗ってくれていたようだった。
「おぉ。ありがとね。お外行ったから寝る前に入りたかったんだよ」
ゴウは火属性が使えないため、お湯を入れる事は出来ない。
そのため洗ったあとで私を呼びに来たのだろう。
着ていたものを桶に入れて、体を洗った後にお湯を張った浴槽に入る。
「ふみゃぁぁ。さぁて、急だったけど無事おわったし、明日は何しようかなぁ……」
浴槽の縁にあごを乗せてポケーっと考える。
コンコンとドアがノックされたので返事するとゴウが着替えを持って来てくれた。
「おぉ……ありがと。学習能力はこれ以上ないくらい順調だね」
「ゴオ」
――ゴーレムかぁ……学習能力の刻印は順調だし、硬化魔法の強弱で触れた感覚も調整可能って解ったし……これはアレが作れるかな?
と大部屋に戻るゴウの後ろ姿を見ながら思い付く。
「ねぇ、ゴウ。お仲間ほしい?」
そう聞いてる見ると、ゴウは振り返って首を傾げた。
「弟か妹……いや、妹で確定かな」
卵を持ち帰ってからのゴウは、手が空いているときはずっと卵の様子を気にしている。そんな様子を見ていて思いついたことでもある。
それは完全にヒト形のゴーレムの製作である。
――ゴーレムって分かってるなら、私の人見知りの練習にもなるだろうしね。女性形なのは、ゴーレムだとわかっていてもできれば同性からのほうがいいってだけだけども……
「ゴ、ゴオ! ゴオォ!!」
内容を理解したゴウが肯定の意志を伝えようと、いつもより大げさに頷いて近寄ってくる。
「あはは、分かったよ。それじゃあ、明日から取り掛かろうか」
「ゴオ!」
お風呂から出た私は、夜も遅くなっていたので準備は朝から始めることにして、眠ることにした。
翌朝いつも通り朝食を済ませたあとは、すぐにゴーレムの制作に取り掛かることにした。
「さて! まず体の素材は、ゴウと同じ泥や土をメインでいくよ! ということで、他の準備をしてる間に集めてくれる?」
「ゴッ!」
右手をビシッと上げたあと、普段より速い速度でズルズルと外へと出ていった。
「核となる魔石は、セインの両親から貰ったものを使おうかな。今回は言語系の刻印も必要だし、色々書くからね。セインも生まれたときに知ってる魔力の波長が近くにいたほうがいいかもしれないし」
と、持って帰った卵の両親から貰った素材の方へ向かう。
――素の耐久も上げておきたいから、骨も粉末状にして混ぜるとして……あ、眼も魔石を加工して作ろうか。乾燥対策に水属性、水分過多になったときの対策に火属性をそれぞれに刻印しよう。
それくらいならそんなに時間もかけずに造れるため、製薬室に入って眼球くらいのサイズになる魔石を2つ手に取り、球状に加工する。
その後それぞれに別の属性の魔法を発動できるように刻印し、見た目で分かるように瞳部分の色を赤と青に変える。
両目になるものと、粉砕した骨粉を持って大部屋に戻ると、丁度ゴウがバケツに土や泥を入れて帰ってきた。
「そこに広げていいよ。まだ必要だから引き続きお願いね」
「ゴオ」
使う素材は机の上において、バケツの中身はその近くの床に置いていってもらう。
次にブルーワイバーンの魔石に刻印をするために再び製薬室に入って準備をする。
内容としてはほとんどゴウのときに使ったものと一緒だが、言語知識や両目の火と水、声を出すために入っている風の合計3属性の魔法をある程度使えるようにする。
――といっても魔力効率の関係で、そこまで強力な魔法は使えないだろうけど、ゴウみたいに家事を手伝ってもらえるなら、使えたほうが便利だもんね。
ほとんど一度刻印したものなので、前に比べると短時間で1つ目の魔石への刻印が終わった。
もう片方には魔力タンクとしての役割や、効率化などの書ききれなかった部分を刻印していく。
2つ目の魔石への刻印が終わる頃には、お昼をとうに過ぎていたため、ゴウと一緒に手早く調理して昼食にした。
食べ終わった私は、ゴウが運んできてくれた土の山の近くに座り込み、骨粉を散らしてわぜ合わせた後で造形魔法や硬化魔法などを使い、魔石を埋め込むまで崩れないようにして形状を整えていく。
私の人見知りに対する練習でもあるため、本気でヒトに似せて形を整えていく。
普段は衣類等で見えることのない細部までしっかりと作るので、途中は若干恥ずかしくなりながらも妥協することはしなかった。
――女性形で作ってるからこの程度の恥ずかしさなのかもしれないけど……やっぱなんか恥ずかしいよね……これが男性型でこんな細部まで作ろうとすると……いやいやいや、今はこの子に全力を注ごう。
ある程度形が出来上がってきている下半身部分を、確認しては納得のいくように細かく整えていく。
先に魔石を埋め込まないのは、接続したときの形状を基本形として記憶するようにしたからで、そのほうが万が一破損や欠損した際に、元に戻すのが容易になるからである。
形が崩れないように硬化魔法を使いながらやっているため、横にしては形を確認し、裏返しては形を整え、立たせてみてはバランスを調整したりをひたすら繰り返していった。
そうこうしていると、徐々に室内が薄暗くなり始めたことで、夕方になっていることに気がついた。
作業中はゴウが時折お茶を注いでくれたりしていたため、大部屋から出ることなく制作に没頭していたため、時間間隔がおかしくなっていた。
「ありゃ、もう夕方かぁ……まだ下半身すら完成してないや……まぁかなりこだわってるし、別に急ぎでもないからゆっくり丁寧に作ってあげよう」
そうつぶやくと暗くなる前に部屋のランプに火を灯し、夕飯の準備をするためにゴウと台所へ向かった。
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先日最初から読み直して1〜48話までちょっと修正しましたが、ミリーの口数がへったり、誤字修正程度なので特に変わりはありません。




