24話『うまく機能してるみたい』『急にはやめてくれ……』
本日2話目です。
リルが作っていたゴーレムは日付が変わって少しした頃に完成した。
後半の保護魔法や、動力用魔力の効率化などはリルが無理だというので、私が手を加えた。その時に思考能力の方も少し弄ったのだが。
完成したゴーレムは足のない這いずるタイプのマッドゴーレムという種類になる。
高さは1メートルくらいで、首はないが目と口らしきものはちゃんとあり、ドロの山に手のようなものが左右から生えている見た目をしている。
魔石自体は本体の中心にあり、主かゴーレム自身が出そうとしない限りは露出することはない。
「ゴオー」
魔力を充填してみると、そのゴーレムの口からそのような声というか音がした。
「ま、まさかこのような方法でゴーレムから音を出すとは……普通のゴーレムは本体の素材同士をぶつけたりして音を出すのに……」
――口の中を空洞にして、笛が鳴るような要領で風魔法で音を出しているだけなんだけどね。せっかく思考能力も付けたんだから、鳴き声みたいなものでもあるのとないのとじゃ印象ちがうもん。
「起動させる際にマスター登録は出来てると思いますが、確認してもらってもいいかしら」
「……右手をあげて」
というと、「ゴッ」という声とともに右手をさっと上げる。
「……お辞儀は出来る?」
というと、「ゴー」と言いながら上半身部分を前に倒す。
――思った以上にしっかりできているなぁ……なんかカワイイ……
「……この人はあなたの親でもあり、私の友達だから覚えておいて」
「ゴオッ!ゴウー」
と、右手をさっと上げて、リルを見た後お辞儀をする。
「え、と、とも!?」
「……うん、友達。だめ?」
「そ、そんなことありません!」
「……なら敬語も禁止」
「う……わ、わかったわ、よろしくねミリー」
「……それじゃあ今日は寝ようか」
「確かにもう夜遅いものね……それでも、この性能のゴーレムを作ったにしては、ものすごく早いんだけれど……」
と後半はうまく聞き取れなかったリルの言葉を聞きつつ、それぞれ部屋に帰って寝付くのだった。
ゴーレムは私についてきていて、ベッドの近くで待機するようだったので、そのままにしておいた。
翌朝目を覚ますと、ゴーレムは昨夜と同じ位置で待機していた。
まだ出来立てで覚えていることが少ないし、命令も特にしていないので今は待機モードのようだ。
「うみゃああああ……おはよう」
と言いつつ耐性ポーションを取り出して口に入れる。
飲みながら一応ゴーレムに魔力補充をしてあげる。
そうしているとドアがノックされた。
「ミリー? おきた? ご飯できてるわよ」
――え、私そんなに寝過ごした!? お客さんにそんなことをさせて申し訳ない……
などと思いつつゴーレムと出ていくと、リルしかいないようだった。
「勝手に使わせてもらってごめんね。昨夜のゴーレムの件の授業料だと思って?」
「……リルはお客さんなのに……」
「と、友達なんでしょ? ならそんなに気を遣わなくていいわよ?」
と恥ずかしいような感じでリルが答えてくれる。
――そっか! 友達! ……なんか照れるなぁ……
「……ありがとう」
「こちらこそ。それでまだ早いからカーウィンは起きてないけど、先に食べちゃう?」
「……せっかくだからみんなで食べたい。ゴーレム、カーウィンさん……奥の部屋にいる人を起こしてきて」
そういうと「ゴッ!」と右手を挙げて客室へと向かっていった。
少しして「うわっ! なんだこいつ!」という慌てたカーウィンさんの声と、ゴスッっという打撃音がした後、カーウィンさんが大部屋に姿を現し、その後ろにゴーレムが付いてきた。
「もしかしなくても、これリル姉が作ってたゴーレムか?」
「そうね。正確には私とミリーが、だけどね」
「結局ミリーも手伝ったのか……いや、寝起きで目に入ったもんだから、つい攻撃しちまったんだが……固すぎないか?」
――さっきの音はカーウィンさんが攻撃した音だったか……もしゴーレムがカーウィンさんを起こすために殴った音だったらどうしようかと思った……
「そりゃあ保護魔法はミリーがやってくれたんだもの。本気で武器をもって攻撃しても、まともにダメージ入るか怪しいんじゃないかしら?」
「またなんちゅうもんを……」
「……ゴーレム、起こしてきてくれてありがとう」
そういうと「ゴオ!」と手を挙げて答えてくれる。
「しかも喋る……というか意思疎通できるレベルの思考能力つきかよ……名前はゴーレムのままなのか?」
――そういえば昨日は遅くなっちゃって、名前とか決める前にねちゃったね……名前……名前かぁ……もともとリルが作ってたんだから、リルにつけてもらおう。
そう言うとゴーレムがリルの方へ向き直りペコリとお辞儀をした。
「いや思考能力高いなこいつ……」
「そんなお願いしますみたいに頭下げられちゃねぇ……私ネーミングセンスないし……安直だけどシンプルに"ゴウ"とかでどうかしら……」
「ゴオ!ゴウ!」
ゴーレムはパタパタと手を振り、頷いて喜んでいるようだった。
――思考能力の刻印の時にちょっと試したことあるけど、予想以上の出来だなぁ……そしてカワイイ……
と眺めていると、リルが朝食の用意をするようで台所に向かったため、運ぶのを手伝うのにみんなして向かうのだった。
昨夜は俺が寝付くまでミリーもリル姉も帰ってきた様子がなかったが、あの二人ならもう大丈夫だろうと、特に気にすることもなかった。
――あった初日であそこまで仲良くなるんだもんなぁ……まぁリル姉だし……ミリーも威圧感抜きにすれば根はいい子そうだもんな……耐えられればの話だけど……
などと考えているといつの間にか寝落ちて、朝になっていたようだ。
部屋がノックされる音で若干意識が覚醒し、薄目を開けているとドアを開けて土の塊が入ってきて、ベッドの近くまでズルズルと近寄ってきていた。
「うわっ! なんだこいつ!」
と反射的に身を起こし、攻撃を繰り出してしまった。
ゴスっと、そこそこ強い打撃音を出しながら土の塊を殴ったが、跡が付かないどころか、気力で強化していたにも関わらず、俺の拳の方が若干ダメージを負っていた。
――かってぇ! なんだこいつ! ……いやここはミリーの家だぞ、危ないやつがいるわけない……土の塊だが、動いてるし……ゴーレムか? てことは昨日リル姉が作ってたやつ? もう完成してたのか……
と殴った右手をさすりながらゴーレムらしきものを観察していると、若干首を傾げた風なモーションをしたあと、ちょいちょいっとついてくるように手を動かした。
――ついて来いってことか……しかしあの仕草……思考能力まで持たせたのか……見た目は土の塊で機能性だけ重視したリル姉らしいが、ここまでするとは……
ゴーレムに促されて大部屋まで行くと、ミリーもリル姉も起きていて、ゴーレムに俺を起こしに行かせたようだった。
寝起きで反射的に攻撃してしまったことを素直に謝ろうと報告すると、保護魔法はミリーが施したようで、武器込みの本気の攻撃でもしない限り問題ないらしい。
――たしかにダメージを与えられた感触はなかったけどさ……魔石の魔力が切れない限り、倒すのは至難の業だな……攻撃面は知りたくないけど、ミリーがかかわったなら間違いなく攻撃性能もありそうだし、またやばいもんを……
と眺めていると名前の話になり、ゴーレムは名付けを委ねられたリル姉に対して、お願いしますと言わんばかりに頭を下げていた。
――声も発するしこの仕草……本当に生きてるみたいな仕草だな……事前情報がなきゃ魔物かと勘違いするわ……
どうやら名前は"ゴウ"で決まったらしい。リル姉らしいシンプルなわかりやすい名前だと思ったが、口に出すと面倒なことになりそうなので黙っておいた。
――手をパタパタして喜んでるみたいだし、感情豊かだなこいつ……だんだんかわいく見えてきたわ……さっきは殴ってごめんな?
と謝りつつ、朝食の準備についていくゴウの頭を軽くなでながら、一緒に台所へと向かうのだった。
ミリーの威圧感とかは大体その他の興味があると軽減されます。"人と話す"が前面の場合緊張等で圧がでるだけで、それより前に刻印だの、教えているだの別のことがあると、気がそっちに行っちゃう単純思考です。
かといって途中で思い出すので圧が戻るんですけどね。