35話『徐々に登る』『……きっと……』
本日2話目です。
いつもより早く起きた私は、耐性ポーションを飲んで早々に着替えて部屋を出る。
――昨夜いろいろ打ち合わせもしたから、今日はちゃんと覚えてたね。
いつもより早く部屋から出てきた私に、若干戸惑っているゴウを軽くなでてから、魔力補給をしてあげる。
ここ最近は寝るときは大部屋の方で待機していて、私の起きる時間を把握し、寝起きとともにお茶をすぐ出せるように準備してくれていたのだが、今日は早く起きたため準備ができておらず、戸惑っているようだった。
「昨日寝るときに伝えるの忘れててごめんね。今日はもう朝食にするからリルを起こしてきてくれる?」
魔力補給の終わったコアをしまうと、「ゴオ!」と右手を上げて返事したあと、廊下へと向かっていった。
台所で朝食の下ごしらえをして鍋を温めていると、部屋着のままのリルが顔をのぞかせた。
「ミリーおはよう。遅くなってごめんね」
「……まだ早朝だし、遅くはなってないから」
窓の外はまだ暗く、これが雨雲のせいか時間帯のせいかと言われれば、体感時間的に後者だと思う。
いまだに降り続いてる雨は、昨日と比べると幾分弱くなっている気がしたので、日が出ているともっと明るくなるはずだからだ。
リルとゴウに手伝ってもらって朝食を作って食べた後、干しておいた探索用の服に着替えて出発の準備をする。
外套を着る前に昨日作っておいた回復ポーション等を取りに行き、長くなる可能性も考えて耐性ポーションも数本持っていくことにした。
――私だけ帰らなきゃいけないのは避けたいし……昼頃には効果切れるだろうから、あったほうが間違いないもんね。
と外套の内ポケットにポーション類をしまい、短剣を腰に付けて外套を羽織り、紐をしっかりと結ぶ。
リルの方も昨日着ていた探索用の服に着替えて、部屋着などをマジックバッグにしまっていた。
「……今日もお留守番おねがいね」
「ゴオ!」
昨日とは違い、しょんぼりとしている様子はなく、むしろ「まかせて!」と言わんばかりの元気な返事をしてくる。
「ふふ、それじゃあゴウちゃん行ってくるわね」
「ゴオ」
リルが軽く頭をなでると右手を上げて返事した後、手を振って見送ってくれた。
「……それじゃあ行こうか」
玄関をしめて移動用に補助魔法をかけて、カーウィンさんが野営している洞窟に向けて出発した。
昨日より強めに補助魔法をつかったため、帰宅時以上に早く到着すことができた。洞窟へ近づくと、カーウィンさんも起きているようで、焚火の明りがちらついていた。
「ふぅ……リル姉たちか……早いな」
洞窟の中をのぞくとカーウィンさんは食べかけの串を焚火にもどし、剣に手をかけつつ警戒した様子だったが、リルと私だとわかると腰を下ろして串を手に取った。
「私の気配くらいはわかるでしょうに……あら? 干し肉じゃないのね?」
「一応外だから念のためな……これは昨日リル姉たちが帰った後、角狼来たんで狩ったやつだ」
「なるほどねぇ。素材は持っていく?」
洞窟の壁際に毛皮や角など、きれいに解体されたものが置いてあった。
「あぁ、見ての通り解体は終わってるし、入るなら持っていってほしいな。食べるか?」
「朝食は食べてきたし、今から作ってるとまた時間かかるから、またお昼食べるときにいただくわ」
「了解、ちょっとまってくれ、急いで準備するわ」
そう言うと、残りの肉を急いで口にいれ、スープで流し込むようにして完食する。
「それじゃあ今日はここからさらに山頂に向けて探索ってことでいいわね」
「……いるとすれば山頂だと思うから、それでいいと思う」
焚火に水をかけたり、角狼の素材をしまいながら準備を手伝いつつ、予定を話す。
カーウィンさんが外套を羽織り、野営道具の入ったバッグはリルがマジックバッグにしまって準備が完了した。
「待たせて悪いな。こんな早くからだとは思ってなかったからなぁ」
「まぁ天気も悪いままだし、朝日がわかりにくいから仕方ないわ」
この辺りから東側はこの国の中心部の方向となっていて、大きな山もないおかげで早朝から日が照って明るくなる。
ただここ数日は、悪天候のせいで日が登っているがどうかくらいは分かるが、おおよその時間すら把握しにくいので仕方がない。
「それじゃあ行きましょうか」
みんなフードを深くかぶり、昨日と同じく気配を消した私が先頭で調査することになった。
この中腹辺りからは岩肌が多く、木々がない分普段の見晴らしはいいのだが、小降りになっているとはいえ、降り続いている雨のせいで視界は悪い。
隠れる場所もない分、森に比べれば異変やモンスターの発見は容易ではあるが、それは敵性存在からしても同じことなので、気を抜かないようにして移動する。
「私たちが帰った後角狼が来たって言ってたけど、とくに何にも出会わないわね」
「まぁ単独だったみたいだしなぁ。倒した後の血の匂いにすら寄ってこなかったから、完全に偶然いあわせたハグレだろう。こんな餌すらいなさそうな場所だし」
――たしかにいくら魔獣化したといっても単独の角狼程度であれば、この山脈のモンスターからすれば逆に餌になっても不思議じゃないもんね。特にこの山脈に住み着いてるのはワイバーン系が主だし、空から仕掛けられたら、隠れる場所もまともにないこんな場所じゃいい的だし……まぁそういうハグレが登ってきて餌になるおかげで、ワイバーンたちが麓まで降りてこないんだろうけどね。
しばらく付近を見渡しつつ、徐々に山頂へと近づいていく。
麓からみて5分の3あたり登ったところに、開けた場所があったのでそこで休憩することにした。
この山にはモンスター達がねぐらにするために掘ったのか、天然でこういう地形がおおいのか、数人で雨宿りしたりする分には丁度いい洞窟が多い。
その1つの洞窟で外套を脱ぎ、持ってきていた水筒から水を飲みつつ一息入れる。
「ほんとなにもいないし、なにもねぇな……」
「何もないならそれに越したことはないのだけれどね……」
2人は軽いため息をつきながら、入り口の方から外を眺める。
「まだお昼には早いけど、この先にちょうどいい休憩できそうな場所があるかわからないし、早めに食べちゃいましょうか」
「あぁ、そうだなあ」
私もコクンと頷くと、リルがマジックバッグからカーウィンさんの荷物と、解体した狼の肉や焚火の材料を取り出す。
「ま、昼飯って言っても簡単なものしか作れないがな」
「干し肉じゃないだけましじゃない」
「それはそうだ」
と言いつつ、串に肉を刺して調味料をまぶして準備を始める。
――お外に遊びに来てるわけじゃないから、しっかりしたものは作れないのはわかるし、こういうのも雰囲気込みで嫌いじゃないかな。
準備してもらった焚火に【プチファイア】と唱えて火をつける。
燃料に安定して火が着くまで燃えた後、フッと小さな火の玉は消え去った。
「やっぱ魔法使えると便利だな……藁とか火種用の材料無しでこの速度で付けられるんだもんなぁ」
とカーウィンさんが感心したように燃え始めた焚火を眺めながら呟く。
しっかり火が付いたのを確認したあと、水の入った鍋を置き、周りに串肉を固定していって昼食の準備自体は終わった。
――こういう野営する時にもマジックバッグあれば、もっと色々便利になりそうだよなぁ……いやこういう雰囲気こそ野営感が出ていいのかな?
焚火にあぶられて焼けていく串肉と、温められていく鍋を眺めながらそう思うのだった。
岩に囲まれた洞窟の中に、翼竜が寝そべっていた。
時折うめき声のようなものを上げつつ、ひとつの卵を大事に抱え、時折目を開けては愛しそうに卵を見つめる。
――もうすぐ……もうすこしだけ……
この翼竜は知能が高く、ひとつだけ残った我が子を大事に抱えなおす。
――大丈夫、あなたは傷つけないわ……
翼竜の周りには割れてしまった卵が2つ分転がっており、その奥には同種の翼竜が首をかみちぎられ息絶えていた。
翼竜はある衝動に駆られ続け、眠ろうにも寝付けない状態で疲弊していたが、最近感じた魔力の主に希望を感じていた。
――きっと……大丈夫……
翼竜はゆっくり瞼を閉じて、徐々に近づいてくる希望を待つことにした。
ミリーがあんまり話さないのは、話してしまうと威圧が出てしまうといわれたため、調査の邪魔にならないよう極力口を閉じてるだけです。
おかげで全然喋れてません……