36話『元凶発見?』
休憩がてら早めの昼食をとった私たちは、再び山を登り始めた。
――そろそろワイバーンたちが住み着いていてもおかしくない高度までのぼってきたけれど……本当にワイバーンの特殊個体なのだろうか……雨と見間違えるような魔法を使えるってことは、上位種のブルーワイバーンだと思うけど、それでもこんな長期間使い続けられるはずもないし……ブルーワイバーンのさらに上位種とかそれこそ信じられない話だしなぁ……本当はただの天災でしたってことかな……
付近を注意深く見ながら登りつつ、頭の隅でそんなことを考える。
休憩した広場からだいぶ登ってきたが、まっすぐ登れる山ではないので頂上にはまだ遠い。
一応土砂崩れ等の被害がないかの確認もしてるため、なおの事時間はかかっているのだが。
その調子で登っていくと、途中で大きめの気配を察知した。
その気配は微動だにしておらず、距離的にまだ気が付いていない可能性もあるが、見晴らしがいいため断言はできなかった。
――考え事してたからちょっと遅れちゃったけど、これはまだ気づいてないと思っていいのかな……
と反省しつつ足を止めて気配の方向に目線を向ける。
「ミリー? どうしたの?」
「……なにかいる」
「例のワイバーンか!?」
「……わからない」
話していると気配が動きこちらに寄ってきているようだった。
――あ、目線向けたまま話したせいで威圧を感じ取られちゃった?
と苦笑していると目視できる範囲に翼竜の影が迫ってきていた。
雨が降っていてもその全体がはっきりとわかる距離まできて、それは岩の上に降り立ち、私たちを睨んで威嚇しているようだった。
「っ! 確かに青い鱗だな……」
「でもあの本では黒に近い青って書いてあったけど、この薄暗さで青色とわかるなんて……」
その翼竜はこの悪天候で薄暗い中でも、しっかりと青色と判別できる鱗をもっており、この翼竜がアクアワイバーンではなくブルーワイバーンだと判別するには十分だった。
「……おそらく上位種。ブルーワイバーン」
「特殊個体のさらに上位種だと!?」
カーウィンさんが剣を構え、臨戦態勢で睨んだまま声だけを向けてくる。
「そ、そんなものが……」
「……ここまでの天候操作にちかい魔法はアクアワイバーンだと使えない」
「……たしかにそんなこと書いてあったような……」
「おいおい……ギルドマスターなんだからしっかりしてくれよ」
ブルーワイバーンはこちらが話しているうちも、グルルルとうなり声をあげて目を離さず警戒している。
「俺たちで何とかなるなのか……?」
「……平気」
「ミリーが言うならそうなんでしょうけど、なかなかな迫力で気圧されそうだわ……」
――引き継がれてる戦闘知識が余裕だと告げているし、そこまで迫力あるかな……鱗はきれいなのは同意するし、あの本のアクアワイバーンのことだったらちゃんと立派に成長してたよ。過去の私。
のんびりそんなことを考えている隙に、ブルーワイバーンが羽根を広げ、滑空するような形で急接近してきた。
ガチンッとカーウィンさんが大剣で爪を受け止めて振り抜き、それを相手は羽ばたいて避ける。
「あっぶねぇな! 魔法も使うって話だったから警戒してたのに、初手で物理かよ!」
――たしかにブルーワイバーンともなれば、中級の魔法とかも使えるはずなのに、わざわざ長所を使わない意味が分からない……知能もあがり賢くなってるはずだから、何かの策なんだろうか……
カーウィンさんの攻撃を避けたあと、カーウィンさんの真上に移動し、再び滑空攻撃を仕掛ける。
再びガチンっとカーウィンさんが攻撃を受け止めて切りつける。刃先は足部分にあたり、若干バランスを崩したようだがそのまま空へと退避された。
「っち! 聞いてた通り鱗は丈夫か。大剣だから切れ味が足りねえのか!?」
「【アイススピア】!」
カーウィンさんが愚痴りながら構えなおして上空を睨む後ろで、リルが【アイスランス】より小さいが、その分速度の出せる氷魔法で狙ってみる。
しかしこの悪天候と言えどそれを生み出せるブルーワイバーンはそれでも素早く、バサッと1回羽ばたいてそれを避ける。
「素早いわね……【アイススピア】! 【アイススピア】!」
数発撃ちこんでみるが全てひらりひらりと避けられ、避けた勢いのままカーウィンさんを再び狙っていく。
「……【ヘイスト】【ストレングス】【プロテクション】」
念のため私はカーウィンさんに基本的な補助魔法をかけていく。
【ストレングス】は筋力をあげて物理攻撃力をのばし、【プロテクション】は薄い結界のよな膜を張り付けて、直接の物理ダメージを軽減する。
――【ストレングス】は急に強いのをかけると、間隔がずれて大変そうだから弱めだけど、【プロテクション】は普通にかけたから平気かな。
カーウィンさんは、握っている大剣が急に軽く感じたことに若干驚いていたが、補助魔法だとすぐに気が付きカウンター狙いで早めに降り抜く。
しかししっかりと様子を見ていたブルーワイバーンはそれすらかわし、また上空に戻ってしまう。
「補助魔法助かる。しかしなんで魔法を撃ってこない……」
――それもそうなんだけど、なんでカーウィンさんしか狙わないんだろう……自分で言うのもなんだけど、子供の私はどうみてもこのパーティーのウィークポイントだろうに……
「しかしらちが明かねえな……リル姉どうにかなんねぇか」
「あなたも避けられるの見てたでしょうに、嫌味かしら? あなたこそ、普段飛んでるモンスターはどうしてるのよ」
「そういうつもりで言ったわけじゃないんだが……ずっと飛んでいられるやつなんていねぇからいつも持久戦だよっと!」
話ながら再度降りてきたのを狙うが、また失敗に終わる。
「あなたらしいわ……ミリー何とかならないかしら……」
――はっ! 確かに調査に協力するなら討伐も手伝わないと! え、でも倒していいの? 貴重な翼竜だし、後で怒られない?
「この災害になりえる事象を起こしたうえで、私たちを殺そうと狙っている以上仕方ないわ。素材でも送れば研究もできるでしょ!」
と口に出してないはずの疑問に、リルが魔法で狙いながら答えてくれる。
――確かにこの攻撃の仕方はいたぶってるような狩りの仕方みたいだし、逃がす気はない程度には本気の攻撃なんだろうね。何故か魔法使ってこないけど……
「……【グラビティ】」
そうつぶやいてブルーワイバーンの片方の翼を重くしてやると、急な体重の増加でバランスを崩して落下してくる。
落ちてくる場所を確認して身体強化を使い軽く跳んだあと、腰のナイフを取り出して首元を狙って振り抜く。
私が通り抜けた後もそのままブルーワイバーンは落下し、地面に当たると首と胴体が離れた。
「……は……?」
「……なに?」
「さすがです……」
驚愕した表情のカーウィンさんと、感動したような表情のリルの顔を交互に見ながら短剣を皮の鞘にしまう。
――え、倒していいって言ったから倒したんだけど……
「いや、まぁ……そうだよな……武器も持ってればこうなるのか……」
カーウィンさんは苦笑しながら、落ちてきたブルーワイバーンの首の切り口を眺めながら呟く。
「でもこれで調査は終わりそうね。後は一応町へ帰る道中の被害の確認くらいかしら」
「……どうやって持って帰るの?」
「……一度町に戻って例の荷台を持ってくるから、それまでミリーの家においてもらえないかしら……さすがにこのサイズはマジックバッグには入らないわ……」
飛竜やドラゴンに比べればまだ小型だが、人間1人を乗せて飛べる程度にはでかい。中型の魔獣2匹くらいの容量のマジックバッグには確かに入らないだろう。
「……わかった」
そういって少し浮かせて帰ろうとしたとき、小さくて気にしていなかった気配が大きくなるのを感じた。
――え、意図的に隠れてたモンスターがまだいる?
「どうしたのミリー」
「……ちょっと気になるのがいるから見てくる。2人はこの死体見てて」
他のモンスターに食われたり持っていかれない様に2人を残して、大きくなっている気配のもとへ向かった。




