41話『触れちゃいけないやつ……』
森でカーウィンさんと合流したあと、合ったときの挨拶以降特に会話とかはなく自宅まで帰ってきた。
近場で採取していたため移動時間自体短めだったし、私との会話はなかったけれど、カーウィンさんがゴウに触ったり、ゴウが荷台に乗ったりして遊んでいたため別に嫌な雰囲気ではなかった。
裏の作業場に荷台を置くと、ゴウにお茶の用意を頼んで一息いれることにした。
「……今日はリルはこなかったんだね」
「あ、あぁ。こいつの報告書とか1日休んだ分の書類整理があるんだとさ」
作業場にある椅子に腰かけて、カーウィンさんが親指でブルーワイバーンの胴体を指す。
「……それならしかたない」
「貴族様関係の人が来るかもしれないって悩んでたな」
――え、なんで貴族が……ん……なんか引っかかるな……思い出せそうで思い出せない感じ……うぅ、モヤモヤする……
モヤモヤの原因が取り払えないことで、なるべく抑えていた威圧感が徐々に出ていたらしい。
「な、なんかあったか……?」
「……なんでもない」
「ゴオ!」
話をしているとゴウがお茶を入れて持ってきてくれたので、2人分注いでもらい作業場のそばの机で飲む。
雨が上がって日も出ているが、年中通して気温が低めなこの辺りでは温かいお茶が染み渡る。
近場とはいえ採取に出て動いた後だったため、水分自体がおいしいのもあるとは思うが。
お茶を飲みつつカーウィンさんが持ってきた台車を眺める。
――底の部分結構擦り減っちゃったなぁ。まぁ即席で作ったやつだし仕方ないんだけどさ。いっそのこと車輪もつけようかな。森の中だと引きにくいかもしれないけど、この板上のものをずるずる引くよりは楽だよね……
「……まだ時間ある?」
「あぁ、明るいうちに持って帰れれば問題ないが」
「……それならちょっと待ってて」
そういうとお茶を一気に飲み干して、以前取ってきて置いてあった丸太の一部の方に向かう。
近づいて風魔法で手早く形状を整えで、部品を次々と作っていく。
「それは……車輪か?」
いつの間にか後ろからカーウィンさんがのぞき込んできていた。
――うわっ、びっくりした……魔法使ってたり形状整えるのに集中しすぎてたか……
「……そう。あの台座につけようかと。長く使ってくれてるみたいだし」
「ありがたいんだが、そんな簡単に改造でき……るんだよな。色々作ってるの見てきたし、これを魔道具化するのもすぐだったしな……」
――あの時は角熊を持って帰るのに楽かなぁと思ったから作っただけで、帰ったら解体するものだと思ってたから簡素なものにしちゃったけど……
「……重さを軽くする刻印は台座自体についてるから、車輪つけるだけなら全然問題ない。もともと耐久を上げる刻印は入ってないし」
「そのあたりは俺にはわからんから、ミリーに任せるわ」
「……わかった」
そう言えばカーウィンさんは魔法関係はあまり知らないんだっけと思い出しながら作業を進める。
部品を抱えて台座の近くに持っていって取り付けの準備をする。台座自体を浮遊魔法で浮かせてもよかったが、カーウィンさんが手伝ってくれるとこのことなので片側ずつ持ち上げてもらう。
今回も釘などは使わず、木槌で打ち付ければ木材の弾力でしっかり固定される形状にしてある。
このサイズで載せられるものを普通に乗せた場合は耐久面で問題がでそうだが、軽量化の魔法が発動しているうちはその心配もない。
引いていない時倒れ過ぎないように足を取り付け、取っ手部分の高さも調整して2輪の台車が完成した。
ついでに魔石に魔力の補給をした後椅子に戻り、ゴウに再度お茶を注いでもらって一息いれる。
「ほんとうにすぐ出来ちまったな……」
「……持ち上げてくれてありがとう」
「いやそれくらいなんてことないが……もうこれで載せてもいいのか?」
「……それで完成だから平気。ゴウ手伝ってあげて」
「ゴオ!」
ずるずるとブルーワイバーンの胴体の方へ向かっていくと、一番重量がかかる後ろ脚よりちょっと腹側へニュニュっと手を伸ばす。
そのまま腕を上げた所でそこまで上がらないため、胴体自体を上に伸ばして持ち上げた。
翼は胴体に乗っているから持ち上がっているが、長めの尻尾が持ち上がるまで上げてしまうと高くなりすぎるため、カーウィンさんが尻尾だけ持って台車へと運んでいく。
「この形状で個の重量を持ち上げられるのかよ……相当重いぞこれ……」
「ゴオー」
なんてことないといっているような声をだして台車へゆっくりとおろす。
カーウィンさんが尻尾を載せるのを確認したあと、いつもの形状に戻って私のところへきたので撫でてあげる。
――ふぅ。一仕事……と言ってもちゃちゃっと車輪つけただけだけど……作業したらちょっとお腹すいたなぁ……お昼にはまだ早いけど、朝移動しながら食べられるように少な目だったしなぁ。
お茶をすすりながら空を見上げて、太陽の位置でおおよその時間を確認する。
――ま、早いけど別にいいか。カーウィンさんも食べるかな?
「……お昼にはまだ早いけど、食べていく?」
「ん、あー……そうだな。今日はこれを運ぶだけの予定で、帰ったら食おうと思って朝は少な目だったからな……」
「……昨日のお肉残ってるからまってて」
そう言うと私は台所に昼食の準備に入った。
「ごちそうさん。あの狼の肉がここまでうまくなるんだな……」
――ああいう肉食の獣たちは独特の臭さがあるからねぇ……私はどっちでも食べられるけど、試してみたい調理法だったからね。
「……臭みを消すのに使えそうな薬草があったから」
「そんなもんあるのかよ……昨日渡した肉ってことは、短時間であれだけ臭みが消せるとかすげぇな……」
「……よかったら持っていく?」
「俺は普通に焼いただけでも平気だが……あぁいや、せっかくだからもらっておくわ。人にあげても平気か?」
「……いいよ」
――この森には結構ある薬草だし、ポーション類にはあんまり使わないものだしね。
台所の棚に置いてあった薬草を持って大部屋に戻り、使用方法を説明する。
「……これを鍋に入れて、浸かる程度水を入れて火をつける。お湯に色が移り始めたらお湯を冷まし、その冷めた水でお肉を洗う。効果時間は短いから調理度に作り直す必要がある」
「お、おう。了解だ。そう伝えておく。」
「……一応薬草としてつかえるけど、刻んだりして生のまま摂取すると、腹痛と吐き気に襲われるから注意」
「毒草の間違いじゃないよな……?」
「……毒と薬は紙一重。どちらも体に影響を及ぼすもの」
「はは、そうだな。ははは。いやぁ……昔、リル姉にも言われたっけな」
――笑ったカーウィンさん初めて見た! いつも驚いてるか気を張ってる表情ばかりだったからなぁ……ご飯食べてる時は違うけど。
「……昔のリルってどんな感じだったの」
「薬師をしてた頃はおばちゃんの姿でなぁ、薬学の知識が豊富だからかみんなから"薬師のばあ様"って呼ばれてたんだ。まだばあ様って年ではなかったんだがな。んで確かに今のリル姉に面影はあるんだが、親族って言われてたからな……俺が小さいころとか、たまに一緒に近場の森まで連れてってもらって、薬草とか植物の知識をおしえてくれたもんだ」
「……昔からいい人だったんだね」
「そう……だな。叱られもしたし、色々面倒も見てもらった……しな……リル姉に……」
後半になるにつれ、どんよりとした雰囲気になっていく。
「……そうだよな……あれもリル姉の前でなんだよな……」
――こ、これは今は触れない方がよさそうだ……
ゴウにお茶のお代わりをこっそり頼み、しばらくうつむいているカーウィンさんと座っていた。




