34話『これの素材……』『授業と予定』
夕飯を食べた後ゴウに再びお茶を入れてもらい、リルに【ヘイスト】の魔法を教えつつお話していた。
「なるほど……こう教えてもらうと、重力魔法のようなところもあるのですね……」
「……速度が上がるのに、移動に使う脚力ですら威力が上がらないのはそういうことだね」
「ハンターの方が使っているのは見たことありますが、自分がかけてもらう状況になったこともなかったので……」
――そりゃそうでしょう……リルはギルドマスターで、基本はデスクワークメインになるだろうし……緊急時に戦闘できるように腕を落とさないために出てたとしても、わざわざそこまでしっかりした編成で行くほどでもないだろうしね。
一通り魔法のことを教えた後は、自分で練習してみることになったため、【ヘイスト】の授業はここで終わった。
「……そういえば今回はマジックバッグもってきてたよね」
「もともと綿を持ってくる予定だったのだけれど、普通に持ってくるとこの雨でダメになっちゃいそうだったからねぇ……カーウィンが倒した角イノシシが入ってるのはついでだけど」
「……ちょっとバッグ見せてもらえる?」
「もちろんいいわよ」
隣の椅子に外套と一緒に置いていたマジックバッグを手渡してくれる。受け取ってそれの魔術構造をまじまじと観察する。
――全体的な素材は魔力を蓄えられる魔物の皮だね。それを表裏の2枚にして、内側に空間魔法系の術式をびっしり書いて固定化した上に付与してるのか……便利だし持ってたような気もするんだけど、この家にはなかったんだよねぇ……
「……マジックバッグって大体こんな感じ?」
「そうねぇ。素材の皮革に直接付与してるものばかりね。」
「……魔石とかは使わないの?」
「魔石で作っちゃうと魔力が切れた後、また同じ空間につなげるのが難しいらしいわ。あと皮革の方が損傷しにくいっていうのもあるようね。このバッグに追加で魔石ってことなら、その魔石の術式を書く場所が少ないし変に干渉するのも問題らしいわ。……それに、ただでさえ損傷に気を付けなきゃいけないのに、爆弾を取り付けるようなものだしねぇ」
――確かに固いものに当たっただけで損傷する可能性のある魔石よりは、皮革の方が長持ちはするのか。斬属性によわいけど、それは結局魔石でも傷つくことだし。それに魔石だと充填しないと減っていっちゃうけど、魔物とかの皮革の場合、生きてる時に魔力補給出来るように大気魔力吸収のようなものが備わってるみたいだし、皮自体にも魔力が溜まるから出力は弱いけど半永久的に使えるのか。その弱い魔力でも空間魔法を固定させられるように、あの量の術式が書き込んであるんだね……
目の前にあるマジックバッグを隅々まで観察して調べていく。
「このマジックバッグを買うときにそういう話を聞けたってだけだけどね。これだと中型魔獣2匹分くらいだけど、それでも相当たかかったのよね……」
「……あると何かと便利そう。今度作ってみる」
「遠出する時とか、家のものとかしまうとすっきりするし……って今作ってみるって言った?」
「……構造は理解できたから、そのうちね」
「専門の職人が数か月かかるようなものだし隠蔽もしてるはずだから、その技術はわからないと思っていたのだけれど……しかもミリーが作るとなると……」
リルが何がブツブツつぶやきだしたが、ようするに空間魔法の付与と、それの固定定着の術式、後はそれを半永久的に持続させられるようにすればよさそうだ。
――鍛冶と一緒で本職とはまた別の手法になるだろうけど、これならなんとか作れそうかな。ミリアリアが魔法のことに関しては知識がすごくて、それを引き継いでるようでよかった……魔物の皮がないから、それをどうにかするか、あえて魔石で作ってみるか……
「……魔物と言えば……明日の調査はどれくらいするの?」
「一応明日は町に帰る予定だから、遅くても今日くらいかしら……」
――正確にはアクアワイバーンは魔物ではなく翼竜だけど、魔法を扱えるということは魔力適正のある素材がとれるし、原因がそいつの場合討伐したら素材少しくれないかな……
「……それじゃあ明日は早めに出て合流だね」
「そうね……何事もなければいいけれど、本当にワイバーンの特殊個体とかだったら厄介だものね……」
「……ちょっと魔法を使ってくるけど、飛べるでかいトカゲだよ?」
「……本気でそう言い切れる人間がどれほどいるのかしら……」
――ドラゴンや飛竜たちに比べると魔法も通るし、皮膚も固くないし頭もよくないからなぁ……ワイバーンを手懐けてるところもあるみたいだし、そこまで強くはないと思うんだけどなぁ……
「道中カーウィンには一応話したけれど、水魔法の耐性が高くて鱗が通常より硬くなってるのよね?」
「……そう」
「それで【ウォーターボール】や斬属性の【ウォータースラッシュ】とか下級魔法を使ってくる。これであってる?」
「……アクアワイバーンならそう」
「ギルドで得てる情報通りのようね……」
――いや私は50年引き籠ってたみたいだし、ギルドの情報の方が最新で間違いないと思うけど……まぁこういう確認も大事かな。
そのまま明日の予定や情報の共有を続け、明日は早めに出ることになったため、その分早く就寝することにした。
私は昼間の調査でのことを思い出しながら湯船につかっていた。
「特に崩れてる場所もないようでよかったわ……まぁこのまま降ってるといずれ崩れそうだけれど、今のところ何もないのはいいことよね……カーウィンも川の増水はあったけれど、氾濫するほどじゃなかったって言ってたし……」
お湯をすくいパシャっと顔にかけて思考をリセットする。
――それにしても気配を消したミリーはさすがだったわね……目の前にいないとわからないもの……気配をある程度察知できる人だと違和感あるだろうけど、気配とか察知できない一般人が見れば本当にただの子供みたいに見えるでしょうね……まぁ声と一緒になぜか威圧を飛ばされるから、知らない人は驚くでしょうけど……
浴槽から出て、ミリーが作ったという新しい石鹸を手に垂らしてみると、森で嗅いだことのあるスッとした爽やかな香りが広がってくる。
「あぁ、いい匂い。一般に売ってるものは高いし、花の香りばかりなのよね……花も嫌いじゃないけれど、やっぱりこういう森の香りが落ち着いて好きだわ」
と洗いながら呟く。
洗い終わった後湯船につかり、隅の方に洗濯桶が目に入ったため、それも終わらせちゃおうと浴槽に寄せる。
――せっかく汗とか汚れを落としたのに、お風呂から出てやるのもね……
浴槽の縁から両手を出し、パシャパシャと洗っていく。
体の大きさ的に量の少ないミリーのから洗っていき、後に自分の分を洗っていく。
「うわぁ……私のズボン結構汚れてたわね……ミリーのを先に洗ってよかったわ……まぁこの雨の中森をあの速度で移動してたし当たり前かしら……もしくはこの洗剤もミリーのお手製だったりするのかしら?」
と徐々に汚れていった水を眺めながら布の水をきっていく。
一通り水切りして空になった桶に再び入れた後、少し湯船で暖まりなおしてから出て体を拭く。
持ってきていたゆったりした部屋着に着替えて、洗濯桶を持って大部屋に行くと、ゴウちゃんがお茶を注いでくれた。
お茶を一口飲んだ後洗濯物を桶から出していると、ミリーが製薬室からでてきた。
洗濯ものは暖炉の近くに干しながら、使わせてもらった石鹸の話をする。
「……気に入ったならあげるよ。材料は近くでとれるし」
「それはうれしいわ。代わりにまた何か持ってくるわね」
――本当にうれしいわ……お返しに何を持ってくればミリーは喜ぶかしら……家具とか作り直してるみたいだし、それらがいいかしらね?
などと考えつつ、洗濯物を干していった。
夕飯を食べ終えた後、【ヘイスト】の魔法授業が始まった。
もともと魔法自体は得意な方で理解自体は出来たため、あとは一人でもなんとかなるところまでいった所で終了した。
少し話をしているとマジックバッグの話になり、ミリーが見せてほしいというので手渡す。
「……マジックバッグって大体こんな感じ?」
マジックバッグを調べつつ質問してくるので、私のわかる範囲で正確に答えていく。
「……あると何かと便利そう。今度作ってみる」
ある程度構造等が把握できたのか、ミリーがそうつぶやく。
――まって、作るっていったかしら……この短時間で構造がわかったの!? いやまぁ……ミリアリア様だし……むしろ持ってなかったのが不思議だわ……しかしミリーが作る魔道具は性能が高いから、これもすごいものができそうね……
「……魔物と言えば……明日の調査はどれくらいするの?」
「一応明日は町に帰る予定だから、遅くても今日くらいかしら……」
――ギルドには明日には帰るって書類だしてしまったし、続けるにせよ一旦は帰らなきゃだめね。
「……それじゃあ明日は早めに出て合流だね」
「そうね……何事もなければいいけれど、本当にワイバーンの特殊個体とかだったら厄介だものね……」
「……ちょっと魔法を使ってくるけど、飛べるでかいトカゲだよ?」
――いやいや……ワイバーンって時点でそこそこ気を張る相手なのに、特殊個体ですらそう言い切れる人物がどれほどいるかしら……確かに通常個体であれば今の私なら倒せるだろうけど……と、一応特殊個体の情報も擦り合わせたほうがいいわね……
ミリーの知っている情報と、ギルドで入手できる情報の記憶を共有していく。
「ギルドで得てる情報通りのようね……」
――特に違いが無いようで安心したわ……この国のギルドだと特殊個体とかまともに相手したことないでしょうし、適当な情報かもしれなかったからね……
一安心した後、さらに明日の予定や情報を共有し、明日のために早めに就寝することになった。