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人見知り最強魔女は仲良くしたい  作者: Guen
2章『森の異変』
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42話『ギルドの仕事』リル視点

ちょっと時間が戻って、町に帰ってきたあたりのリル視点からです。

 ミリーの家から帰ってきた後ギルドの前で解散し、私は報告書の作成と手続きをするために建物へ入った。


「あ、おかえりなさぁい」


「ただいま。私がいない間何かあったかしら?」


 いつも受付で事務をしてくれているアニーが、いつも通り微笑んで出迎えてくれる。

 田舎町のギルドなので職員自体少なく、よっぽどのことがない限り最低限の人数しかいない。

 今日は他の職員は帰ってしまっているようだった。


「んー、特にはないですねぇ。雨続きで依頼を受けた方も少ないですし。だから報告待ちは1人で足りそうなので私が受けましたぁ。ほかの方は洗濯しなきゃ! とかいいながら帰りましたねぇ。あ、私も帰ったらしておかないと」


「そう。お疲れ様。後の事務は私がやっておくからあなたも上がっていいわよ」


「わかりましたぁ。それじゃあよろしくおねがいしますぅ」


 そう言うとくるりと後ろを向いて私物のバッグを取り出して席を立つ。

 彼女と入れ替わるようにカウンターの内側に入って、受付の席で書類整理の準備を始めた。


「それではおつかれさまですぅ」


「えぇ、また明日ね」


 彼女が出ていくのを見送った後、報告書用の用紙を広げて記入し始める。


 ――この町には研究者とかいないから、こういうのはまず近場の大きな街に送らなきゃいけないのが手間よね……ここからだと領主様のいる領都が最寄りなんだけど……それでも森を迂回しないといけないから、朝に早馬便で出してすぐ返事をもらえても届くのは夕方前後かしらね。


 昼間に戦ったブルーワイバーンのことを思い出しながら記載していく。


 ――それにしてもミリーは体術もすごかったわね……私の【アイススピア】を避ける相手に、的確に行動阻害をかけたうえで首を切り落とすなんて……さすがよね……


 報告することを書き終えた後、マジックバッグに入っているブルーワイバーンの頭部から鱗を1枚剥ぎ取り、証拠として報告書と一緒に封筒に入れて封蝋する。

 朝一で出せるように準備をした後、ハンターたちの報告帰還待ちの業務を終えてから自宅に帰った。




「私も洗濯しなきゃなぁ。暖炉とかの近くで干してもいいんだけど……せっかく晴れたしね。あぁ……マジックバッグから出したものの整理しなきゃ……」


 帰宅後自室にはいると、整頓されていない衣類や書物が目に入ってきて思い出した。

 少し片づけておこうと書物を取ろうとした時に、念話魔道具が反応しているのが目に入ったためそちらを優先した。


「はいはい、どうしたの?」


『ようやく反応があった! いやいや、どうしたのじゃないが!?』


 魔道具を起動して要件を聞こうとしたら、慌てた様子の声が返ってきた。


「ちょ、ちょっとおちつきなさい? 私も今帰ってきたところなのよ」


『あ、あぁ、それはお疲れ。……じゃなくて、昼間のあれ!』


「昼間……昼間ー……?」


『あのやばい火柱! その町からみえなかったのかよ!?』


「え、あ、あぁー。あぁーあぁーあぁー!」


 当事者というか至近距離で見ていたため失念していた。

 雨のせいでウェルドからは見えなかったようだが、彼らは今日登った山の反対側にある森に住んでいるのだ。その位置から雨雲に穴をあけるような熱量の火柱が見えないわけがなかった。


 ――補助魔法もしっかりかければ、会いに行くのも簡単そうに感じるけれど……あれはミリーの魔法ありきだものね。もっと頂上付近に行けば襲われる可能性もあがるから、うかつな考えは捨てましょう。


『あぁあぁじゃないよ! なんかやばいヤツでも出たのかもと思ったけど、こっちは調べにすらいけないから連絡してんのに!』


「大丈夫よ。あれはミリー……ミリアリア様の魔法だから」


『魔女様があの辺りまできてたのか! ……その言い方だとリルエルもきてたな?』


「そうね、一緒に行ってたわ。ミリアリア様はブルーワイバーンの首をナイフで切断してたわよ」


『……ん? 魔女様がなんでナイフ……?』


「さぁ? なんにせよ行動阻害魔法かけてからは一瞬だったわ」


『さすが……しかしあれは魔女様の魔法だったのか……そうと知っていればもっと眺めていたのに……そこまで来れるなら会いに来てもいいんじゃないか?』


「バカねぇ。ミリアリア様の援護なしに行けるわけないじゃない。補助なしだとどれだけ危険か分かってるでしょ? 私だけで相手できると思う?」


『たしかにそれもそうか……まぁあの火柱が脅威になるものじゃないってわかって安心したわ……まだ怯えてるやつもいるから、みんなに伝えて来る』


「えぇそうね。私はちょっと片付けとかしたいから、今日はこの辺りで切るわよ?」


『……まだ物をちからかしてるのか?』


「失礼ね……普段は整頓してるわよ。マジックバッグが必要で中身をだしただけよ」


『お前は昔から見栄えは後回しな性格だからなぁ……いつか魔女様呼んだ時に幻滅されるなよ』


「ミリーを私の家に……? それは素晴らしい案だけど、まだ先になりそうね……まぁ気を付けるわ……」


『あぁ、それじゃあまたな』


 そういうと魔道具から反応が消えたのを確認して、こちらも布をかぶせておく。


 ――ミリーを招待かぁ……あの威圧感が問題よねぇ……気配を消してもらってる状態で室内だけなら平気かしら? まぁこの案はまた慎重に考えましょう。


 就寝前に散らかっていた物をきちんと片付けてから、夕飯等を済ませた後今日の疲れをとるために早めに就寝した。






 朝一の早馬便に手紙を預けられるように早めに家を出てギルドへ向かった。


 大きな街だと24時間体制で職員が入れ替わりに開けているようだが、この町では緊急時以外そのようなことはない。


「ハンターが少ないからこういう方針なのか、こういう方針だからハンターが少ないのか、どっちかしらねぇ……まぁこう決めたのは私だし、今のところ特に問題は出てないから間違ってはいないでしょうけど」


 まだ誰もきていないホールで独り言をつぶやきつつカウンターへ行き、前日に用意しておいた封筒を持って通りの反対側にある配達屋に向かう。

 このハンターギルトは町の出入り口付近にあるため、配達や商店なども近い。


 辺境とはいえ物流や手紙等の流通はもちろんあるし、ハンターギルドもできたため配達屋の店舗も一緒に出来たのだ。

 それまでは行商人等に頼んでいたのだから、その頃から考えれば便利になったといえるだろう。


「おはようございます」


「おや、リルさんいらっしゃい」


 まだ20代前半くらいの男性があいさつに答えてくれる。


「これ領都のミラス博士宛で早馬で届けたいのだけれど、今日はまだいるかしら?」


「えぇ、まだ出てないのでいますよ。ハンターギルドからですね。少々お待ちください」


 封筒と一緒に代金を渡して証明書を発行してもらう。

 いくらか手数料もかかるので個人宛てのものならここまでしないが、ギルドなどはいざというときのために、きっちりとそのあたりを書いてもらって残しておく。


「前にも出してましたけど、また何かあったんですか? ……先日までの雨のことで何か……?」


「んー、まぁそうねぇ。そんなところだけど、そのうち公表するから他言無用よ?」


「もちろんですよ。こういう商売ですし、秘密はきっちり守りますよ」


「ちゃんと信用してるわよ。まぁ、もう何も心配ないから安心しなさい」


「それはよかったです。はい、こちら証明書になります」


 ホッとしたような笑顔で答えた後、証明書を渡してくれる。


「それじゃあ近々返信が来ると思うから、またよろしくね」


「はい、わかりました」




 ギルドに戻ってほかの職員たちに受付を引き継ぎ、ギルドマスター室で書類の整理をしていると、カーウィンが訪ねてきた。


「これから引き取りに行こうと思うんだが、なにかあるか?」


「これといってないわね。一応人目に付かないように、かぶせる用の布を持っていってほしいくらいかしら」


 ――後で公表することになるでしょうけど、その前にいらない不安を与えるようなことはしたくないものね。


「大きい布な、了解。んでブルーワイバーンの報告はどうなった?」


「一応頭部はあるし、胴体もあなたが取ってきて今日中には保管できそうだから、今朝の便で一応報告は出しておいたわ」


「てことは返事はどれだけ早くても昼間か夕方だな」


「そうね。1日開けた分の書類整理もあるから、やっぱり引き取りにはあなただけで行ってもらうことになるわね……お礼の準備もできてないし……」


「後半が本音じゃないだろうな……まぁさくっと引き取ってくるわ。あの荷台があれば、昼間には帰ってくると思う」


 ――うぐ……確かに昨日はエルフ仲間と会話してたり、片付けしたりして全然お礼を考える暇がなかったし……朝一で出さないといけなかったから、買いにも行けないし作るには時間がなかったもの……


 などと考えつつ、ミリーのところへ行くカーウィンの背中を少し羨ましそうに見つけながら見送った。


「今日は書類整理して、返事が来るまではのんびりできそうね」


 と窓から雨の上がった空を見上げてつぶやいた。

 そののんびりできそうという願望は、数時間後手紙を積んだ早馬が帰ってきたことによって打ち砕かれることになる。

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