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人見知り最強魔女は仲良くしたい  作者: Guen
2章『森の異変』
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38話『帰り道』『驚愕の事実』

後半のカーウィン視点はちょっと前からの話になります。

 雨がやんで見晴らしの良くなった風景を、崩れたりしている場所がないか確認しつつ、ブルーワイバーンの死体の一時保管のために私の家に向かっていた。


 その道中で周囲を確認しながら、上の洞窟で起きたことを2人に話した。


「ちょっとまって……色々聞きたいんだけど……翼竜が魔物化ですって?」


「……そう。この魔石が証拠」


「いえ、ミリーを疑うわけじゃないんだけれど、ただのワイバーンじゃなくて、ブルーワイバーンが魔物化とかありえるのかしら……というより念話で意思疎通できるレベルの知能をもってるってなると、そもそもブルーワイバーンなの……?」


 ――そんなこと言われても……自分で戦闘面は秀でていると思うけど、研究者じゃない以上そこまで詳しくないよ……確かに魔物化自体稀だし、その変化を自我で抑えていたっていうのも聞いたことないけれど……


「というか魔物って狂暴だから討伐対象なんだろ?」


「一般的にはそうね……ただ、稀にそうでもない個体がいるっていう研究結果もあるのよ……魔物は知性があるものが多いけれど、獣と大差ないものから、しっかり連携をとれるものまでいるから、ひとくくりにするには大きすぎるのよね……まぁヒト族を襲うっていう根本的なものは魔物共通だと言われているから、危険なものに変わりはないのだけれど……」


「だからそのブルーワイバーンは狂暴になる前に死を選んだのか……」


「我が子を守るためにね……それだけの知性があって、あれだけの魔法が使える翼竜が完全に魔物化していたらって考えると恐ろしいわ……」


「確かに……戦ったやつは魔法使ってこなかったけど、あの雨のような魔法を使っていたやつが攻撃魔法を使ってくるってなると怖えな……」


「……素材とかもうちょっともらっていれば、研究とかにつかえた?」


「そうかもしれないけれど、ミリーじゃなきゃどうしようもできなさそうな話だし、ミリーの判断で問題ないわよ。それに研究とか代わりの元凶にするなら、このブルーワイバーンだけでもかなり珍しいから平気よ」


 私が浮かせているブルーワイバーンの胴体をちらっと見ながらリルが言ってくる。ちなみに切り離された頭部はマジックバッグに入っている。


 ――よかった……連日の雨は私を呼び寄せるためで、その魔法を使えた希少なモンスターの素材を無駄にした!? とか怒られなくて……


「それにそんな経緯だったら、私でも同じことをしたでしょうしね」


「ハンターギルドのマスターとしてはどうなんだ……?」


「前提として、この国にそこまでつくすつもりは毛頭もないもの。それにそんな希少種が見つかったとなれば、この辺りの調査が始まるかもしれないし、そんなのごめんだわ。それにカーウィンならあんな話を聞いても、素材をきれいに全部解体して持って帰るかしら?」


「いやまぁ……さすがに全部持って帰る気にはならないわ……ただ火葬とかの手段がないから処理まではできなかったろうが……」


「その気持ちだけで十分よ」


 ――一緒に送ってあげたかったから衝動的に火葬しちゃったけど、2人とも同じような気持ちでいてくれてよかった。ちゃんとこの子のことも見守っていてほしいなぁ。


 魔石や素材はマジックバッグに入れてもらっているが、生きているものに必ずある、生体魔力のせいで入れられないこの卵は私が大事に抱えている。

 入れられないということは生きている証拠でもあるし、生きていると分かっている以上、もし入れることができたとしても抱いて帰っただろう。


「そういえばその卵はワイバーンのよね? 大きさも20センチくらいでそれくらいだし」


「……あの子たちのだからワイバーンで間違いと思う」


「繁殖させて子供のころから育てるところもあるみたいだし、家族が増えるわねミリー」


 ――家族! たしかにこの子が生まれたらまた賑やかになる! ……ちょっと気になるのは、この子を産んだ時ワイバーンだったのかブルーワイバーンだったのか……ブルーワイバーンはワイバーンからの進化っていうのが一般的な見解だけど……ブルーワイバーン同士の繁殖とか研究できるところはこの国にはないだろうし、もしそうならもっと特殊個体も増えてるよね? ならワイバーンが生まれてくるんだろうね。


 などと考えている横で2人は帰ってからのことを話し合っていた。それを聞きつつ卵を優しくなでながら私の家へ向かっていった。











 俺はブルーワイバーンと対峙していた。もともと後衛のリル姉と、まだ子供なミリーと同じ場所で戦うわけにはいなかなかったためだ。


 1度目はタイミングをつかむために完全に受けにまわったが、2度目の接近でカウンターを狙う。

 降り抜いた剣先は確かにブルーワイバーンの足に当たったのだが、何かにぶつけてよろめいた程度で、切り傷すら負わせるまでにはいかなかった。


「っち! 聞いてた通り鱗は丈夫か。大剣だから切れ味が足りねえのか!?」


 俺が使っている大剣は切れ味はさほど良くない。その重量で無理やり断ち切るような武器だからだ。


 ――リル姉の魔法も簡単によけてやがるな……やっぱ攻撃で近寄ってきたときに当てるのが無難か……


「……【ヘイスト】【ストレングス】【プロテクション】」


 相手の出方を窺っていると、後ろからミリーの声が聞こえて構えていた大剣がスッと軽くなった。


 ――補助魔法か? 大剣の重さを軽く……? いやこれは筋力増強系か!? 気力の身体強化の上にさらにこれだけの効果をあの短時間で付与できるのかよ……


 大剣を握っていた手に力を入れるとミシっという音がしたため、自分の筋力が増幅されたことに気が付く。

 これならいけると思い、次の接近に合わせて降り抜くが、避けられて上空に戻られてしまった。


「しかしらちが明かねえな……リル姉どうにかなんねぇか」


「あなたも避けられるの見てたでしょうに、嫌味かしら? あなたこそ、普段飛んでるモンスターはどうしてるのよ」


 ――別に嫌味とかじゃないが……俺の場合は相手の体力切れで降りてきたり、避けられなくなるまで粘るんだよ……いつ魔法を使ってくるかもわからないから、早めに決めたいのは確かだし何か手はないか……?


 打開策を考えつつブルーワイバーンを睨んでいると、リル姉がミリーにもどうにかならないか聞いていた。


 ――確かにミリーは家を直した時に宙に浮いたりしていたし、空中相手にも何か手段あるのかもしれないが……


「……【グラビティ】」


 後ろでミリーがそうつぶやくと、ブルーワイバーンがバランスを崩し落下してくる。

 急な出来事ですぐに攻撃に移行できなかったが、地面に落ちた所を狙おうと力を入れて構えなおす。


 落ちるタイミングを見計らうためにじっとにらんでいたら、小柄な影が後ろから獲物目掛けて飛んでいくのが見えた。


 ミリーは獲物に接近すると、抜いていた短剣をそのままブルーワイバーンの首筋付近で下から上へ振り抜き、ブルーワイバーンを挟んで俺の逆側に着地する。


 咄嗟のことで驚いていると、ブルーワイバーンが地面に落ちてきて、落ちた衝撃で首だけ跳ねて転がった。


「……は……?」


「……なに?」


「さすがです……」


 ――俺の大剣でまともに傷つけられなかった鱗をあっさり切り裂いた……? というかそんなナイフでよくこの首落とせたな……なにやったんだよ……いやいや、その前に魔法の手際に驚愕するべきなのか? 俺は魔法はよくわからんが、物理の技量だけはぶっ飛んでるのはよくわかる……いやまぁ角熊の時なんて素手だったしな……武器を持っていればこうなるか……


 と無理やり納得しつつ、そのブルーワイバーンの処理をどうするか話し合った。




 ひとまずこのブルーワイバーンはギルドに持って帰ることになったが、荷台は持ってきてないし、リル姉のマジックバッグにもさすがに入らないサイズなので、一旦ミリーの家においてもらうことになった。


「……ちょっと気になるのがいるから見てくる。2人はこの死体見てて」


 移動を始めようとしたときにミリーがそういうので、リル姉と2人で待機することになった。


「……いやそんな気配するか……?」


「私も特に感じないけれど、ミリーが言うなら何かいるんでしょうね……」


「ついていかなくていいのか?」


「ミリーが待っててっていってたし、あなたもミリーの強さはさっき見たばかりでしょ」


「まぁそうなんだが……生身の戦闘もあれだけできて、補助魔法もやばいとはなぁ……」


「あら、ミリーのメインは魔法よ?」


「……は? 補助魔法が使える前衛じゃ……いやそれはそれでおかしいんだが……」


 ――あれだけ動けて短剣を扱えて、メインは魔法……? 木材集めとかしてた時確かに武器とかはもってなかったから、魔法で切ったのか? ミリーは角熊を素手で一突きで殺せるやつだぞ……あれで物理特化じゃなく、本当は魔法メインだと?


 などと考えているとミリーが向かっていった方向で、急に何かが崩れる音とともに巨大な火柱が上がった。


「っ!? なんだあれ!?」


「……この魔力はミリーかしらね……害意的なものは感じないもの……」


「……こんな魔法使えるのかよ……」


 何かあったのかもしれないと、リル姉は唖然としている俺を軽く引っ張るような形で、ミリーを迎えに上っていった。




 無事にミリーと合流したあと、事情を聞きながら山を降りていた。


 ――ただの翼竜ならまだしも、特殊個体が魔物化とかマジかよ……普通のワイバーンですら気を張るし、ワイバーンの魔物化した奴なんて戦いたくねえのに……素材は少しだけとって、ほとんどあの魔法で焼却したのか。というか特殊個体を焼却できるレベルの威力なのなあれ……


「それにそんな経緯だったら、私でも同じことをしたでしょうしね」


「ハンターギルドのマスターとしてはどうなんだ……?」


「前提として、この国にそこまでつくすつもりは毛頭もないもの。それにそんな希少種が見つかったとなれば、この辺りの調査が始まるかもしれないし、そんなのごめんだわ。それにカーウィンならあんな話を聞いても、素材をきれいに全部解体して持って帰るかしら?」


 ――前半は以前聞いてたし、いまさら驚かないが……後半のは俺だって面倒ごとは出来ればお断りだ……しかもあんな脅威レベルの高いモンスターにかかわることになったら、おそらく俺も強制的に関わらされる……


「いやまぁ……さすがに全部持って帰る気にはならないわ……ただ火葬とかの手段がないから処理まではできなかったろうが……」


「その気持ちだけで十分よ」


 リルは優しく微笑みながら俺にそういうと、ミリーと卵のことについて話し始めた。

 卵を大事そうに抱えて優しくなでている姿は、口を開かず気配を消している今は本当に子どものようにしか見えず、思わずほほが緩むのを感じた。

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